天国へ旅立ち10年…伊良部秀輝さんを改めてリスペクトする

伊良部さんには意外な一面が

【楊枝秀基のワッショイ!スポーツ見聞録】記憶に残る野球人が10年前の2011年7月27日、米国ロサンゼルス近郊の自宅で遺体となって発見された。日米通算106勝、27セーブ。MLBワールドチャンピオンリングを2個所有している。ロッテ、ヤンキース、阪神などで活躍した伊良部秀輝さん(享年42歳)だ。

マスコミ嫌いでぶっきらぼう。酒に酔ってトラブルを起こすなどのイメージもある。だが、伊良部さん本人と関係を持つ野球人の多くは「繊細で優しい人だった」と声をそろえる。

1999年、阪神ドラフト1位の的場寛一さん(44)は、伊良部さんの本当の素顔を知る1人。的場さんの父・康司さんはボーイズリーグ兵庫尼崎の元コーチであり、少年時代の伊良部さんの恩師。的場さんからすれば、自宅に遊びにくる野球少年のお兄ちゃんという状況だった。

的場さんは「まだ僕が小さいころでした。中学生の先輩たちが自宅に遊びにきてファミコン(家庭用テレビゲーム機)をしていました。その丸坊主のお兄ちゃんの頭を僕はパチンとたたいたんです。その人が実は伊良部さんだったんです」と振り返る。

的場さんは続けて「父は『伊良部はああ見えて心が純粋な子』と言っていました。練習をサボろうものなら首根っこをつかまえてやらせたそうです。そうして真摯に向き合った結果、自宅にまで上がりゲームをするようになったそうです」と、少年時代の伊良部さんについて代弁した。

的場さんが阪神在籍中の03年、伊良部さんがチームメートとなった。その際、あいさつにおもむくと「おおぉ、お前が的場さんの子かぁ。お前、昔なぁ、俺の頭をたたいとったなあ」と声をかけられた。目の前にいるのは誰からも一目置かれる元メジャーリーガーだが、同時に8歳年上のお兄ちゃんそのものでもあった。

伊良部さんはもうこの世にはいない。だからこそ、的場さんは「ご本人の素顔を知る人が語り続けることが供養になると思う」と野球界の偉人をリスペクトする。没後10年。首位を走る阪神に伊良部さんは何を思うのだろうか。

☆ようじ・ひでき 1973年生まれ。神戸市出身。関西学院大卒。98年から「デイリースポーツ」で巨人、ヤクルト、西武、近鉄、阪神、オリックスと番記者を歴任。2013年からフリー。著書は「阪神タイガースのすべらない話」(フォレスト出版)。21年4月にユーチューブ「楊枝秀基のYO―チャンネル!」を開設。

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