声掛けられず ごめんね 佐世保市の高1同級生殺害7年 加害元少女と交流あった40代女性の後悔

女性は元少女の問題行動の話も耳にしたが、何も行動できなかったことを今でも悔やんでいる(写真はイメージ)

 2014年に起きた長崎県佐世保市の高1女子同級生殺害事件は、26日で発生から7年。同級生の女子生徒=当時(15)=を殺害した元少女(22)と交流があった子どもの母親は、変わっていく元少女の様子に気付いていた。問題行動の話も耳にしたが、何も行動できなかったことを今でも悔やんでいる。「何か声を掛けていれば」。複雑な胸の内を吐露した。
 「事件が起こったのが信じられない」。子育て関係の活動を元少女の母親と一緒にしていた佐世保市の40代女性は、当時の思いをそう語る。元少女は幼稚園児のころ、3歳違いの長女を実の妹のように、かわいがってくれた。
 元少女の違和感に気付いたのは小学4年の時。「やってらんねーよ」。習い事をしていた長女を迎えに行くと、一緒に習っていた元少女が乱暴な言葉を口にしていた。周りの子も驚き、長女も気軽に話し掛けられなくなった。「反抗期なのか、たまたま機嫌が悪いのか…」。女性は、そう考えていた。
 元少女が小学6年時に起こした給食異物混入問題を、習い事で耳にした。心がざわついたが、何があったのかは触れてはいけない気がして、詳しく聞けなかった。そして猫を殺して解体していることも知った。自分が知っている元少女のこととは思えなかった。ほころびがぽろぽろ出てくる感じがした。だが、元少女の母親は誰からも頼りにされる存在で、何も言うことができなかった。

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 元少女は頭が良く、大人びた小説を読んでいた。「体は子どもなのに、精神年齢は大人」。そんな話も聞き、話が合う子はいなかっただろうと思う。習い事には中学1、2年ごろまで来ていた。いろんなことがあり、何か声を掛けた方がいいのでは、とも思ったが、うわべだけの言葉では心を見透かされるような気がして、話し掛けることはできなかった。
 13年10月、元少女の母親が病気で亡くなった。その約4カ月後、中学3年の元少女は、父親をバットで殴る問題を起こした。翌日、その話を耳にし、背筋が凍った。一気に何かが崩れていく感じがした。その一方、もうこれ以上ひどいことは起こらないだろうと思っていた。
 14年7月、元少女は同級生を殺害した。自宅にいた時、メールで事件を知った。血の気が引いた。長女も「(元少女は)優しく接してくれたのになんで…」と涙を流した。
 元少女の変化には気付きながらも、何もできなかった。違和感を抱いた時、「どうしたの」と、ひと言掛けられたら良かった。「自分は元少女から逃げていた」。悔やんでも悔やみきれない。
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 事件後、子育てに不安を覚え、食育をしている助産師の話を聞きに行った。「子どものご飯の準備ができないような仕事は何ですか」「家庭のご飯があれば、子どものことは心配ない」-。その言葉が身に染みた。事件前にマンションで1人暮らしをしていた元少女。独りぼっちの家で、冷凍食品を食べていたのかもしれない。「温かいご飯とみそ汁を用意できている家庭がどれだけあるのだろう」。そんな考えが頭を巡った。
 もし社会復帰した元少女に会うことがあれば、何か言えることはあるのだろうか。ただ、これだけは伝えたい。「声を掛けられずにごめんね」。次は逃げたくない。間違っていることは間違っていると言えるような、子どもに恥じないような生き方がしたい。母親として、大人として、そう強く思っている。


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