子の看護、親は24時間缶詰めに 交代禁止、コロナで負担増す「付き添い入院」

入院中の筆者の長男(当時生後3カ月)

 病院から一歩も出られず、食事はコンビニ弁当。寝返りを打てないほど狭い簡易ベッドで細切れの仮眠―。入院中の子どもに保護者が24時間付きっきりで世話をする「付き添い入院」。その実態は過酷の一言に尽きる。最近は新型コロナウイルスの影響で、付き添いを交代できないケースも増えており、長期間の「缶詰め状態」で体調を崩す人も多い。子を思う親心からとはいえ、なぜ保護者にこれほど大きな負担がかかるのか。自らも一人の親として付き添った経験を踏まえ、問題の背景を考えた。(共同通信=禹誠美)

 ▽食事の確保は2日に1回

 「親の寝食について少しでも心配してほしかった。思い出すのもつらい」。四国地方に住む30代の女性は今年4月、先天性心疾患のある長女(3)の手術のため、大学病院で約2週間の付き添い入院を経験した。

 普段は夫と小学生の長男との4人暮らしだが、入院中は感染症対策の徹底を理由に保護者の交代は認められず、女性が1人で乗り切った。昼は寝たきりの長女の食事やシャワーの介助をし、夜は小児用ベッドで夜泣きする長女の隣に体を縮めて横になる。十分に休めず寝不足が続いた。

 

 保護者の分の食事は提供されなかったため、2日に1回、子どもがおとなしく遊んでいるわずかな隙に、院内の売店へ自分用の弁当やカップ麺を買いに走った。病室に戻ると長女が泣いていることもあった。シャワーは1回30分の予約制で、タイミングが合わず使えなかった日も。偏った食生活とストレスで、吐き気や下痢に苦しんだ。

 「子どもから目を離さず、部屋から出ないでね。でも自分の食事は自分で何とかしてね。付き添いの交代はできないから体調も崩さないでねというのは、むちゃにもほどがある」。女性はPCR検査で陰性となった家族との交代は認められるべきだと語り、「病棟に保育士を配置し、1日30分でも親が自由に動ける時間をつくってほしい」と訴える。

 ▽「母親なんだから」

 私自身も昨年12月、生後3カ月の長男が尿路感染症にかかり、1週間の付き添いを経験した。

 子どもが突然高熱を出し、かかりつけ医の紹介でその日のうちに大阪市内の総合病院に緊急入院することが決まった。医師からは「赤ちゃんだから付き添った方がいい」と言われ、「付き添いを希望する」と書かれた用紙を渡された。「親が泊まり込まないと治療できないのか」。そう思い込んで、深く考えずにサインした。

付き添い入院した病室の様子

 入院中は身も心も休まる暇はなかった。日中は検査や診察で、医師や看護師が入れ代わり立ち代わり病室を訪れる。私はおむつを替え、ミルクをあげ、息子が泣けば抱っこし、摂取した水分量や排せつ回数を細かく記録した。看護師は「お母さん、横になって休んでくださいね」と気遣ってくれる一方で、日中は簡易ベッドを折り畳んでおくよう指示する。矛盾しているじゃないか…。もやもやを抱えつつ、パイプ椅子に座ってうたた寝したが、日に日に疲れは蓄積した。

 食事は入院患者用の一般食を1食600円ほどで提供してもらえた。温かいものを食べられるだけでありがたかったが、毎食食べるには薄味で飽きるのと、気分転換に病室を出たかったので、院内のコンビニでおにぎりや総菜パンを買って食べる日もあった。気が付けば、コンビニで買ったコーヒーを飲むのが唯一の楽しみになっていた。

入院中の付き添い食

 付き添い中、最もこたえたのは話し相手がいないことだ。ほとんどの時間は生後3カ月の息子と2人きり。医療従事者と交わす、病状についての短いやりとりが1日の会話の全てだった。「外の空気を吸いたい。くだらない話で笑いたい。短時間でいいから夫と交代できたら…」。何度となくそういう思いが頭をよぎったが、新型コロナの院内感染を防ぐためだと言われれば諦めざるを得なかった。気持ちがふさぐ時間が増え、無意識に涙が流れた。「一番大変なのは息子。母親なんだから我慢しなきゃ」。そう自分に言い聞かせた。幸いにも治療は順調に進み予定より早く退院できた。それでも私にとっては長すぎる時間だった。できればもう二度と経験したくない。

 ▽付き添いは例外

 そもそも、親の付き添い入院は本当に必要なのだろうか。厚生労働省によると、入院患者を受け入れる病院に公的医療保険から支払われる診療報酬のうち、「入院基本料」という項目には、小児患者の世話の料金も含まれている。つまり、子どものケアは看護師らが担うことを前提に診療報酬が支払われており、保護者の付き添いは本来不要なのだ。一方、同省は通知で「小児患者または知的障害を有する患者等の場合は、医師の許可を得て家族等が付き添うことは差し支えない」とも明記しており、これが付き添い入院の根拠となっている。あくまで保護者が希望した場合の措置という位置付けだ。

付き添い入院に関する厚生労働省の通知

 確かに、乳幼児は成人患者と違っておとなしく一人で寝ていられるわけではない。点滴針を抜こうとしたり、ぐずったりするのが当たり前だ。限られた人数の看護師らだけでは対応しきれないため、「親が泊まり込まないと手術はできない」と伝えられるケースもあるという。

 親の方にも子どもが心配で、そばにいたい気持ちがある。近くにいることで、子どもの精神的な安定につながる効果もあるだろう。病院の事情や保護者の思い。さまざまな理由が絡み合い、保護者の付き添いが常態化しているのが実情だ。

 だが共働き家庭や働いているシングルマザーの場合、付き添い入院と仕事の両立は極めて難しい。有給休暇でカバーしきれない長期間の入院になると、一時的に休職したり、仕事を辞めざるを得なかったりする。子どものために付き添い入院を選んだとしても、引き換えに仕事を失い、退院後の生活が不安定になってしまったのでは本末転倒だ。泊まり込みの付き添いをするかしないか、親がきちんと選択できるような仕組みづくりが必要ではないだろうか。

 ▽NPOやボランティアの力で

 入院中の子どもを抱える家族を支援するNPO法人「キープ・ママ・スマイリング」(東京)は5月、インターネットでアンケートを実施し、主に長期入院の付き添いを経験した家族約190人から回答を得た。半数ほどが「(付き添い中は)体調が悪かった」と答え、心の不調を訴えた人は7割、栄養不足と回答した人も8割以上に達した。家に残したまま、長期間会えないきょうだい児に対する悪影響を心配する声もあったという。

子どもの入院に付き添う母親に、食料を手渡す光原ゆきさん=左 (キープ・ママ・スマイリング提供)

 このNPOは昨年10月から、2週間以上付き添う親のために、食品や衣料品、衛生用品や化粧品などをまとめた生活応援パックの無償提供を始めた。今年6月末時点で延べ1200を超える家族に届けられ、今後も継続するという。

 自身も長期間の付き添いを経験したことがある光原ゆき理事長(47)は「病院がコストをかけずに工夫できることはもっとあるはずだ」と指摘する。私も利用した患者用の一般食を保護者にも有料で提供する取り組みは、他の病院でも広まりつつある。佐賀大病院は、院内のレストランから出前を取れるサービスを始めた。光原さんは「親は『頑張るのが当たり前』という考えがすりこまれていて、自ら声を上げにくい。NPOやボランティアの力を使って親の自由時間を確保するなど、さらにサポートを充実させる必要がある」と話した。

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