諫早大水害

 夢で見た光景を詩につづったのだろうか。〈湖のほとりに私が探し求めた四人の家族が住んでいた/十年近い前の雨の夜に別れた姿と変わりなかった/この静かな世界から外部(そと)に出ようとは思わなくなった〉▲諫早市の詩人、上村肇さん(2006年死去)は1957年7月25日の諫早大水害で、母と妻、2人の子を亡くした。それから12年後に刊行した詩集「みずうみ」には、亡き家族への思いを込めた▲〈リヤカーに積んだは宝物 親子四人の宝物 それひけ やれおせ〉。「桃太郎悲歌」と題する別の詩は、絶望の中でも前に進もうとする人間の強さを感じる▲死者・行方不明者630人。水害史に残る一夜は遠くなり、災害体験の風化が進む。遺族が残した詩や手記は胸に迫るものがあり、数字や映像、写真では分からない心の内や深い悲しみを知ることができる▲先日、諫早市であった市民集会「諫早大水害を語り継ぐ」では、水害前後の各世代が慰霊の歌や体験記の朗読などを通して当時を振り返った。その模様はきょうから動画投稿サイト「YouTube」で視聴できる。市美術・歴史館と諫早駅では写真展も開催中▲継承活動の究極の目標は言うまでもなく、再び犠牲者を出さないこと。過去の記憶を共有し、被災者の思いを胸に刻む一日にしたい。(真)

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