銀河団同士の衝突現場は何が起こっている? X線観測衛星が捉える

【▲重力的な集まりとしては宇宙最大の構造、銀河団同士が衝突している現場「Abell 1775」の画像。チャンドラX線観測衛星のX線観測データ、ハワイのPan-STARRS望遠鏡の可視光観測データ、オランダのLOFAR(the LOw Frequency ARray)の電波観測データを合成して作成されています(Credit: X-ray: NASA/CXC/Leiden Univ./A. Botteon et al.; Radio: LOFAR/ASTRON; Optical/IR:PanSTARRS)】

NASAは7月15日、オランダのライデン大学のアンドレア・ボッテオンさん率いる研究チームが、NASAのチャンドラX線観測衛星などの観測データを使って、銀河団同士の衝突によって何が起こるのかを詳しく調べたと発表しました。

Abell 1775」は地球から約9億6000万光年離れたところにある銀河団です。

銀河団は、重力的に集まっているものとしてはこの宇宙で最大のもので、数百から数千の銀河が含まれています。ダークマターを除く通常の物質としては、主に超高温のガスと恒星からできていて、その超高温のガスの中にポツリポツリと銀河が浮かんでいます。

銀河団同士の衝突は、その莫大な質量とスピードのために、この宇宙でも最も激しい高エネルギー現象の1つになります。

Abell 1775はまさにこの銀河団同士の衝突の現場です。小さな銀河団と大きな銀河団が衝突、合体しつつあります。

このようなAbell 1775の中でも特に注目していただきたいのは上掲の画像の中央にみえている高温のガスの塊です。(画像中で『HOT GAS IN SMALLER GALAXY CLUSTER:小さい方の銀河団の高温のガス』と示されています)

研究チームによれば、小さな銀河団と大きな銀河団が衝突すると、小さな銀河団は大きな銀河団の中を摩擦によって、その高温のガスを剥ぎ取られつつ尾を引くようにしながら進んでいきます。

しかし、大きな銀河団の中心を小さな銀河団の中心が通り過ぎると、この摩擦が弱まり、後ろに残されていた高温のガスが旋回しつつ、小さな銀河団を追い抜きます。画像中の高温のガスの塊はこのようにしてつくられたと考えられます。

ちなみに2つみえている楕円銀河(ELLIPTICAL GALAXYS)の左側の楕円銀河は大きな銀河団の中心にある楕円銀河、右側の楕円銀河は小さな銀河団の中心にある楕円銀河です。そして、左側の楕円銀河から伸びている赤く着色された筋のようなものはこの銀河の中心にある超大質量ブックホールが噴き出すジェットになります。

Abell 1775において、銀河団同士の衝突、合体がおこっていることは、これまでもチャンドラX線観測衛星などのデータを使った研究によって示唆されてはいましたが、確認されるには至っていませんでした。

2つの銀河団はやがて衝突、合体を完了し、1つのより大きな銀河団になると考えられています。

Image Credit: X-ray: NASA/CXC/Leiden Univ./A. Botteon et al.; Radio: LOFAR/ASTRON; Optical/IR:PanSTARRS
Source: NASA
文/飯銅重幸

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