TOKYO No.1 SOUL SET『9 9/9』から検証する、他のバンドは真似すらできない彼らの革新性

『9 9/9』('99)/TOKYO No.1 SOUL SET

今年4月にリリースされたTOKYO No.1 SOUL SET、実に8年振りとなるオリジナルフルアルバム『SOUND aLIVE』。そのアナログ盤『SOUND aLIVE LP』が7月28日にリリースとなった。現在、デビューアルバムを含めて彼らの初期作品は廃盤となっており、それらの入手困難な楽曲をリメイクしたのがこの『SOUND aLIVE』で、『LP』ではそれに加えて、クラムボンの原田郁子をヴォーカルに迎えた「止んだ雨のあと(原田郁子(clammbon)on vocal)」をボーナストラックに収録しており、ファンには嬉しい仕様となっている。今週の邦楽名盤は、そのTOKYO No.1 SOUL SETからピックアップ!

比類なきループミュージック

TOKYO No.1 SOUL SET(以下ソウルセット)は、トラックメイキングをする川辺ヒロシ(Dj)、トーキングラップが特徴のBIKKE(Vo)、サウンドプロダクション担当の渡辺俊美(Gu&Vo;)の3人編成。ウィキペディアでは“ヒップホップバンド”とされている。MC&DJ;のヒップホップユニットとも、ヴォーカル&ギターのバンドとも異なるスタイルではあるので、確かにその形容は言い得て妙ではある。バンドにDJが加わったかたちのミクスチャーバンドとも違う。あまり他にはないタイプであることは間違いない。いや、“あまり”じゃなく、このスタイルはソウルセット以外にいないと言い切っていいかもしれない。形態が他にないだけでなく、そのサウンドも他ではなかなか聴けないものなのだ。1990年代半ば、初めて彼らの音源に触れた時に──確かアルバム『Jr.』だったと思うが──そう思った記憶があるし、本稿の作成にあたって『9 9/9』を聴いて改めてそれを感じた。

あえて、ものすごーーーく雑に、乱暴極まりない言い方をすると、ソウルセットの音楽はループミュージックに分類されるものだと思う。同じフレーズを繰り返すことで、その心地良さを見出したり、そこにヴォーカルを乗せることで物語を紡いだりするのがループミュージックだと思うが、個人的な見解を、これまた乱暴に述べさせてもらうと、中には聴いていて退屈と感じるループミュージックが、ごくたまーーーにあったりする。例えば、アルコールが入っている状態で聴いて陶酔してしまった…なんて経験がないわけではないけれども、それが頻繁に起こったこともなかった気がするし、素面でループミュージックに陶酔することは確実になかったと思う。何でそうなのかと言うと、要するに、同じフレーズの繰り返しは飽きるのだ。仮にサウンドやメロディーが良かったとしても、それがただ繰り返されるだけではだんだんとつまらなく感じてくるのである。それは人間の本能のような気がする。さらに、そのつまらなく感じるトラックにゆったりしたラップが乗った日には、もっとキツい。一定のトーンで淡々と発せられる言葉を聴き続けるのがつらいことは、多くの人が賛同するところではないかと思う。眠気を誘うということで言えば、快楽の境地に達するという本来の意味での陶酔と言えるだろうが、発信者にはおそらくそういう意図はないだろう(ここまでの話は、筆者が過去にそういう音楽を聴いたことがあった…ということで、特定の何かを腐しているのではありませんし、そもそもかなり個人的な見解ですので、悪しからずご了承願いたいと思います)。

ただし…である。ソウルセットにはそういう印象がない。彼らの場合、ループミュージックにトーキングラップというスタイルの楽曲が多いのであるが、飽きたとか、つらいと思ったことが一度もない。毎回、我を忘れてうっとりと聴き惚れてしまう…というと、いささか大袈裟だけれども、少なくとも飽きることはないし、あとでも述べると思いが、後半に進むに従ってスリリングさを増していくなど、むしろ“このループの先には何が待っているのだろう?”と興味を抱かせるような楽曲が多いのだ。その辺が“ヒップホップバンド”たる所以なのかもしれない。そんなわけで、アルバム『9 9/9』を振り返りつつ、ソウルセットのサウンドのどこに惹かれるのかを考えてみたい。

優れたメロディーとの相乗効果

まず、彼らの楽曲が優れたメロディーを有していることを、大前提として挙げておかねばならないと思う。それはアルバムのオープニングナンバーであるM1「Traffic Express」からはっきりとしている。ブラスとスキャットがそれぞれに心地良い音域と抑揚によって旋律を描き、そのふたつが交差していく。どちらのメロディーもとても耳馴染みが良い。ほぼその繰り返しではあるのだが、楽曲全体で2分半程度であり、しかもその前半40秒くらいはSEなので、冗長には感じない。この辺の作りは上手い。

