成長の金メダル

 向上心の塊-。2014年10月、長崎国体の柔道に出場した長崎市出身の永瀬貴規選手を取材して抱いた印象だ▲前年のユニバーシアードで金メダル。国体直前の世界選手権にも出場していたが「故郷に恩返しを」と地元国体に凱旋(がいせん)し、切れ味抜群の技で会場を大いに沸かせた▲競技後、まず応援への感謝を語る好青年の笑顔につられ「満足ですか?」と聞くと「いえ、満足と言ったらそこで止まってしまうので」と間髪入れず返ってきた。さらなる活躍を予感した▲翌年の世界選手権81キロ級で頂点に立ったが、優勝候補筆頭として臨んだリオデジャネイロ五輪は悔しい「銅」。膝の大けがで再起も危ぶまれた。試練の連続にも「自分の限界を止めずにもっともっと成長していきたい」(今年元日付・本紙インタビュー)と姿勢はぶれなかった▲磨き上げた心技体は東京五輪の金メダルとなり結実した。相手の攻めを粘り強く受け、機を逃さず鋭い技を繰り出す「柔よく剛を制す」のスタイル。屈強な外国選手を次々に退けた▲「人間は永遠に未完のままだ。その不完全さゆえに、学び続け成長していくことができる」-。永瀬選手の姿に、米国の社会哲学者エリック・ホッファーの名言を思う。「まだまだ強くなれる」と信じた人が、ついに表彰台の一番上に立った。(潤)

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