【柔道】阿部一二三 “令和の三四郎” 襲名へ 「五輪4連覇」は憧れの古賀稔彦さん超えノルマ

阿部一二三の夢への「道」はまだ始まったばかりだ

「令和の三四郎&YAWARA!」の誕生だ。柔道競技2日目(25日、日本武道館)、男子66キロ級の兄・阿部一二三(23=パーク24)と女子52キロ級の妹・詩(21=日体大)がそろって優勝。男女のきょうだいが同時に金メダルを獲得するのは、五輪で日本初の快挙だ。〝最強兄妹〟は初日の男子60キロ級・高藤直寿(28=パーク24)に続き表彰台の頂点に立ち、ニッポン柔道の底力を示した。恩師からは新たな称号を与えられ、早くも連覇への期待を抱かせた。

威厳を守り抜いた。詩からバトンを引き継いだ一二三は「妹が先に金メダルを取ってすごく燃えた」。決勝のバジャ・マルグベラシビリ(ジョージア)戦では、序盤から一本を狙いにいく積極的な柔道を見せ、新境地の大外刈りで技ありを奪って勝利。2008年北京五輪の内柴正人氏以来、同階級では日本勢3大会ぶりの金メダルを獲得した。

〝令和の三四郎〟を襲名だ。「平成の三四郎」として名をはせた1992年バルセロナ五輪男子71キロ級金メダルの古賀稔彦さんが3月に53歳で他界。日体大出身で担ぎ技を得意とするなど共通点の多い一二三を、全日本男子の井上康生監督は「古賀さん以来のスーパースター」と評価。一二三も「豪快な担ぎ技で海外選手を倒す姿は本当に憧れ。自分自身も古賀先生のように五輪で優勝したい」と口にしてきた。

その古賀さんも立った表彰台のテッペン。古賀さんの先輩で、大学時代の一二三を指導した日体大柔道部の山本洋祐部長(88年ソウル五輪男子65キロ級銅メダル)は「形は違うが、同じ担ぎ技を中心に柔道を展開してきた。古賀と比較するわけじゃないですけれども、同等の力はあるんじゃないかなと思う」と〝三四郎級〟と評価する。

とはいえ、まだまだ古賀さんの背中を超えたとは言い難い。「古賀の場合は五輪に3回(ソウル、バルセロナ、96年アトランタ)出て、金1個、銀1個だったので、その結果を上回って恩返しをするっていう形が一番いいと思う」と話した上で「これから柔道に幅を広げていかないといけない。やっぱり古賀が生きてきたような形で、今は社会人としてずっと柔道に携わっていけるので、競技者として悔いのない柔道をずっと現役としてやってもらいたい」とハッパをかけた。

一二三も今回の金メダルで古賀さんの背中に一歩近づいたが、当の本人は「最終的な目標である五輪4連覇を達成するために、これからもっともっと精進して頑張りたい」とさらなる高みを見据える。当然、簡単な道のりではない。それでも古賀さんの弟分だった、バルセロナ五輪男子78キロ級金メダルで所属先の〝元柔道王〟吉田秀彦総監督は「僕たちは目いっぱいサポートしていく。(4連覇は)やろうと思ったらできるんじゃないかな」と期待を寄せる。

前人未到の大記録へ、そして憧れの三四郎超えへ――。一二三の物語はまだまだ続く。

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