アフリカ及び日本における食料安全保障の最前線

2019年末頃から大流行している新型コロナウイルスは、生命・健康を直接的に脅かすのみならず、感染拡大防止策として人の移動・接触の制限が求められることから、世界中の人々の生活・社会活動に大きな影響を与えている。最も基本的かつ重要な国の責務である食料の安定供給も、世界各地でその不安が拭い去れない状況が続く。

国連(UN)専門機関の国連食糧農業機関(FAO)及び世界保健機関(WHO)、関連機関の世界貿易機関(WTO)などは、新型コロナウイルスの感染拡大防止策が原因で起こり得る食料不足を避けるには世界各国が協力することが必要だと訴え続けている。一方、2021年初旬よりワクチン接種が急速に進められ、ポストコロナを想定した政策立案、経済活動、研究及び教育活動も始められている。

こうした中、安全で栄養価のある食料を安定的に供給するため、われわれ国民一人ひとりはどのように行動すべきか、また日本に求められている国際貢献とは何か。2013年から約7年間にわたり、FAO駐日連絡事務所長として日本及びFAOの関係強化に尽力し、名古屋大大学院で博士号を取得するなど日本の食料安全保障事情にも見識の深いンブリ・チャールズ・ボリコ氏に、FAOでの勤務を経験し、この春から京都大学大学院で助教として勤める白石晃將さんが話を聞いてくれました。

アフリカ諸国の新型コロナウイルス事情

白石

:ジョンズホプキンス大学の統計によると、2021年5月24日現在、世界では、累計での感染者数及び死者数がそれぞれ約1.67憶、346万人となっており、未だ新たな感染者数も60万人を超えている。日本でもこのところ新規感染者数が4千人程で推移しており、東京を含めた大都市で緊急事態宣言の延長が決定された。アフリカ全土は少し広すぎるかもしれないが、所轄しているコモロ、マダガスカル、モーリシャス及びセーシェルでの状況を教えて欲しい。

ボリコ

:4か国中、貧困度の高い国※として分類されるコモロ及びマダガスカル両国では、新型コロナウイルスに関する統計データの収集が非常に遅れており、政府が発表した情報にも、信頼性の欠けるものが多い。正確な感染者数や死者数は分からないというのが実際のところだが、2020年9月に着任した頃と比較し、肌感覚としては状況は酷くなっていると思う。当時はほとんどいなかったが、今ではマダガスカル事務所のスタッフやその家族を含め感染者が出ている。数字上、累計感染者数は、マダガスカルで約4万人(全人口約2700万人)、コモロで約4千人(同約85万人)ではあるが、実際の感染者数はその4-5倍いてもおかしくはない。また、医療体制が脆弱であるため、これ以上感染者数が上昇すれば、医療が崩壊し、非感染性疾患(Non-Communicable Diseases:NCDs)など他の病気への対応にも甚大な被害が及ぶ可能性が高い。

一方、モーリシャス及びセーシェルではワクチン接種も始まり、感染者への対応も順を追って行われている。しかし最近、重要な収入源である観光産業を再開し、海外からの観光客を受け入れたことで国内の感染者数は再び増加に転じた。国際交通網の発達により、地球全体が一つの村のように捉えられるようになった現在、自国だけ感染者を抑えるのは不可能であり、隣国と協力しつつ、地域・世界全体として感染拡大の抑制に尽力することが大切である。

白石

:コモロ及びマダガスカルのワクチン接種状況はどうか。

ボリコ

:両国では、主に政治的な理由によりワクチン接種はまだ始まっていない。FAOを含めた国連機関職員については、個々の組織で調達したワクチン接種は許可されており、FAOマダガスカル事務所では、6月上旬からワクチン接種を開始する予定である。恐らく、マダガスカル政府は、国連諸機関が使用したワクチンの効果を見て、自国国民への提供を決定すると推測される。コモロについては、ワクチンの取得自体は可能であったと把握している。しかしソーシャルメディアによる誤った情報拡散や政治的な圧力により、同国政府がワクチン接種を始められずにいる。信頼のおける情報源からの科学的証拠に基づき、各国政府が適切な意思決定をすることを望む。

※世界銀行はアトラス方式を用いて計算された1人当たりの国民総所得(GNI)に基づき、世界の国と地域を4つの所得グループ、高所得国、中・高所得国、低・中所得国、低所得国に分類している。2020年発表の最新分類によると、コモロ、マダガスカル、モーリシャス及びセーシェルはそれぞれ、低・中所得国、低所得国、高所得国及び高所得国に分類される。

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