学部系統別の入試結果は「ほぼ理高文低」、“理高”の中でも人気に差がある

2021年度入試結果を学部系統別に見ると国公立大学は、薬学系など前年よりも志願者数が増えた学部系統も見られますが、私立大学は全ての学部系統で前年よりも志願者数が減少しました。ただ、志願者数の減少率が平均値並みの学部系統と大幅に減少している学部系統に分かれていますので、相対的に人気のある学部系統と不人気の学部系統に分かれているとも言えます。国公私立大学を通してその傾向は「ほぼ理高文低」ですが、理系分野の中でも人気に差が見られます。

外国語系、国際系学部は不人気だが、むしろチャンスの可能性も

志願者数の減少による倍率の低下などから、入試は徐々に競争緩和に向かっているように見えます。ただ、全体集計と個別の学部系統では傾向が異なります。河合塾の大学入試情報サイトKei-Netや駿台予備学校のホームページでは詳しく説明がされており、系統別動向などを見ることができます。特に河合塾サイトでは、国公立大学は細かな学部系統の内訳まで入試結果集計が公開されていますので、学部系統の人気あるいは不人気がよく分かります。2021年度入試結果を一言で言うと「ほぼ理高文低」です。理系分野の人気は高いのですが、全ての分野が人気とは言えないため、“ほぼ”としています。これについては後半で説明します。

文系ことに文・人文系はかなり厳しい結果となっています。中でも外国語系、国際系のいわゆるグローバル系の学部系統の志願者数減少が目立ちます。国公立大学の国際経済系だけが大幅に増えていますが、下関市立大学の一部の方式が昨年低倍率の反動で増えていることによるものです。こうしたケースを除くとグローバル系の不人気は明らかです。この傾向は来年度入試でも続くと見られています。コロナ禍で留学ができなくなったことなどが主な理由と思われますが、考え方を変えれば不人気の今が倍率などの面から見て、受験生にとってチャンスと見ることができるのではないでしょうか。これから入学する生徒が実際に留学するのは多くの場合2~3年後です。その時には留学のための環境は改善されていると思われます。また、グローバル化はこれからもますます進展すると考えられますので、グローバル系の学部の必要性が無くなることはありません。むしろオンラインとリアルを組み合わせた留学によって、教育効果に加えて費用の面でも従来の留学よりも充実するケースも出てくるでしょう。

現在、すでにユニークな取り組みを行っている大学も見られます。昭和女子大学(東京都・世田谷区)はキャンパス内にアメリカの州立大学日本校(テンプル大学ジャパン)があり、独自の取り組みが進んでいます。神田外語大学グローバル・リベラルアーツ学部(千葉県・千葉市)は、リトアニア、インド、マレーシア・ボルネオ、エルサレムへの海外スタディ・ツアー(現在はオンラインとリアルの組み合わせで実施)など独自の教育プログラムを実施しています。また、近畿大学国際学部(大阪府・東大阪市)は、予定より1年遅れですが米国派遣を再開するなど大学によっては新しい試みが動き始めています。近畿大学は今年の9月中旬にも出発する予定と発表しています。ここ数年でグローバル系学部は、国公私立大学を通じて設置する大学数が増え、選択の幅も広がっていますが、それぞれの大学で教育内容に個性があります。受験生にとってはかなり選べる環境にあると言えるでしょう。

参考サイト:

河合塾の大学入試情報サイトKei-Net 一般入試 入試結果

https://www.keinet.ne.jp/exam/past/

駿台予備学校 大学入試情報

https://www2.sundai.ac.jp/yobi/sv/news/index.html

昭和女子大学 国際交流・留学

https://univ.swu.ac.jp/international

神田外語大学 グローバル・リベラルアーツ学部

https://www.kandagaigo.ac.jp/kuis/main/faculties/gla/

近畿大学 国際学部

https://www.kindai.ac.jp/international-studies/

→次ページ薬学系、看護系、情報系は引き続き人気が高い

薬学系、看護系、情報系は引き続き人気が高い

理系分野の入試結果の特徴は、医療系の人気が引き続き高いことです。医学部も一頃のブームからは、やや落ち着きかけていた感がありましたが、再び人気が高まり、看護系、医療技術系の人気も継続しています。医療系の中では特に国公立大学の薬学系の人気が高まりました。薬学部はここ数年、人気が下降傾向にありましたが、受験生が再び注目をしています。これまでも大きな災害や紛争などがあると、医療系学部の人気が高まることは何度も見られました。今回は感染症の治療薬やワクチンなど創薬に関心を持った受験生が増えたものと見られます。この傾向はまだしばらく続くと思われます。

また、情報系学部の人気も安定して継続しています。2017年に滋賀大学にデータサイエンス学部が設置されて以降、毎年のようにデータサイエンス系の新学部が設置されていますが、情報系人気の中心は、志願者数の規模や学科数の多さから見ても工学系と言えるでしょう。工学系学部は受験科目で数学は必須ですが、情報系の場合は数学ⅡBまでの範囲で受験可能な工学系の学部もあります。

また、情報系を志望していても工学系を目指していない受験生の場合は、経営学・商学系、社会学系の学部も選択肢に入れておきたいところです。経営学・商学系の学部では、ほとんどの大学でマーケティングの科目やゼミなどがありますが、学ぶ内容にデータサイエンスが含まれています。と言うよりも、データサイエンス系学部で学ぶ消費者の志向や消費者行動は、経営学・商学そのものです。また、社会学系の学部で学ぶ社会調査法は統計学が必要となりますのでデータサイエンスを学んでいると言って良いでしょう。意外なところでは工学部経営工学系の学科も同様です。経営工学系の学科を設置している大学は多くはありませんが、青山学院大学、中央大学、法政大学、東京理科大学など主要な大学で設置されています。

→次ページ「理高」と言われる中で農学系は伸び悩む

「理高」と言われる中で農学系は伸び悩む

このように理系分野は人気がありますが、実は農学系の志願者数は伸びていません。それが冒頭の“ほぼ”につながっています。1990年代半ばには、バイオ・テクノロジーが注目され、バイオブームとも言える状況を背景にして農学系人気が高まりましたが、ここ数年は落ち着いています。近畿大学の研究成果によって水産系に人気が集まった時期もありましたが、農学系全体としては人気が伸び悩んでいる状況です。理由については識者から様々な指摘がされていますが、実際のところはよく分かっていません。ただ、15年ぐらいの単位で見ると私立大学の理系分野の総志願者数に占める農学系志願者数の比率は低下しています。言わば市場シェアの低下です。実はその観点でみると医療系(含む医学部)も市場シェアは低下しているのです。では、どこが伸ばしているのかというと工学系の情報・通信系です(建築系も伸びています)。今後、受験人口の減少が本格化しますので、市場規模が縮小する中でのシェアの低下と言ってしまうと希望が見えませんが、実は今は人気の情報系も2008年頃は不人気学系の代表格でした。そのため、いずれ農学系に再び人気が戻る可能性がないとは言えません。あるいは“食”のキーワードで近接する家政系と受験生を取り合うことになるのかも知れません。実はこの家政系の分野の方が、農学系よりも難しい課題を抱えているようにも見えますが、その話はまた別の機会にしたいと思います。

© 大学ジャーナルオンライン