日本ハム栗山英樹監督が見せたリスク管理術 外野の穴を埋め、新クローザーは復調

最下位で前半戦を終えた日本ハム【写真:石川加奈子】

開幕前から「4人目の外野手」設定、主力不振の影響を最小限に

日本ハムは30勝42敗9分の借金12、パ・リーグ6位で東京五輪の中断期間を迎えた。かつて在籍した大谷翔平投手の大活躍とは裏腹に、厳しいシーズンが続いている。6月28日にはパ・リーグの借金をすべて1チームで抱え、3位には勝率5割の3チームが並んだため“単独Bクラス”とも言われる異常事態が起きた。他チームとの差は小さいとは言えない。

栗山英樹監督は2012年の就任以来、今季が10年目の指揮となる。これは“親分”こと故・大沢啓二氏の第1期政権(1975~83年)を上回る球団史上最長。今年4月には、大沢氏が日本ハム通算11シーズンで残した631勝を超え、球団史上最多勝監督となった。

10年間で優勝2度(2012、16年)日本一が1度(2016年)という栄冠がある一方、2017年以降の成績は5位、3位、5位、5位と苦しいシーズンが続いている。日本ハムは余剰戦力を極力保持せずに戦うスタイル。監督の現状把握と選手起用は、チーム成績に大きな影響を与える。

苦戦の原因は打線にある。中断期間に入った時点でのチーム打率.232、46本塁打、248得点はいずれもリーグ最下位。他にも688三振、出塁率.312、長打率.338とリーグ最低の攻撃成績が並ぶ。

そんな中でも極端な“1弱”とならずにいるのは、栗山監督のとったリスクヘッジが生きているとみる。何かといえばオープン戦から外野のレギュラーを3人に固定せず、大リーグで行われるような“第4の外野手”を含めた采配をとっていた。

昨季、外野のレギュラーは左翼に近藤健介、中堅に西川遥輝、右翼に大田泰示という布陣だった。ここに今季はオープン戦から淺間大基を起用し続け、開幕後もDHを含めた複数ポジションを4人、あるいは5人で回す態勢をとった。誰もが認めるセンスを持ちながら、毎年のように怪我に泣いてきた淺間は前半戦69試合で打率.277。大田が登録抹消となり、今ではレギュラーの座を固めつつある。

副産物もあった。4月10日のオリックス戦(京セラ)から、西川を左翼に移し、淺間を中堅に据えた。西川は陽岱鋼(現巨人)がFA退団した2017年以降中堅に定着、俊足を生かした広い守備範囲に定評がある一方で、入団直後に右肩を痛めたこともあり進塁阻止能力に問題を抱えていた。かつて守っていた左翼に戻ることで、各選手の能力がより生かされるようになった。

新クローザー・杉浦稔大には“大型連休”を与え復調へ導く

一方、投手陣を見れば、チーム防御率3.61がパ・リーグ4位と競争力を保てている印象だ。開幕ローテーションに抜擢したルーキー・伊藤大海はリーグ3位の防御率2.42。チームトップの7勝(4敗)を挙げる大活躍で、東京五輪を戦う日本代表にも追加招集された。他にも上沢直之がチームトップの97イニングを消化し6勝(4敗)。加藤貴之と合わせ3投手が規定投球回を満たしている。

弱いのは救援で、昨季のチーム25セーブはリーグ5位。それが8投手に分散して付き、確固たる抑え役が不在の状況だった。今季はそこに杉浦稔大投手を据え、責務を十分に果たしている。

杉浦は昨シーズン終盤からクローザーに抜擢され、今季は開幕から重責を担った。150キロを超える直球の威力と、奪三振能力が魅力の投手だ。ただヤクルト時代から右肩に故障歴があり、昨季前半までの先発時代も、登板間隔を広めに空け起用してきた。連日登板が続くこともある抑えを務めるにあたって、起用法が注目された。

紆余曲折はあった。4月21日のロッテ戦(ZOZOマリン)で岡大海にサヨナラ本塁打を浴びるなど、4月後半になると打ち込まれる場面が目立つようになった。この時点で7セーブを挙げていたものの1敗、防御率は4.63まで悪化していた。栗山監督は思い切って、4月29日に登録抹消を選択した。

抹消期間の杉浦は2軍での調整登板を経ることもなく、5月11日に1軍復帰。しっかり休養を取らせたことが功を奏したのか、五輪中断を迎えるまでにリーグ3位の16セーブ、防御率も2.93まで良化した。再登録後の19試合で見れば、防御率は1.89という安定感だ。指揮官が杉浦に与えた“大型連休”は杉浦の5月病を防ぎ、一つステップを上らせたと言えるだろう。(Full-Count編集部)

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