東京五輪〝打ち切り〟現実味 宇都宮健児氏「開催は無謀」 アントニオ猪木氏「国民の命が一番」

左から猪木氏、宇都宮氏

誰のための祭典なのか――。新型コロナウイルス禍の影響で1年延期となった東京五輪の開会式が23日に行われたが、直前まで国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長(67)を代表する〝五輪貴族〟の横暴ぶりが目立つ形となった。コロナ禍での五輪開催に異議を唱えてきた論客たちは何を思うのか? 改めて胸中を聞いた。

五輪中止を求めて署名活動を行い、45万筆超を集めた弁護士の宇都宮健児氏(74)は「中止まで追い込めなかったのは残念。このような状況で強行開催などとんでもないし、無謀なことです。ただ、首都圏だけでなく札幌や福島も無観客になり、パブリックビューイングや学校連携も続々と中止になったことを考えると、反対運動は一定の成果があったと思っています」と語る。

また「大会打ち切り」についても言及。「東京都の新規感染者数は第3波を超える勢い。五輪が佳境に入る8月第1週には3000人にいく可能性もあります。仮にこのまま感染者数が増え続け、1~2月のように医療現場が逼迫したら、すぐに中断すべきです」と言い切った。

陸上男子短距離でバルセロナ五輪に出場したオリンピアンの杉本龍勇法政大教授(50)は、「安心安全の大会」をうたう主催者サイドを断じる。

「開幕を迎えても五輪関係者の感染者が相次いでおり、主催者は原因究明をしないといけない。6時間前のPCR検査で陰性なら出場可能というのも、専門家の間では疑問が示されている。バブルも成立しておらず、感染が広がる危険性がある。そうなれば競技、大会が成立しなくなる。競技が成立しないケースが出てくれば、五輪の最低限の威厳を保つ上でもスパッと大会を中止するほうがフェアであり、そういう選択肢を持つことが重要だ。感染状況が悪くなる中で無理して続けることはない」

加えて、開幕直前まで大混乱を招いた責任も糾弾する。

「責任を取るのはIOCであり組織委員会だ。腹をくくれと言いたい。そもそも迎賓館でパーティーなどやっている場合ではない。開催を強行した責任は重く、日々の行動から模範を見せなければならないのだから。このままなら五輪不要論が出てくるだろう。そしてIOCという組織はもはや機能していない。現在は貴族の趣味のような組織になってしまっている。一度解体して、別の組織をつくることを考えていかなければいけない」と〝五輪貴族〟に突き付けた。

医療ガバナンス研究所理事長で内科医の上昌広氏(52)は感染症エキスパートの立場から五輪開催の危険性を訴えてきたが、コロナ第5波の真っただ中での開幕に不安を隠せない。

「市中でこれだけ感染しているということは、選手村でも同様に広がっていくということ。選手村で次々とクラスターが起きたら(大会自体)続けられなくなりますよね。(打ち切りは)本当にあり得ると思います。コロナはこれから増えますから」。さらには「選手は五輪に出場するために来日しているにもかかわらず、選手村で感染すれば出られなくなる。出られないだけならともかく、後遺症を残したらどうするんですかと思いますよね」とバブル方式による管理にも疑問を呈した。

最後に、アントニオ猪木氏(78)はこう語る。

「立場としては議員時代から五輪については、この時期にやることに疑問を呈してきました。この時期に最高のパフォーマンスができるのかよ、ということでね、そういう立場を取ってきましたから。加えていろいろな問題が出てきてね。一番の問題は国民にとって何が一番大事なのかということ。中止か延期すべきだったんじゃないかと思う。国民の命や健康を守るのが一番やらなきゃいけないことだと思うので」

その上で「ただ始まった以上は、何が何でも成功させてもらわないと困る。やる以上は頑張ってほしい」とつけ加えた。

闘病中の〝燃える闘魂〟の願いは届くのだろうか。

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