【新型コロナ】都福祉保健局長「不安煽らないで」と異例の発言、しかしその発言が不安だらけ

 東京都の吉村憲彦福祉保健局長が27日、都内の新型コロナウイルスの新規感染者が2848人と過去最多になったことについて、報道各社に現状について異例の説明を行った。その中で各社に対し「いたずらに不安を煽らないで」と要請したが、その発言内容は、果たして現状を正しく認識しているのか不安を覚えるようなものだった。

「100人いたらせいぜい十数人しか入院しない」から問題ない?

 吉村局長は、若年層の感染者数が爆発的に増えていることについて、「30代以下は重症化率が極めて低く、100人いたらせいぜい十数人しか入院しない」と発言し、感染者数だけに注目しないよう求めたが、まずこの発言自体が事実認識ができているのか不安を感じさせる内容だ。

 最初に指摘しなければならないのが「重症化率」と「入院数」を混同しているのではないかという点だ。当然ながら入院イコール重症化ではないので、重症化率が低いことを言いたいのであれば、これまで発表されている30代以下の重症化人数から計算して発表すれば良いだけ(実際、極めて少ない)なのだが、それをしていない。

 次に疑問が浮かぶのが「100人いたらせいぜい十数人しか入院しない」というところだ。意味するところは「30代以下の感染者100人のうち、入院するのは『せいぜい十数人』だから問題ない」ということだろう。しかし、一般的に言って、入院率が10%を超える疾患は毒性が高いと判断せざるを得ない。いったいどういう意味で発言しているのかはかりかねる迷言だ。

 もし、入院イコール重症化だと誤認した上で言っているのだとしたら、重症化率が10%を超えているのにまったく問題ないと発言していることになる。事実認識も間違っている上に、危機意識もないことを自ら告白してしまっているような発言としか捉えられない。こんなことを都の感染対策の統括責任者が言って大丈夫なのだろうか。

 さらに指摘しなければならないのは、別の場面で、40代、50代の重症化率が急激に高まっていることが都のモニタリング会議でも複数回指摘されているにもかかわらず一切言及せず、高齢者の重症化率が下がっていることのみを強調したことだ。意図的だとしたら感染状況について隠蔽すらしようとしていることになる。繰り返すが、このようなミスリードと捉えかねない行動が、都の感染対策の統括責任者としてふさわしいものなのだろうか。

「すぐに第3波のような状況になるとは認識していない」

 また吉村局長は、医療提供体制について、無症状・軽症者向けの療養施設を含め、病床を拡大していること、自宅療養者向けのサポート体制も強化していることをあげ、「すぐに第3波のような状況になるとは認識していない」とコメントした。

 こちらについても疑問を呈せざるを得ない。具体性が何もないからだ。確かに現時点、「すぐに」第3波のピーク時のような、入院すらできず自宅で亡くなる人が何十人も出てしまうような状態にはならないが、早晩そうなりかねないのは誰が見ても明らかだ。

 例えば各社の報道をざっと見る限りでも、都内の複数の病院ですでに満床になっていると医師が訴えており、現実に26日時点の病床使用率は45.5%となっている。都はこれを受け、さらなる病床確保を都内医療機関に「呼びかけている」が、具体的にいつまでにどの程度増やせるのか、その増床分でこの後の感染爆発にも対応できるのか説明できていない。無症状・軽症者向けの療養施設に関しても、現時点で確保している室数は5724(7月15日時点)であり、足りているとは到底言えない。

 また自宅療養者向けのサポートについても、確かに4月に各地域医師会と協力して体制を強化する旨の発表は行なっているが、都内で何人までの療養者に対応できるなど具体的なものは何も発表していない。都は明らかにしていないが、往診に特化したベンチャー企業などが委託を受け協力していることを自社のプレスリリース等で発表しており、事実上そういった民間に丸投げしているだけなのではないか。

 臨床現場は10日後どうなるかなど、病床マネジメントを意識して常に動いているもので、すぐにどうなるかなどまったく意味のない指標だ。そういった意味のない観点で発言していること自体、真摯に感染状況を説明する態度ではなく、責任回避を目的とした論点ずらしに終始していると言わざるを得ない。このような発言をする人物が、都全体の感染対策を統括するものとして果たしてふさわしいのか。不安ばかりが募る対応だった。

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