大ヒット作品『鬼滅の刃』に登場するキャラクターの魅力に迫る連載コラム。今回は、敵である鬼の黒幕・鬼舞辻無惨をピックアップ。"パワハラ会議"でも話題になった彼の悪役たる傲慢さの理由とは?
アニメ2期も決定し、まだまだ人気が衰えるところを知らない『鬼滅の刃』。
今作に登場する様々なキャラクターの魅力を解説する本連載コラム、煉獄杏寿郎、宇髄天元に続き今回ピックアップするのは敵である鬼の黒幕・鬼舞辻無惨についてです。
※本記事にはアニメ以降の原作の内容に触れています。
DVD『鬼滅の刃』4巻 画像
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恐怖と力で配下を動かす…鬼を生み出した恐ろしき始祖
言わずと知れた『鬼滅の刃』のラスボスである鬼舞辻無惨。作中の鬼と呼ばれる存在を生み出す元凶となった、文字通り鬼の始祖たる人物です。
何よりも「自らが死ぬこと」を恐れ、不死の身体を求める無惨。彼によるその傍若無人な振る舞いは、大勢の原作ファンにとっては周知の事実であることでしょう。
中でも話題となったのは、アニメ26話にて放送された対下弦の鬼たちへの通称・パワハラ会議。あまりにも理不尽な癇癪に近い怒り様で、次々と手駒であった下弦の鬼を抹殺した彼。
その冷酷無慈悲さ、そして無惨の悪役たる傲慢さを視聴者に強く印象付けるのに、このパワハラ会議は大きな役目を果たしたのではないかと思います。
ですが、このシーンは無惨という男の本質の僅か一面のみの話に過ぎません。
鬼舞辻無惨というキャラクターは原作をお読みの方はご存知の通り、最後まで傲慢で、非常に自己愛が強く強欲。終始物語では、どこまでも他者のための優しさを以て戦い抜いた鬼殺隊の面々とは真逆の悪役として描かれています。「私は限りなく完璧に近い生物だ」
(『鬼滅の刃』2巻より引用)
そんな彼の言葉通り、作中には傲慢さや強欲さを描いたセリフがいろんなシーンで登場します。
「死」が生き物にとって、何よりの弱点だと考える鬼舞辻無惨からしてみれば、ちょっとしたことですぐに死んでしまう生身の人間は、明らかに自分より格下であると見下すに十分な存在でした。
人間より再生能力の高い鬼の方が格が上であり、その鬼を統べる存在であり、全ての鬼の生みの親である自分。彼にとって己は、つまりこの世の神に等しいものだと言っても過言ではないのでしょう。
だからこそ、この世の神たる存在に弱点などあっては許されない。
そんな執念にも似た思いから、完全な不死身の身体を手に入れるために。彼は「青い彼岸花」と「太陽を克服した鬼」を、長年探し求めていたのです。
生物の頂点に立つ自分=神に逆らうのは、あまりにも無駄な抵抗
TVアニメ『鬼滅の刃』キービジュアル
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そんな無惨が、自分を神たる存在であるという傲慢さを特に滲ませているセリフが以下のものになります。
「私に殺されるのは大災に遭ったのと同じだと思え(中略)
雨が風が 山の噴火が 大地の揺れが
どれだけ人を殺そうとも天変地異に復讐しようというものはいない」
(『鬼滅の刃』21巻より引用)
鬼に殺される事、あるいは自分に殺される事を大災と同義だとそう述べる無惨。
「自身の振る舞いが、人智を越えたものである」と。元々人間だったはずの彼は、自分という宿敵を前にした炭治郎に冷酷にそう言い放ちました。
確かに、もし「鬼」という存在について詳細を知らない人からすれば、得体の知れない化物の鬼に襲われたことは、山で獣に襲われたり災害に巻き込まれることとほぼ同義なのかもしれません。
居合わせたタイミングが悪かったせいで、無作為に選ばれた被害者の一人だったせいで。
事実きっと市井の人々の中には、そう思いながら鬼の犠牲となった大切な人の喪失を嘆いた人もいたのではないでしょうか。ですがもしそうだったとしても、その言葉は事の元凶を作為的に起こした当事者が放つべきではない言葉です。
