長嶋茂雄氏「寝たきりだと言われてもやる」 聖火リレーへの執念が起こした“2度の奇跡”

王氏(左)、松井氏(右)とともに聖火ランナーを務めた長嶋氏

新型コロナウイルス禍により、1年延期を経た東京五輪の開会式が23日に国立競技場で行われ、17日間の大会が幕を開けた。選手団入場行進後のセレモニーには、長嶋茂雄氏(85=巨人軍終身名誉監督)、王貞治氏(81=ソフトバンク球団会長)、松井秀喜氏(47=ヤンキースGM特別アドバイザー)といった日本が誇る国民栄誉賞の3氏が聖火ランナーとして登場。特に長嶋氏は五輪出場が長年の夢で、奇跡のリハビリの末に念願かなった晴れ姿とあって、深夜の日本列島が大いに沸いた。

「メークミラクル」が本当に起きた。東京五輪の開会式で、聖火を受け渡した長嶋さんの、何とも言えない笑顔を見て、そう思った。

長嶋巨人時代にお世話になった球団関係者や担当記者の人たちは、今でも長嶋さんのことを「監督」と呼ぶ。すでに巨人を退職している元球団関係者は「とうとう監督の夢がかなったね。あれほど五輪大好きな人もそうそういないし、結果的に五輪が1年延期となったことも監督にとってはよかった」と喜んでいた。監督を右手でしっかり支え、サポートに徹していた松井秀喜の存在も頼もしかった。

東京五輪の開催が決まったのは2013年。それから監督の目標は「東京五輪で聖火ランナーをやる」ことになった。2004年に脳梗塞で倒れ、野球日本代表監督として指揮を執る予定だった同年のアテネ五輪に出場することはかなわず。そこから奇跡的なリハビリで超回復を見せていたのに、2018年には胆石が見つかり、再び長期入院生活を余儀なくされた。

地道なリハビリで鍛えた筋肉は落ちてしまい、2020年に東京五輪で聖火ランナーを務めることは絶望的な状況に。監督はそれでもあきらめることなく、再び猛烈なリハビリに取り組み、今回2度目の奇跡につなげた。五輪がコロナで1年延期となったこともあってか、前年以上の体調で臨めることになったという。

どうしてそこまで五輪に意欲を燃やすのか。監督は親しい関係者に「医者にもう歩けない、寝たきりだと言われても、オレはやるんだ」と宣言。五輪前は周囲がはっきりわかるほど、ウキウキしていたそうだ。「やっぱり奥さんとの出会いが、東京五輪が縁だったというのもあるかもしれないね」(前出の関係者)。2007年に他界した亜希子夫人は、前回の東京五輪(1964年)のコンパニオンだった。監督のひと目ぼれだというのは有名な話。奥さんにこの日の姿を見てもらいたいという思いもあったのだろう。

巨人監督時代に実現できなかった「メークミラクル」を、ここで完成させてくれた監督…。感慨深げといった感じのうれしそうなあの笑顔が、今後の東京五輪を照らしてくれるような気がしている。

【もう寝ている時間では?】開会式は午後8時スタートだったが、3氏が姿を見せたのは選手団の入場、開会宣言などが終わった午後11時39分ごろ。SNSなどでは「長嶋さん、もう寝ている時間なのでは?」との心配の声も上がっていたが、聖火を手に会場に登場した柔道五輪3大会金メダリストの野村忠宏氏、レスリングの吉田沙保里から3氏が聖火を受け継ぐと、数メートル歩を進めたのちに、次の走者に聖火を託した。

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