退職者“帰農”で生産者確保へ ミカン農家後継を即戦力に 長与で講座

借りた畑でミカンの枝のせん定作業をする長与・時津シルバー人材センターのメンバー=長与町三根郷

 長崎県西彼長与町特産ミカンの生産者を確保しようと、JAや町は、ミカン農家を継がなかった人が定年退職するなどした機会に声を掛け、“帰農”を促そうとしている。座学や実地で栽培の基礎を学ぶ「みかん講座」を企画。実家に畑があり、作業を手伝った経験もある彼らに、就農の魅力を発見してもらい「即戦力」に育てる。これに付随して法人による新規参入の動きも出ている。
 みかん講座はJA長崎せいひ、町、県が主催。来年3月まで計5回実施する。10日、同町吉無田郷の同JA長与支店で開いた初回は、就農間もない人も含め14人が参加。県職員が年間の生育状況や栽培管理などについて解説した。
 講座を企画した背景には後継者不足がある。ミカン栽培に適した段々畑での作業は重労働で敬遠されがち。子どもが離れた場所で就職し、生産者の高齢化が進んだ。町内では昨年以降10軒が廃業。団地造成により畑も減少している。
 こうした事情もあって生産は落ち込んだ。同JA長与支店によると、町内の温州ミカンは1989年産の生産量が約1万3千トンだったのに対し、2020年産は約2500トン。約30年前の5分の1になった。
 子ども世代が実家に戻ってくるきっかけづくりになれば、と関係者は講座に期待を寄せる。自身も9年前、兼業農家になった同JAの菅原幸浩・長与統括支店長は「ほとんどの人は一方的に農作業を手伝わされたイメージがあると思う。だが自分が頑張った分、収入や評価として帰ってくる。楽しさがあることを知って、何とか農地を維持してほしい」と話す。
 受講した40代男性会社員は休日に実家を手伝うことがあり、「どのようにできるか基礎を知れば、父の教えをもっと理解できるかも」と今後を楽しみにしていた。8月は「甘いミカンを作るこつ」を学び、秋には収穫の実地研修に臨む。あるJA関係者は「『(自分が手伝った)作業の意味が分かったので、もっとレベルを上げたい』と言う人もいる。即戦力になりそう」と話した。
 参加者には長与・時津シルバー人材センターの果樹農園班8人も含まれていた。同センターは5月、耕作をやめた町内の畑約3千平方メートルを借り、ミカンの木70本の栽培を引き継いだ。ゆくゆくは観光農園にする考えだ。副班長の林篤幸さん(73)は「今までは消費者の立場。今回は生産者の立場で知識を習得でき、興味がわいた」と話した。

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