M2「許された夜」では、ギターが鳴らす印象的な旋律に、若干ノイジーだがキャッチーなスキャットが乗っていて、それが基本となってリピートされていく。これが耳にへばりつく感じ…と言ったもいいだろうか。聴き進めていくと、それとはまた違ったメロディーが聴こえてくる。《例えば夜が 消えて無くなる/忘れ去られる黄昏/例えば君が 消えて無くなる 与えられない影》の箇所だ。しかも、そのパートの終わりでは、ギターのカッティングでこれまでとはまた違ったフレーズが刻まれる。ループが基本で鳴らされているものの、それだけでなく、いくつかの耳の残るメロディーが配されているのである。M2に関して言えば、凡そ3分程度の間に…であるし、《例えば夜が~》のメロディーはその中盤でしか出てこないので、不思議な余韻を残す感じでもある。

M3「先人達の夢」も同様で、決して明るい雰囲気ではないけれども、ポップと言っていいアクセントを持った旋律がイントロから楽曲を引っ張っていく。ここの主旋律は何で鳴らしているのだろうか。ブラスっぽくもあるし、ギターっぽくも聴こえる。シンセかもしれない。いずれにしても、とても耳を惹き付けるメロディーである。そして、これもまたギターが背後を支えている形で、美味しいところでトレモロっぽい鳴りが入ってくる展開が心憎い。

M2、M3とヴォーカルはほぼラップであったのに対して、M4「Key word(9 9/9mix)」では歌から始まる。これがなかなか爽やかなメロディーで、コーラスが重なっていったり、背後でシンセを被せたりと、主旋律を丁寧に聴かせている。途中でラップが入ったあと、いわゆる間奏ではホーンセクションがまた新たな旋律を披露。そのブラスセクションが後半では主旋律に絡んできて、ラップも同様に主メロと交差していくので、同じメロディーと言っても、セクション毎に聴こえ方が違っていて、繰り返している感じがない…とは言わないまでも、聴き進めるのが楽しく感じるところではある。リズムがモータウンっぽいシャッフルビートで、全体に弾むような感じがあるのも、その楽しさを助長しているのだろう。

続くM5「a little sleep」は、ここまでの他の楽曲に比較してトラックはメロディー、サウンドともに控えめな感じではあって、楽曲の中心にはラップがあると言わんばかりのスタイルで進んでいくような印象を受けるが、幻想的なメロディーがこれまたスキャットで聴こえてくるから油断がならない(?)。どこか懐かしく、柔らかい旋律であって、いい意味で肩の力が抜けた感じというか、ゆったりとしたイメージなのだろうと思っていると、ちょうど中盤に差し掛かった辺りで、プログレ風と呼んでいいだろうか。転調して(というか、ほぼカットインして)鋭角的なオルガンが鳴るのだから、ますます油断がならない。

M6「Sunday」は頭打ちのリズムのアップチューンで、シェイカーが疾走感を与えている。途中、モノローグも入っているが、基本は歌モノ。サビはともかく、Aメロ辺りは抑揚に乏しい印象もあるが、オクターブユニゾンで厚みを出しており、聴き応えが乏しいわけではない。ブルースハープが重なる辺りフォーキーというかロックというか…なかなか新鮮な感じでありながら、そのハープが鳴らすメロディーもアウトロにかけて楽曲の中心となっていくのがおもしろいところだ。

…と、図らずも、M1~6までダラダラと解説してしまったが、ここまで聴いてくればはっきりと認識できる通り、ソウルセットの楽曲はループミュージックとはいえ、単純にひとつのメロディーだけを繰り返しているわけではなく、とある旋律がリピートされていったとしても、そこにその他の旋律が重なることで、セクションに応じて別の響きを持たせたり、繰り返しの中にそれとは異なるメロディを差し込むことで、単純な繰り返しに思わせなかったり、といった工夫が成されていることが分かる。しかも、それらのメロディーが印象的なものばかりなので、相乗効果もより大きいと考えられる。ソウルセットの楽曲の心地良さはそこに秘密があるように思う。

生演奏を凌駕するグルーブ

M4でモータウンっぽいビート、M6ではパーカッシブな疾走感を指摘したけれども、ソウルセットはこうしたリズムの取り込み方も上手い。当然リズムはループミュージックにおいて重要な要素であって、仮にメロディーはどうってことなくともリズムトラックが秀でていればそれで十分に聴けるものになるものもある。最初期のヒップホップとかには多分そんな側面があったような気がする。

M7「時間の砦」もそのリズムの観点で聴くとおもしろいナンバー。これがまた単純なループではないのだ。わりと手数が多いというか、ギターのメロディーや歌メロに呼応した感じでシャカシャカと南米っぽいダンサブルなリズムを刻んでいくが、途中から裏打ちでシンバルを強調したトラックに変化。ラップの譜割りはそれほど変わってない様子なので、仮にリズムが同じままで続くなら…と考えると、もしかすると単調に聴こえたかもしれない。いや、というよりも、このリズムの変化は楽曲を単調にさせないというか、全体に起伏を持たせるためにやっていると考えられる。ポップに仕上げるため…と言うとやや語弊があるかもしれないけれど、そんな工夫を見て取れる。

