コロナで大幅ダウン……国交省が三大都市圏の鉄道混雑率を調査、日暮里・舎人ライナーが最混雑路線に急浮上!?【コラム】

東京は結局、緊急事態宣言下という、少し前まで想像できなかった状況で、オリンピック開幕を迎えました(写真:花火 / PIXTA)

2021年7月9日、新型コロナの鉄道業界への影響を表すデータが国土交通省から公表されました。国交省鉄道局が年1回発表する「都市鉄道の混雑率調査結果」。2020年度の三大都市圏の混雑率は、東京圏107%、大阪圏103%、名古屋圏104%で、各都市圏そろって2019年度より大幅に低下しました。

国がこうした調査を実施するのは、鉄道事業者の輸送力増強の成果を示すとともに、コロナで「空いた列車に乗りたい」という社会的欲求が高まる中、利用する鉄道や時間帯を選ぶ参考にしてもらう狙いがあります。鉄道業界では、事業者が自社の混雑度を発信する取り組みも加速しています。国交省の調査結果と、関連する話題を集めました。

混雑率が1年間で56ポイントも下がった

まず混雑はどのくらい緩和されたのか。2019年度の混雑率は東京圏163%、大阪圏126%、名古屋圏132%で、東京圏では56ポイントも緩和されました。日々、電車で通勤通学する皆さんは、混雑率の数字に実感はわかなくても、「以前に比べると電車が空いている」と感じていらっしゃるでしょう。

調査は全社全区間を調べているわけではありません。東京圏はJR東日本と東京メトロ、東京都交通局、大手私鉄7社の主要31区間。大阪圏はJR西日本と大阪メトロ、大手私鉄5社の20区間。名古屋圏はJR東海と名古屋市交通局、名古屋鉄道、近畿日本鉄道の8区間をピックアップしました。具体的には東京メトロ東西線木場―門前仲町間、大阪メトロ谷町線谷町九丁目―谷町六丁目間、名古屋市営地下鉄鶴舞線塩釜口―八事間などが主要区間にあたります。

乗車率100%は座席に座れるか、つり革につかまれる状態

鉄道の混雑率は、「利用客数÷輸送力」で算出される指標です。混雑率100%は定員乗車で、座席に座るか、つり革またはドア付近の柱につかまれます。160%は肩が触れ合う程度で、新聞は楽に読めます(最近、新聞を読んでいる方はあまりいませんが)。

同様に180%は体は触れ合うが、新聞は何とか読めます。200%は体が触れ合って、相当な圧迫感。しかし、週刊誌なら読めます(これまた読む方はあまりいません)。250%は電車が揺れるたび、体が斜めになって身動きできない。手も動かせない……。

1975年からの混雑率の変遷。鉄道の混雑率ということで、なぜか駅のベンチのように見えてしまうのは私だけ?(画像:国交省鉄道局)

図は三大都市圏の混雑率の変化を表したグラフで、1975年の東京圏の混雑率は221%。当時、私は営団地下鉄(東京メトロ)東西線で千葉方面から東京に通学していたのですが、とにかく電車は混んでいた。朝ラッシュ時、途中駅からでは乗車できないこともしばしばでした。

国や自治体、鉄道事業者もこれはマズいと思い、新線を建設したり、ホームを延伸したり、車両を増結して輸送力を増強しました。最近は、一時期に比べると通勤や通学も楽になっていますが、2020年度はさらに混雑率がガクンと下がりました。

混雑率トップは都営三田線、2位は東急田園都市線

国交省は、以前は混雑の激しいワースト区間の情報も公表していたのですが、さすがに今回はそうしたデータがないので、調査結果から混雑率上位区間を抜き出してみました(決してワーストという意味ではありませんので、悪しからず)。

混雑率129%のトップは都営三田線西巣鴨―巣鴨間、次いで126%が東急田園都市線池尻大橋―渋谷間、123%が東急東横線祐天寺―中目黒間と東京メトロ東西線木場―門前仲町間で、乗車率120%超は以上4区間(区間は単純表記していますが、正確には、朝ラッシュ1時間、西巣鴨から巣鴨方面行きといった通勤方向の利用状況です)。

気付かれた方もいらっしゃるでしょうが、JR東日本には混雑率120%超の区間が一つもありませんでした。最高は京浜東北線川口―赤羽間の118%。横須賀線武蔵小杉―西大井間の117%、中央快速線中野―新宿間の116%が続きます。

2019年まで混雑率上位の常連だった総武緩行線錦糸町―両国間は、2020年度は111%。前年の194%に比べ、何と80ポイント以上も下がりました。何でこんなに下がったのか、リモートワーカーの方が多かったのか、並行する都営地下鉄新宿線に乗り換えたのか(新宿線西大島―住吉間の混雑率は118%で、総武緩行線を上回っています)。興味深いところです。

