武田双雲の日本文化入門〜心楽し〜第4回 パソコン全盛の時代に書道に取り組む意味

書道家・現代アーティスト 武田双雲とは?

武田双雲(たけだ そううん)さんは熊本県出身、1975年生まれの書道家で、現代アーティスト。企業勤めを経て2001年に書道家として独立。以後、多数のドラマや映画のタイトル文字の書を手掛けています。近年は、米国をはじめ世界各地で書道ワークショップや個展を開き、書道の素晴らしさを伝えています。

武田双雲さんの公式HPhttps://souun.net/

本連載では、双雲さんに、書道を通じて日本文化の真髄を語っていただきます。

【連載第4回】活字フォントであふれる時代に書道教室を開くこと

会社を辞めて書道教室を開いたのですが、生徒はなかなか集まりませんでした。当時、日本ではすでにパソコンが普及し、さまざまな文字フォントであふれかえっていました。

さまざまな人から「これからはITの時代なのに、なぜ、そんな古くさくて廃れていく書道をやるの?」と心配され、反対もされました。

僕はたまたま母親が書道教室を開いていて、3歳ごろから丁寧に教えてもらったおかげで書道を続けてきました。しかし、ほとんどの人は、小学校の書写の授業で書道を経験したらそれきり。その後は、何十年も筆を持つことはありません。

世の中にあふれる広告やCMに使われている文字も、おしゃれなフォントばかり。飲食店の看板も商品のロゴも同様です。

手書きで書くにしても、便利なボールペンが簡単に手に入る時代です。破れやすく滲んだりかすれたりする半紙に、わざわざ硯(すずり)で墨を擦って書く必要性はどこにもありません。

筆文字が一気に日本社会から消えていく中、僕は大好きな書道文化を復活させたいと思って活動をはじめました。筆文字の素晴らしさを世界中に伝えていきたいと思ったのです。

朗報もありました。習い事ランキングで毎年10位以内に書道教室がランクインしていたのです。

いくらフォントが溢れる世の中でも、文字を手書きで美しく書きたいという美意識が、日本には根強く残っていたのです。美人で性格が良い人も、手書きの文字が汚いとかなりがっかりされる、という調査結果もありました。

また情報化社会になって情報が行きかうスピードが早まったため、心が落ち着かない、集中力が続かないという社会問題も発生しています。それに対し、書道教室は、落ち着きを取り戻し集中力を身に付けられるというイメージもプラスに働いているのだと思います。

たとえば、硯で墨を擦っているだけで心は落ち着いてきます。墨には香木から採取された香り成分が練り込まれていて、アロマセラピーのリラックス効果と同じような状態が得られるのです。

僕の書道教室に最初に入ってきたのは小学3年生と50代の女性でした。この2人にとにかく書道の楽しさを知ってもらいたいと、良質な墨や硯を使ってもらったり、書く前の瞑想時に音楽をかけてみたり、海で波の音を聞きながら書いてもらったり、いろんなことに挑戦しました。

それを毎日SNSで発信していたら、遠いところからも通いに来てくれる生徒さんが少しずつ増えていきました。

そして、僕の筆文字を広告ポスターに使いたいとか、作品として家の中に飾りたいというオファーが次々に舞い込んで来るようになりました。本当にありがたいことです。

次回は書道文化の素晴らしさについて掘り下げていきたいと思います。

今回の書~「挑戦」

人生はじめて一人で何も道がない世界に飛び込んだ時の挑戦することへのドキドキ感とワクワク感を表現しました。

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