ソウルを感じさせるM8「under the rose」はゆるやかなテンポで、エレピもギターも落ち着いた雰囲気で進むナンバーなので、M7に比べればリズムは淡々としていて、パッと聴きには、それこそ単調に刻まれていくけれども、途中ブレイクを入れたりと、やはり聴かせどころをわきまえた処理がされているところも聴き逃せない。

M9「夜明け前(9 9/9mix)」はシングルがスマッシュヒットを記録したナンバーだ。さすがに《そっと 繰り返されてる町に ふっと 駆け出してみたら/そっと 風断ちかけてた夜に やっと 終わりを見れたら》のメロディーがかなり耳に残るが、イントロで奏でられるピアノの旋律もシンプルながら相当にいいし、スキャットも印象的。《緩やかな朝靄に包まれて》以降の歌メロも派手さはないが、背後のコーラスのアンサンブルによってとてもきれいに聴こえて、ソウルセットの肝がメロディーであることを再確認できるところである。…なんて思っていると、そこに絶妙なタイミングでラップが乗ってきて、別にラップを恋しく思っていたわけではないのだけれど、不思議と“待ってました!”とばかりに気持ちが盛り上がってしまうという、妙な高揚感がある。そのラップが《この町を出ることにする》と締め括られるに至っては──“文学的”と言われるだけあってか、ソウルセットのリリックははっきりと意味が掴めるものは多くない気がするのだが、M9では何か決定的なメッセージを突き付けられたようで、他ではなかなか味わえない緊張感が孕む。やはり名曲なんだと思う。後半になるとタンバリンだろうか、チャカチャカとした音がリズムに並走していくのも、M7で指摘したことそのものだろう。

クラップと妙な電子音に乗ったスキャットから一転、ジャジーなピアノのループが展開するM10「隠せない明日を連れて」も相当に興味深い。分析すれば、とあるピアノのフレーズをサンプリングしてトラックを作り、そこにラップを乗せているということになるのだが、“そこを切り取るか!?”というおもしろさが圧倒的にあるし、しかもそれをペダンチックにやっているのではなく、“これ、いいでしょ?”といったフレンドリーさがあるように感じられるところが素晴らしい。圧倒的なポップセンスを浴びるようなナンバーである。

M11「Bow & Arrow 〜あきれるほどの行方(9 9/9mix)」は本作の中でも白眉なナンバーと言えるだろう。スパニッシュなギターから始まって、ロック的なカタルシスを持った鋭角なリズムでグイグイと楽曲をけん引し、セクシーで圧しの強いメロディとシャープなラップが乗っていく。音数も多く、さまざまなフレーズが雑多に重なっていくので、中盤ではややカオティックにもなっていくのだが、その個々のフレーズがそれぞれにスリリングなので、緊張感がリレーされていくというか、楽曲が進行するにつれて増幅していくような印象を受けるのだ。その空気をひと言で言うと“グルーブ”となるかもしれない。本来“グルーブ”とは演奏を指して言うもので、トラックメイクには使うべき言葉ではないのは承知している。だが、このカッコ良さは“いいグルーブ”と呼びたい代物だ。本稿序盤で、ソウルセットはループミュージックではあるが単純なそれではないというようなことを言ったのは、これがあるからである。単純な繰り返しではないどころか、生演奏のバンドを凌駕するようなサウンドを創造する──それがソウルセットの本質なのではないだろうか。

M11で極に達するアルバム『9 9/9』は、続くM12「Sundae Solution」で開放感のあるメロディーをまったりと聴かせ、ポップなM13「New Week」で締め括られる。共に歌もラップもないけれど、それ故にこのバンドの奥深さを感じさせるような締め括りだと思う。

音源を聴きながら進めていたらついアツくなって、つらつらと思うがままに好き勝手に書いてしまった。最後に、かなり昔(多分25年前)、渡辺俊美にインタビューしたことを思い出して、その掲載誌を引っ張り出してきたら、彼はこんなことを言っていた。“もし過去に自分たちみたいなやり方をやっている人たちがいて、そのやり方を教えてくれるというなら教えてほしいです”。自らの革新性についてかなり自覚的だったことが分かる台詞である。確かに『9 9/9』にはそう豪語するだけのサウンドが記録されていた。

TEXT:帆苅智之

アルバム『9 9/9』

1999年発表作品

<収録曲>
1.Traffic Express
2.許された夜
3.先人達の夢
4.Key word(9 9/9mix)
5.a little sleep
6.Sunday
7.時間の砦
8.under the rose
9.夜明け前(9 9/9mix)
10.隠せない明日を連れて
11.Bow & Arrow 〜あきれるほどの行方(9 9/9mix)
12.Sundae Solution
13.New Week

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