大阪圏や名古屋圏はダウン率が少ない

大阪圏と名古屋圏も、なるべく詳しく触れましょう。大阪圏は混雑率の平均103%ということで、東京圏の107%とは4ポイントしか違いません。

2019年度は東京圏163%、大阪圏126%で、37ポイントも差があったのが、コロナの1年で一気に縮まりました。東京圏にリモートワーカーが多かったのか、ひょっとしたら非正規雇用の方とか雇用調整が進んだのかもしれません。

混雑率最高は、JR片町線鴫野―京橋間の120%で、大阪メトロ梅田―淀屋橋間の116%、近鉄奈良線河内永和―布施間と阪急神戸線神崎川―十三間の114%が続きます。大阪圏は平均混雑率103%ということで、100%以下の線区もあります。対象20区間の最低は、大阪メトロ四つ橋線なんば―四ツ橋間の82%。この区間はメトロ御堂筋線なんば―心斎橋間と同一区間(並行路線)で、利用客は通勤通学に便利な御堂筋線にシフトしているのかもしれません。

名古屋圏は平均混雑率104%。最高は名古屋市営地下鉄名城・名港線東別院―上前津間の120%、最低はJR東海道線枇杷島―名古屋間の85%です。名古屋は、JRや名鉄の名古屋駅周辺より地下鉄栄駅付近の方が繁華街なので地下鉄が混雑するのかも。名港・名城線は小型車両での運行なので、その点も混雑率を押し上げます。

最も混雑するのは日暮里・舎人ライナー!?

数字上は混雑率全国トップの新交通システム「日暮里・舎人ライナー」。路線は日暮里―見沼代親水公園間の9.7キロで、都営地下鉄と同じく東京都交通局が運営します。2008年3月30日に開業しました(写真:うげい / PIXTA)

国交省は三大都市圏以外、JRや大手私鉄以外の混雑率も調査します。主な混雑区間は、新潟県のJR信越線新津―新潟間の135%、福岡県の西鉄貝塚線名島―貝塚間の129%、東京都の新交通システムの日暮里・舎人ライナー赤土小学校前―西日暮里間の140%など。

数字だけだと、最も混雑するのは日暮里・舎人ライナー、2位はJR信越線と、にわかに信じられない結果になるのですが、これは輸送力が小さいため。割り算の分母が小さいので、混雑率が高くります。

国交省は今回調査で、直近データとして2021年6月の主要駅の利用状況も公表しています。2年前の2019年を100とした指数で、JR東京駅49、東京メトロ日本橋駅55、都営地下鉄大手町駅58、JR大阪駅70、大阪メトロ梅田駅66、神戸市営地下鉄三宮駅69、名古屋市営地下鉄名古屋駅64、名鉄金山駅70など。こちらも大阪圏や名古屋圏の方が、回復が早いようです。

東京メトロが車両別の混雑率をアプリ配信

東京メトロの「号車ごとのリアルタイム混雑状況」。画像を文字情報のテキストデータに読み替えるところが技術上のポイントともいえそうです(画像:東京メトロ)

最後は、コロナでニーズが高まる「列車の混雑状況を、リアルタイムで知りたい」に応える取り組み。東京メトロは2021年7月14日から、丸ノ内線と銀座線で、車両単位の混雑状況を利用客のスマートフォンに配信する「号車ごとのリアルタイム混雑状況」の提供を開始しました。

東京メトロの地上駅に太陽光発電システムを設置する、横浜市の自然エネルギー会社・上野グリーンソリューションズと協業。メトロ駅に、走行中の列車を側面から撮影する特殊カメラを設置します。カメラは対象物までの深度(距離)を計測できるデプスカメラというタイプで、撮影データをAI(人工知能)解析して、概算の乗車率を割り出します。

デプスカメラと撮影画像イメージ。温度計測のためのサーモカメラ画像のように見えてしまいます(画像:東京メトロ)

これまでの混雑率は、乗務員の目視、駅カメラあるいは車両重量計で乗車率を概算する方式でした。しかし、目視は車掌が乗車する最後部の車両しか情報がつかめず、駅カメラは車両単位の混雑率が不明。重量計は相互直通運転するメトロ以外の車両では不正確という問題がありました。そうした課題を解決したのがリアルタイム混雑状況で、カメラ撮影してから、10秒程度で配信できるそうです。

東京メトロは2021年度内をめどに、全路線にデプスカメラを設置して、混雑情報の提供を開始します。利用は「東京メトロmy!アプリ」から。アプリ画面では、列車走行位置画面の列車アイコンをタップすることで、実測した混雑状況と、それを用いて予測した対象列車の混雑予測情報を号車ごとに確認することができるそうです。

文:上里夏生

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