コロナ禍と経済難の北朝鮮で横行する「価値の低い偽札」

偽造紙幣と言えば、覚せい剤と並び、北朝鮮のイリーガルビジネスの代表例だった。北朝鮮政府は強く否定するものの、1990年初頭から世界各地で出回った極めて精巧な偽米ドル札「スーパーノート」は、北朝鮮製であると結論付けられている。

一方で、同じ北朝鮮製でもスーパーノートとは呼ばれない質の悪い偽造紙幣も多数存在する。また、100ドル(約1万1000円)より価値の低い100元(約1700円)紙幣など、中国人民元の偽札も存在し、いずれも北朝鮮国内外で大量に出回ってきた。

その一方で、今まで偽造の対象となってこなかったのは、北朝鮮の自国通貨である北朝鮮ウォンだ。最高額が5000北朝鮮ウォン(約110円)紙幣で、価値も低く信用もないために、わざわざ偽造する理由がなかったからだろう。ところが、ここ最近になって北朝鮮ウォンの偽札が出回りだしたと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

平壌の情報筋は、先月中旬からパソコンのプリンタを使ってコピーした北朝鮮ウォンの偽札が、市場の商人の間で発見され、通報が相次いだ。兄弟山(ヒョンジェサン)区域の西浦洞(ソポドン)の路上で店を開く商人の間で、偽札が複数枚発見され、市場の食料品売場でも偽造5000北朝鮮ウォン紙幣10枚が発見された。

また国営銀行でも、工場や企業所の収益を計算する過程で偽札数十枚が発見される事件が起きるなど、先月末までに平壌市内だけで5000北朝鮮ウォン札100枚、2000北朝鮮ウォン札70枚の偽札が発見された。これ以外にも、全国的には数十件の偽札事件が発生した。

これを受け、中央から偽札に関する指示文が各司法機関に下されたという。偽造紙幣の製造、使用は体制に歯向かう反社会主義的犯罪で、厳罰に処すると警告するものだ。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋も、国内有数の巨大市場のである清津(チョンジン)の水南(スナム)市場で、偽札が発見される事件が続発したと伝えた。それも市場の内部ではなく、周辺の路上で食べ物を売る露店から多く発見された。犯人は、発覚しづらい場所を選んで偽札を使用しているのだろう。

これを口実に、当局は以前から行っている露店への取り締まりを強化する可能性が考えられる。

以前は偽札製造の対象とならなかった北朝鮮ウォンだが、その発見が相次いでいるのは、北朝鮮を襲っている深刻な経済難のせいに他ならない。

「最近、偽札の使用が増えているのは、コロナによる長期間の国境封鎖で、経済事情が日々苦しくなっていることと密接に感染している。その日の食べ物をさえ調達できない絶糧世帯(食べ物が底をついた世帯)が増え、重大犯罪であることを知りつつも、最後の手段として偽札を使っているのだ」(情報筋)

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