さらに鬼殺隊の人々は、鬼という存在がこの無惨によって人為的に生み出されたものだと知っています。
だからこそ、この言葉を受けた炭治郎が「鬼は元々人であった、無惨も例外ではない」ということを知ってなお、これまで経験したことのない腹の底からのどす黒い厭悪を、彼に対して抱いたのではないでしょうか。
相容れない価値観…それは無惨に「悪」の自覚がないからこそ
「しつこい お前たちは本当にしつこい 飽き飽きする 心底うんざりした」
(『鬼滅の刃』21巻より引用)
一方で、無惨はどこまでも自らを憎む鬼殺隊に対してこんな言葉も放っています。
この台詞からは、炭治郎たちが無惨の行動に一切の理解や共感を持ちえないのと同じかそれ以上に、無惨もまた、己を悪と認識し敵対しようとしてくる炭治郎たち鬼殺隊の考えを、一切理解も共感もできない、という心情を表しているかのようです。
『鬼滅の刃』という物語において無惨は、確かに悪役の黒幕という存在であることでしょう。ですがこの言葉からは、彼自身が自らを微塵も悪だと思っていないこともうかがえます。
鬼である自分と、人間である鬼殺隊の価値観は全く異なるものです。そしてその価値観の違いは、何を以てしても一生分かり合えないものです。
それなのに、なぜ彼らはここまで執拗に干渉してくるのか。なぜこちらを悪だと認識し、あまつさえ全知全能であるはずの自分に対し是正しようとしてくるのか。
彼の「しつこい」という言葉には、そんなニュアンスも含まれているのではないでしょうか。あくまで私たちが主人公・炭治郎の立場から見た際は、無惨は確かに一見傲慢で自己愛の強い、強欲な巨悪として映ります。
ですがそれはある意味で逆に彼自身に、己が悪であるという自覚が一切ないからでもあるのでしょう。
どこまでも純粋に、無惨は自分の考えを正義であると信じているからなのです。
私が無惨について考えるとき、ふと思い出す言葉があります。
「正義の反対は悪ではなく、また別の正義である」
(原文:You're right from your side. I'm right from mine./ボブ・ディラン「One Too Many Mornings」より)
彼の傲慢さが滲む台詞は、同時にそれを象徴する何よりの台詞もあるのではないでしょうか。
鬼舞辻無惨プロフィール
鬼舞辻無惨(きぶつじ むざん)
CV.関俊彦
年齢:1000歳以上
誕生日:?
身長:179cm
趣味:輸入品、外国語、新しい機械などを学ぶ
『鬼滅の刃』におけるラスボス。 千年前から生き続ける最初の鬼。人間を鬼に変えることが可能な唯一の存在。
TVアニメ『鬼滅の刃』遊郭編
2021年 TVアニメ化決定
スタッフ
原作:吾峠 呼世晴(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン:松島晃
アニメーション制作:ufotable
キャスト
竈門炭治郎:花江夏樹
竈門禰󠄀豆子:鬼頭明里
我妻善逸:下野紘
嘴平伊之助:松岡禎丞
宇髄天元:小西克幸
(TVアニメ『鬼滅の刃』遊郭編公式サイトより引用 https://kimetsu.com/anime/yukakuhen/)■ 『鬼滅の刃』煉獄杏寿郎と宇髄天元の“死の価値観”とは。遊郭編は無限列車編との対比性に注目
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■コロナ禍でも響く『鬼滅の刃』嘴平伊之助の名言。無限列車編で変化した“死”への概念
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■アニメ『鬼滅の刃』キャラクターの魅力徹底解剖まとめ!【竈門炭治郎&禰󠄀豆子、我妻善逸、胡蝶しのぶ、煉獄杏寿郎、鬼舞辻無惨etc.】
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