中国経済「死に至る病」(上) 中国経済は本当にV字回復しているのか?経済成長の内実を示すいくつかの数字を詳細に分析することで判明した中国経済の実像と不治の病。

「実態はせいぜい1%程度の成長」

本欄は今回から3回連続、中国経済の話をする。「中国経済」のこととなると、多くの日本人はまず、その凄まじい成長ぶりに圧倒されてしまうが、それはもちろん、根拠のないことでもない。たとえばコロナ禍が猛威を振るった2020年、世界の主要国が軒並みマイナス成長に陥ったなかで、当局の発表では、中国経済はプラス成長を保つことができ、2・3%の成長率を達成したという。

中国政府の発表する数字を疑う声は昔から国内外にある。たとえばいまの中国首相の李克強氏は地方勤務の時代、「中央政府の発表した成長率を自分はあまり当てにしない」と外国人の訪問客に語ったことがある。

あるいは2018年、政府公表の成長率が6・6%であったのに対し、中国人民大学の向松祚教授は「実態はせいぜい1%程度の成長」と公言したこともある。中国政府が発表した成長率が水増しされていることは、すでに世界の常識の一つとなっている。

そうなると、中国政府公表の「2020年成長率2・3%」も差し引いて見たほうがよいと思うが、この年の経済成長の内実を示すいくつかの数字をさらに見ていくと、中国経済の実像と問題点が直ちに浮かび上がってくる。

消費の低迷という異常事態

注目すべき数字の一つは、2020年の全国社会消費品小売総額(小売売上高)が前年比3・9%減であることだ。これは要するに2020年には中国全土の消費がかなり落ち込み、19年と比べて3・9%も減った、ということである。

では、経済のどこが伸びているのか。その実態を示すもう一つの数字がある。同年、中国全土の不動産開発投資は前年比で7・0%増、経済全体の成長率の約3倍の伸び率となっている。これで中国経済の成長の実態がよく分かる。要するに、国民の消費が落ち込むなかで不動産投資を大幅に伸ばして成長を何とか維持できた、という構図である。

中国における消費の低迷は、何も2020年だけのことではなく、数十年間、中国経済を悩ませてきた大問題の一つである。

経済学に「個人消費」というのがあり、一国の経済のなかで占める国民一人ひとりの消費する割合を示す数字である。日本は常に60%前後で、アメリカは70%にも上っている。しかし中国の場合、この20年間の個人消費は常に37%前後、2019年は36・5%であった。中国経済に占める14億の国民の消費する分が実は全体の4割未満という、まさに異常事態が起きているのである。

国民全体にお金が行き渡っていない

これほどの消費不足をもたらしている原因は何か。その一つはやはり、社会保障システムの不備である。都市部の貧困層や農村地域では、年金と医療保険に加入していない人々が大勢おり、そうした人たちは当然、お金が多少あってもあまり消費をしない。いざという時に備えて貯蓄に励む。だから中国では、消費率の低さとは逆に貯蓄率が高いのである。

さらに消費の足を引っ張る一番大きな原因は、深刻な貧富の格差である。都市部と農村部の格差、沿岸地域と内陸部の格差、同じ地域における階層的格差など、「社会主義国家」中国の経済格差の深刻さは、資本主義国家の日本やアメリカの比ではない。

中国国内でもたびたび引用される数字の一つに、総人口のわずか5%の富裕層で民間の富の70%が占められているということがある。もちろん、5%といっても人口数で言えば7000万人に上る。だからこそ、コロナ禍の前に大勢の中国人が日本にきて「爆買い」をしたのだが、問題は、5%が大金持ちになっている引き換えに、95%の国民には民間の富の30%しか残されていないという現実だ。国民全体にお金が行き渡っていないことを意味する。だからこそ、中国の個人消費は常に四割未満の低い水準にある。

他力本願の対外依存型経済

では、消費以外の6割以上の中国経済はどうなっているのか。そのうち一つは輸出である。中国国民が消費しない(できない)なら、外国市場向けに安価な中国製品を売り付けて外国人の財布を狙う。だから日本やアメリカのスーパーマーケットには中国産の野菜や中国製の衣料品があふれているわけだが、中国経済の多くの部分が実は、アメリカ人や日本人の消費で成り立っているのである。

つまり、中国経済はまさに他力本願の対外依存型経済だと言える。日本やアメリカが中国経済に依存している以上に、彼らは我々に依存しているのである(だから中国は本来、我々に対して偉そうなことを言えない立場である)。

輸出と並んで中国経済を支えるもう一つの大きな分野は、投資部門すなわちインフラ投資と前述の不動産投資である。そして、まさにこのような「投資依存」の体質から中国経済の「死に至る病」が生じてきているが、それについての論考は次回に譲ろう。(初出:月刊『Hanada』2021年6月号)

石平

© 株式会社飛鳥新社