「5年待った。こんなにうれしいことはない」。東京五輪柔道男子60キロ級の高藤直寿(たかとうなおひさ)選手(28)=下野市出身=が金メダル獲得を決めた24日夜、家族らは歓喜を爆発させた。高藤選手は金メダルを期待された2016年のリオデジャネイロ大会で銅メダルとなり、5年間悔しさを抱き続けてきた。そんな息子を見守ってきた両親は泣きながら抱き合い、悲願達成の喜びをかみ締めた。
高藤選手が育った下野市の実家のテレビの前には、家族ら約15人が集まった。父憲裕(のりひろ)さん(64)は「必勝」と書かれたはちまきを頭に締めた。母悦子(えつこ)さん(54)は「大きい大会はいつもこれ」と“勝負服”となっている赤と白のボーダーのポロシャツを着た。
決勝戦。「集中。集中だよ」。高藤選手が子どもの頃から試合の応援を欠かさなかった両親。悦子さんは、これまで試合中の息子へ何千回も届けた言葉を、この日も何度も繰り返した。
高藤選手が攻める。「それでいい。大丈夫だ」と幼少期に指導した倉井洋治(くらいようじ)後援会長(73)。「いけるよ」。応援は徐々に熱を帯びた。
相手に三つ目の指導。勝った…。金メダルだ。割れるような拍手がリビングに鳴り響いた。
両親はその場で立ち上がり、泣きながら抱き合った。「小学校の頃からの夢で…。本当に感無量。鮮やかな一本はいらない。あれでいい」。泥臭くても、勝利をつかんだ息子を憲裕さんは誇らしく思った。悦子さんは「よく頑張りましたと声を掛けたい」。
憲裕さんは倉井会長に「先生のおかげです」と感謝した。姉絢香(あやか)さん(30)は「すごい」と感動。祖母の文江(ふみえ)さん(89)、島村展子(しまむらひろこ)さん(83)は孫の活躍に涙を拭った。
また、高藤選手を小学校時代に指導した野木町柔道クラブ会長の福田健三(ふくだけんぞう)さん(71)は、同町若林の次女宅で試合を見守った。
子どもの頃からの夢をかなえた教え子の姿に、自然と涙が出た。「教え子が一番大きな大会で金メダルを取る。こんなに幸せな指導者はいない」。
5年前、言えなかった言葉をやっと言える時がきた。
「金メダルおめでとう」