大坂なおみ〝汚点寸前〟の取材スルー騒動を引き起こした「特殊な環境」

会場に戻りインタビューに応じた大坂なおみ

またしてもお騒がせな〝大坂劇場〟が繰り広げられた。東京五輪テニス女子シングルス3回戦(27日、有明テニスの森)で世界ランキング2位の大坂なおみ(23=日清食日)が同42位のマルケタ・ボンドロウソバ(チェコ)に1―6、4―6のストレート負け。聖火リレーの最終走者を務めた「主役」が早々に姿を消す波乱となった。試合後にはルールで定められている取材エリアに姿を見せず、あわや罰金の事態に…。大混乱を巻き起こした騒動の舞台裏を追跡した。

良くも悪くも最後まで「主役」だった。この日も大坂は〝日の丸カラー〟のウエアでセンターコートに登場した。だが、過去2戦とは違って序盤からミスを連発し、全くペースをつかめないままストレート負け。ずっと憧れてきた母国開催の大舞台は、あっけなく終戦を迎えた。ただ、これは大混乱の序曲にすぎなかった。

五輪では試合を終えた選手はミックスゾーン(取材エリア)を通ることが義務づけられているが、失意の大坂は別ルートで引き揚げたのだ。5月の全仏オープンでは「選手のメンタルヘルス」を主張して記者会見を拒否。世界的な騒動となった一件があるだけに、大会関係者は青ざめた。取材エリアを通らなければ最大で2万ドル(約220万円)の罰金。それ以上に、聖火の最終走者がルールを破れば批判を受けかねず、開催国として大きな〝汚点〟となってしまう。

大坂はすでに車に乗り込んでいたが、事態を重く見た日本テニス協会の土橋登志久強化本部長がマネジャーに連絡を取って事情を説明。すると約15分後に引き返し、事なきを得た。大坂は海外メディアに「プレッシャーは確かにありました。ただ、この状況でベストは尽くした」などと話した後、日本の報道陣の前では大粒の涙。「(五輪で)プレーできたことはよかった」と小さな声で言い残して会場を後にした。

それにしても、なぜこんなことが起きたのか。大坂は「負けた時にミックスを通ることは知らなかった」との趣旨の話をしていたという。一方で、運営サイドからは「事前にルールは通達している」との声も聞こえてくる。複数の関係者を取材すると、どうやら〝伝言ゲーム〟のような形で本人にルールが正確に伝わらなかったのが真相のようだ。

ある関係者は「大坂のワガママと言われているが今回は違う。悪気はなかった」と証言。実際、全仏オープンの時とは違って最終的に取材エリアに現れたことを考えると、今回は「取材拒否」ではなさそうだ。

あわや大問題…の行き違いが生じた背景には、大坂を取り巻く特殊な環境もある。ツアー関係者、スポンサー、メディアなどあらゆる外部とのやり取りはすべて世界的な大手マネジメント会社が行う。例え日本テニス協会の幹部でも直接コンタクトを取ることは難しい。大坂がうつ告白をして五輪出場が懸念されていた1か月前、土橋氏は「すべてエージェントを通しているので、私たちが本人の状況を知ることができない」と切実に語っていた。大坂と十分なコミュニケーションが取れない状況が構造的に生まれていたのだ。

土橋氏は「テニスの世界は本当に難しい。ただ、究極の選手であるナオミがいるおかげで経験できることもある。いい勉強になりました」と今回の一件を教訓としているものの、一歩間違えれば再び世界を巻き込んだ騒動になりかねないところ。さぞ肝を冷やしたに違いない。

その後、大坂はマネジメント会社を通じて改めてコメントを発表。「皆様の期待に応えることができずにごめんなさい」「開会式の聖火リレーでは最終ランナーも務めさせていただき、感謝の気持ちでいっぱいです」「次のオリンピックにも日本代表として出場できるように努力していきます」などと思いを記した。

今後はツアー復帰を経て、全米オープン(8月30日開幕、ニューヨーク)へ出場する予定。東京五輪で表舞台に復帰した女王に今後も注目が集まりそうだ。

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