五輪開催の日本、その水際対策の「厳格さ」と「危うさ」とは

コロナ禍で米国-EU渡航をして分かったこと【世界から】

© 株式会社全国新聞ネット

東京五輪開会式で打ち上げられた花火=23日夜、国立競技場

 新型コロナウイルスの感染が再拡大し4回目の緊急事態宣言が出ている東京で、オリンピックが開催されている。各国の代表選手団が日本に入国し、空港検疫を受けた選手や、選手村入りした選手らから次々に陽性者が出ている。五輪開幕後、東京都の1日当たりの新規陽性者数は連日千人を超える。代表選手団と一般の人々を分離する「バブル方式」が採用されているが、すでに破綻しているという声も聞こえる。コロナ禍で米国-EU間を渡航した筆者は、日本の水際対策に「厳格さ」と「危うさ」が同居していると感じる。(ニューヨーク在住ジャーナリスト、共同通信特約=安部かすみ)

 ▽代表選手団に許された「特例措置」

 オリンピックに参加するため、6月に日本に到着した代表選手に、新型コロナウイルスの陽性反応が確認された。陽性確認の選手は日本に「上陸」でき、その選手を除く同代表選手団は濃厚接触者にあたるが、特例措置として入国後に合宿地までの移動が許可され、人々から疑問や不安視する声が上がった。その後も次々と代表選手や関係者らに陽性者が出ていることが報告されている。

 日本政府はコロナ禍において、国外からの新規入国を制限しているが、高い公益性など特別な事情がある場合に限り入国を認めており、大会関係者らには通常の隔離措置を免除する特例を設けている。

 日本は水際対策として、入国・帰国者には、陰性と判定された場合でも入国後14日間、自宅などで待機を求めている。一方、例えば海外メディア関係者のケースでは、14日間の待機に支障がある場合は3日間の待機後、責任者の監視の下、国内在住者との接触回避などを条件に4日目以降の活動を認め、GPSなどの「厳格な監督」の下「入国後直ち」に活動することも認めるなど、さまざまなオリ・パラ特例措置は存在する。

 ただ、世界中で変異株の感染拡大も懸念されており、さまざまな特例が認められているとなると「五輪選手や関係者だけ特別扱い」感は否めない。

 ▽米国―EU間を渡航

 筆者も6月半ば、渡航の機会があった。ジュネーブで行われた米ロ首脳会談の取材のために、フランスとポルトガルを経由し米国・スイス間を往復した。この取材は高い公益性があると見なされ、筆者は(1)スイス連邦外務省(FDFA)より、スイス入国許可および入国後の隔離の免除(2)在スイス米国大使館より、スイスおよびEUから米国への渡航許可―という特別措置を受けた。

世界中からメディアが集合した、2021年米ロ首脳会談(ジュネーブ)のメディアセンター。(C)Kasumi Abe

 訪れたどの国でも行動は制限されず、GPS監視もなかった。EU、スイス、米国への入国の際には、72時間以内の陰性証明書に加え、機内から陽性者や集団感染が確認された場合のために、緊急連絡先を記入した「同意書」へのサインを求められた。このような書類へのサインという異例なことはあったものの、筆者が特例で入国でき隔離も免除されたのは、新型コロナの検査で陰性判定だったからにほかならない。筆者は新型コロナのワクチン接種を5月に完了しており、この出張中は検査を3回受け、すべて陰性であることを確認するなど慎重に事を進めた。

 コロナ禍においては、どの国も感染抑制に躍起になっており、当然陽性であれば上陸は許可されない。筆者がもし3回のうち1回でも陽性だったなら、今回の渡航も現地取材もかなわなかっただろう。

 ▽米ロ首脳会談、メディアセンターの対応は?

 米ロ首脳会談のメディアセンターには、日本を含む全世界から報道陣が集まり、もうすぐ始まるオリンピックもこんな感じになるのかと思いをはせた。

 ここでは取材に必要なプレスカードの取得の際も、陰性証明書(もしくはワクチン接種証明書)の提示を求められた。メディアセンターの入り口には簡易検査場が、各机には透明のアクリル板と除菌ジェルが設置され、室内ではマスク着用が義務付けられるなど、徹底した感染防止策が講じられていた。

2021年米ロ首脳会場周辺の道路がサミット期間中は封鎖された。(C)Kasumi Abe

 スイスは少なくとも1回のワクチン接種率が現在53%を超えており、6月の時点では陽性率も減少傾向にあった。ジュネーブの街中を闊歩(かっぽ)する人々の多くは既にマスクを外し「コロナ後」の生活を楽しんでいて、ニューヨークの状況に似ていた。

 またアジア人に対してのパンデミック以降の対応が気になったが、現地で話を聞いた人や店のスタッフは筆者に好意的に接してくれた。欧州大陸の一国という地理的な要素も影響してか、外国からやって来たメディアに対して感染拡大を心配している様子は見られなかった。

 現地を取材するスイス人記者のアナさんによれば、人々はどちらかと言うとテロに対して警戒があるという。また、首脳会談の会場周辺の公園や道路が封鎖されたことによる市民生活への影響についての不満も露呈させた。その上で「市民は『受け入れている』」と教えてくれた。パンデミック後の経済回復のトリガーとなる大イベントを誘致できたことに誇りを持っているから、首脳会談の成功を願っているという。オリンピックを迎えた東京の人々の心境と同じようだ。

 ▽日本に入国するには

 現在日本は、日本人を含むすべての入国者に対して、「所定のフォーマット」の陰性証明書の提出を求めており、それがなければ出発地の空港ではねられ搭乗できない。質問票に関するQRコードの作成、そして待機中の位置情報・接触確認アプリも指定している。

帰路の、シャルル・ド・ゴール国際空港(パリ)にて。ジュネーブの空港で米国への入国特例書類とPCR陰性結果の書類がチェックされたが、ここでも再度チェックがなされるという徹底ぶり。(C)Kasumi Abe

 筆者が6月に訪れた4カ国で、書式までルール化したりQRコードやアプリを指定したりしている国はなかった。つまりこの点では日本は厳格と言えよう。

 また出発地によっては、日本到着後3日間、国が指定する宿泊施設での強制隔離が必要となる場合もある。その後、陰性判定が出たら公共交通機関を使わずに解散となり、11日間の自己隔離が求められる。ニューヨーク州は6月末に強制隔離の対象から除外されるなど、日々状況が変化している。

 オリンピック期間中はバブル方式で、選手団は一般の人々と分離されているが、選手団がホテル滞在をしたり一般人と交流をしたりしている事例もあるなど、完全な遮断とはほど遠いようで、ルールが緩いのか厳しいのかわからない。ここら辺に、日本の水際対策の「危うさ」が感じられる。