オークワフィナがアジア系初のゴールデングローブ主演女優賞獲得!『フェアウェル』ルル・ワン監督が語る「アメリカと中国の間にいる自分」

『フェアウェル』ルル・ワン監督© HFPA

ついに公開!『フェアウェル』のルル・ワン監督インタビュー

NYはクイーンズっ子のラッパー/コメディアン/女優のオークワフィナが、アジア系として初となるゴールデングローブ賞主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を獲得したことでも話題を呼んだ映画『フェアウェル』。アメリカで暮らす女性が、余命宣告された中国で暮らす祖母にはるばる会いに行った先で巻き起こる、東アジア文化あるあるも満載の、笑って泣けるヒューマンドラマだ。

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『フェアウェル』© 2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

そんな話題作を手掛けたのは、自身も中国系アメリカ人であるルル・ワン。映画業界に生きる女性として、そして在米のマイノリティとして様々な経験をしてきた監督が、本作の成り立ちやオークワフィナ起用の理由、そして“アメリカと中国の間”で生きることについて語ってくれた。

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「アメリカと中国との間にいる人間が主人公なんです。この点を維持するために闘わなければいけなかった」

―『フェアウェル』は監督ご自身の経験が反映されているそうですね。

そうなんです。私自身のなかにある“相反する感情”を探求しようと思ったのがきっかけでした。この映画で描かれる展開は、私自身の人生に実際に起きたことです。祖母が医師から余命わずかであると告げられたのに、本人には秘密にしておくように家族に頼まれたことがありました。

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私自身は、主人公のビリーと同じように告知すべきだと考えていました。アメリカ人として、真実は常に正しいと信じているので。同時に、私は自分の家族を愛しているから、彼らが望んでいないことをやるわけにはいかない。だから、双方の主張を探求するチャンスだと思ったんです。これは私のような中国系アメリカ人じゃなくても、どの家族でも直面する問題だと思います。それに、現代社会はあまりにも分断されてしまっている。意見が合わない人がいても、然るべき敬意を持ったまま、関係を維持させることはできないだろうか? この映画を通じて、ずっと考えてきたこのテーマについて探求してみました。

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―女性であり、マイノリティでもあるあなたが長編映画を完成させるまでには、さまざまなハードルがあったのではないでしょうか。

私自身が体験したことについて、自信を持って“伝えよう”と思えるまでに、とても時間がかかりました。この映画をプレゼンするとき、みんなに聞かれたんです。「これは中国の映画? それともアメリカ映画?」って。アメリカ人か、中国人か、という私自身が抱えるアイデンティティの問題を題材にしているからこそ、そうした疑問が出てくるのも当然でした。

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はじめのころは、ためらいがちに「アメリカの物語」だと答えていたんです。アメリカ人の私が見た中国文化ですから。ただし、出演者はみんなアジア人かアジア系アメリカ人で揃えて、きちんとした中国語映画にしたかった。すると、当然字幕が必要になるので、「それはアメリカ映画じゃない、中国映画だ」と指摘されて。今度は中国の投資家に中国映画としてプレゼンすると、主人公の設定を変更しろと言われた。ビリーの価値観は西洋的すぎて、中国人の観客には共感できないからだと。でも、私は中国で生まれ育ったわけじゃないから、その視点で物語を書くことができない。私はアメリカと中国との間にいて、その間にいる立場の人間が主人公なんです。この点を維持するために闘わなければいけなかった。

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「“物事が上手くいっているときほど注意しなさい”という母の助言を意識しています」

―オークワフィナをヒロインに起用した理由は?

彼女のことは以前から知っていたんです。ミュージックビデオを通じて、ラッパーとしての活動を知っていて。実は、教えてくれたのは私の兄なんです。「君にそっくりだ。背がちっちゃなアジア人女子だ」って(笑)。

―(笑)。

『フェアウェル』© 2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

そんな経緯でオークワフィナのことは知っていたんです。その後、ビリー役の候補としてプロデューサーが彼女の名前を出したとき、「私のことをそんな風に見ているの?」って驚きました。私自身を投影させた役柄に、ラッパーを提案するなんて! って(笑)。

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その後、彼女と喫茶店で会うことになりました。そのとき、音楽やコメディをやるために、オークワフィナというキャラクターを演じていると教えてくれたんです。本名はノーラ・ラムといって、中国人のおばあちゃんに育てられたから、ビリーにはとても共感できるというんです。そのときは彼女に演技ができるかどうか分からなかったので、あとでオーディション用の映像を送ってもらいました。彼女の演技はとても感情がこもっていて、これなら映画を任せられるなと思いました。

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―おばあさんやお母さんから貰った助言で、大切にしているものはありますか?

ありすぎるほど。とくに意識しているのは、母の助言ですね。「物事が上手くいっているときほど注意しなさい」というものです。逆に「何もかもうまくいっていないときは、間もなくきっと良いことが起きる」と。だから、いまはちょっと不安です。『フェアウェル』がこうして完成して、みんなが好意的に評価してくれている。だから、いまにもひどいことが起きるんじゃないか? と身構えていますよ(笑)。

『フェアウェル』ルル・ワン監督© HFPA

取材・文:小西未来

『フェアウェル』は2020年10月2日(金)より公開

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