田中将大が語る“五輪の心得” 「いかにいつもの自分でいるか」の重要性

先発した侍ジャパン・田中将大【写真:荒川祐史】

2008年の北京五輪に出場し、今大会メンバーで唯一の“五輪経験者”

東京五輪の野球日本代表「侍ジャパン」は25日、宮城・仙台市の楽天生命パークで行われた巨人との強化試合に5-0で完勝した。先発した田中将大投手(楽天)は2回2/3、1安打無失点の好投。五輪本番では山本由伸投手(オリックス)と並ぶ先発の柱として金メダル獲得のキーマンの1人となりそうだ。

「満足はしていないです。打者にとらえられていたので、ちょっとイマイチかなと思います」。田中はこの日の投球を淡々と振り返った。

確かに痛烈な当たりのゴロが内野手の正面を突くシーンもあったが、結局許した走者は2回2死から右前打を放った中島1人だけ。続く北村に対し、スライダー2球で追い込み、最後は外角低めいっぱいの144キロ速球にバットを出させず見送り三振に仕留めたあたりは、さすがの貫録を見せつけた。

2008年北京五輪、2009年の第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)、2013年の第3回WBCと過去3度の国際大会に出場し、さらにヤンキースの先発の柱として7年間活躍。圧倒的な国際経験を誇る。特に、今回の代表選手24人のうち「五輪」で実際にプレーしたことがあるのは田中だけだ。だからこそ東京五輪代表招集後は、外野手として北京に出場していた稲葉篤紀監督とともに、折に触れてナインの前で経験談を披露しているという。

「どれだけ自分の力を出し切れるか。そこがキーになってくる」

そんな田中が考える“五輪に臨む上で大事なこと”は何だろうか。「自分の持っているものをどれだけ出し切れるか。そこだと思います」と即答した。「対戦相手だったり、日本代表(という立場)だったり、自分を取り巻く環境が違う中で、どれだけ自分の力を出し切れるか。そこがキーになってくると思います」と語る。

日の丸を背負う気持ちの高ぶりも、過剰になれば平常心を乱す障害になる。「もちろん、このユニホームは選ばれた選手だけが着られるもので、すごく重みがあります」とした上で「かといって自分にできることは変わらない。いかにいつもの自分でいることができるかが大事だと思う」と強調した。

東京五輪ではミズノ製のNPB統一球とは違う、SSK製のボールが使用される。選手によって「やや大きい」「軽く感じる」など反応は様々だが、田中は「僕は全然大丈夫。何の違和感もなく投げられました」と言い切る。実際、革の感触などが大きく異なるMLB公認球やWBC使用球と比べれば、統一球との差異は小さい。

もっと大きい環境の変化に対応してきた田中にとって、自国開催の五輪はお手の物かもしれない。普段と変わらないたたずまいは何とも頼もしく、周りの選手の指標になりそうだ。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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