五輪入場行進曲のメディア向け資料に作曲者名なし! LGBT差別の「すぎやまこういち」隠しか、組織委の作家軽視の表れか

『チャンネル桜』に出演するすぎやま氏

東京五輪開会式の選手入場行進のオープニングで、作曲家・すぎやまこういちが手がけた「ドラゴンクエスト」「序曲:ロトのテーマ」が流されたことが問題になっている(既報を参照のことhttps://lite-ra.com/2021/07/post-5961.html)。

本サイトの記事でも指摘したが、すぎやま氏はこれまで「LGBT に生産性がない」という差別発言を行った杉田水脈氏に「ありがたい」「正論ですよ」などと同調したり、「慰安婦は強制ではない」「南京虐殺はなかった」といった主張を繰り返してきた。

こうした差別的、歴史修正主義発言が問題になり、「小山田圭吾や小林賢太郎は外したのに、なぜすぎやまこういちは外されないのか」という声が上がっているのだ。

すぎやま氏はといえば、安倍晋三前首相との親密な関係が有名で、行進のオープニングに海外ではさほど有名でない「ドラクエ」のテーマ曲が使われたのも、安倍前首相の提案だったのではないかといわれている。そんなところから、「LGBT差別発言はネットで大きな問題になっていたかから組織委も把握していたはずだ。安倍前首相への忖度で、すぎやま氏の曲は外せなかったのではないか」という見方も流れている

もっとも、五輪組織委は「ドラクエ」の曲は入場行進オープニングで流す一方で、「すぎやまこういち」という名前は隠していたらしい。

開会式当日、ジャーナリストの津田大介氏がキャスターを務めるインターネット報道番組『ポリタスTV』で、近現代史研究者の辻田真佐憲氏、『Weの市民革命』などの著書で知られる文筆家の佐久間裕美子氏とともに、開会式中継を見ながら議論していたのだが、そのなかで津田氏がメディア関係者から直前に入手したという「メディアガイド」「メディア向けの」資料の内容を紹介。

そこにはNHKで放送された解説以上に開会式について詳細な説明があり、それぞれのシークエンスの意図、使用された曲や振り付けの作者についても紹介されているらしいのだが、式のメインイベントである入場行進のトップで、大々的にフィーチャーされた「ドラクエ」曲の作曲者名は載っていないというのだ。

このことについて同番組に出演していた佐久間裕美子氏は、開会式中にこんなツイートをした。

〈メディア関係者用の資料には、行進後にトップシークレットなアーティストが歌う予定の誰もが知る世界の名曲には2Pが割かれていますが、ど真ん中に配置したドラクエ曲の作家クレジットが入っていないという欺瞞にめちゃ怒っています。〉
〈イマジンという曲の説明に1P「参加者は、国境、ナショナリズム、戦争、宗教、 所有権などの分断的な支配メカニズムがなく、平和で調和のとれた、生命とそのすべての豊かさが共有される、幻想のない、今この瞬間を生きる平和な世界を想像 することができる」〉
〈+ジョン・レノンとヨーコ・オノの説明に1P。ゲーム曲の羅列にはタイトルだけで、楽曲クレジットなし。すぎやまこういち、という名前は一度も登場しない。〉

●「すぎやまこういち」の名前を隠すために、発表資料から作曲家名をカット?

たしかに、組織委のマスコミ向け発表資料には、〈ドラゴンクエスト「序曲:ロトのテーマ」〉とゲーム名と曲名があっただけで、すぎやまの名前は一切書かれていなかったようだ。日刊スポーツなど複数のメディアが入場行進曲の「使用曲一覧」を紹介しているが、そこにもすぎやま氏の名前はない。

ただし、この扱いはすぎやま氏だけではなかった。入場行進で使用されたゲーム音楽については、すべて作曲家の名前が入っていなかった。

これについて、ゲーム音楽の場合、著作権が作曲家個人でなく、ゲームの発売元の会社にあるケースが多いからではないかという指摘もある。

実際、同じく入場行進に採用された『エースコンバット』の楽曲『First Flight』を作曲した小林啓樹氏が、開会式中に〈あれっ!? 俺の曲がオリンピックで流れてる(笑)〉とツイート。無断使用を心配するユーザーに、〈社員として作った成果物ですから、全ての権利は会社にあります〉と説明していた。

しかし、仮に著作権が会社にあっても、それぞれの曲には作曲者や制作者がいるのだから、メディア向け資料にクレジットくらい入れるのが常識だろう。ましてや、国際社会ではコンテンツの制作にかかわった個人へのリスペクトが強く求められる。実際、世界的なゲームの賞の音楽部門などでは、作曲者個人に与えられる。佐久間氏が指摘するように、「イマジン」と、オノ・ヨーコとジョン・レノンの説明に2ページ費やしていることと比べると、あまりに不自然だ。

そうしたことから、この作曲家のクレジットなしというのが「すぎやまこういち」隠しではないかとの疑念の声が上がっている。すぎやま氏の名前が海外メディアの目に触れ、これまでの歴史修正発言や差別発言を問題になることを恐れて、入場行進時のゲーム音楽はすべての楽曲の作曲家名を伏せることにしたのではないかというのである。

自分たちのでたらめなやり方をウソとインチキでごまかしてきた五輪組織委ならやりかねないが、実際、それが理由だとしたら、その姑息ぶりには呆れるしかない。

●作曲者のクレジットなしは、制作者の権利をないがしろにする五輪組織委の姿勢の表れ

もちろん、一方では、そうした意図はまったくなくゲームの音楽だからという理由で作曲家の名前を非公開にした可能性もある。しかし、それはそれで非常識きわまりない。組織委はMIKIKO氏を排除しながらそのアイデアだけは使おうとしたり、小林賢太郎氏を解任しながら内容はそのままにしたりと、制作者をないがしろにする姿勢を見せてきたが、これもまた、明らかにクリエイターへのリスペクトを欠いているとしか言いようがない。

ちなみに、すぎやま氏は、自身のホームページで「やさしい著作権のお話」として、著作権について解説。著作権には「人格権」と「経済権」があるとし、以下のように書いている。

〈僕も変な使い方をされなければ問題はないのですが、例えば僕の創ったドラゴンクエストの音楽をどこかの団体が僕の思想、信条と正反対の考え方や、主張をするために使用するようなことがあればクレームをつけますし、使用を拒否する権利があるのです。これが「人格権」です。
そして次に「経済権」というのは、例えば僕の作った音楽をどこかで使用したい場合は使用料を支払ってください、というのが「経済権」です。
音楽の著作権には経済権というのがつきます。
音楽を使ったならば、使ったということに対する対価を支払うことになるわけです。〉

この言葉を読む限り、すぎやま氏はドラクエ音楽の著作権が自分にあると認識しているようだ。もっとも、五輪組織委や安倍・菅政権との親和性を考えると、この件でクレームを入れるとは思えないが……。
(編集部)

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