【山崎慎太郎コラム】必殺シンカーを同点弾にされた阿波野さん…珍しくバント処理をミス

第2試合の9回、阿波野と梨田がバント処理で交錯

【無心の内角攻戦(3)】近鉄伝説の「10・19」のロッテ戦第1試合は梨田昌孝さんの勝ち越し打で4―3と逆転勝利。西武とのゲーム差はなくなり、第2試合に勝てば優勝が決まる。引き分ければ優勝はない。約20分の休憩後、18時44分にまだ興奮のさめない状態で第2試合が始まりました。先発の高柳出己さんは緊張してカチカチやし、スタッフ全員が高揚している。

試合は高柳さんが先制されてまた追いかける展開に…。点が入ればヨッシャーってなるし、シーソーゲームになってふだん本塁打をあまり打たない吹石徳一さん、真喜志康永さんなんかが打つ。神がかっていたから負けるなんてまったく思わない。3点負けてても4点取れる。ブライアントがいくら三振したって最後はカポーンと行くんちゃうかって。最後までわからない。負けてても負けると思っていない。何も疑っていないですもん。

仰木彬監督も冷静に見えてかなり興奮していたと思います。中西太コーチもそうだし、今までにないくらい気持ちが入っていたでしょう。冷静に見ていたのは権藤博投手コーチくらいだったかなあ。バタバタせずに継投パターンを考えていたと思います。逆転し、7回で3―1と近鉄リードの場面でテレビで全国放送が始まったらしいですね。もちろん僕らは知らないし、番組すっとばしてとか、CMなしで、とか。今考えたら思い切ったことするなあ、と思いますね。

試合は3―3の同点にされ、8回にブライアントが勝ち越しの34号。僕らの盛り上がりも球場もすごかった。ところが、第1試合に続いてリリーフ登板した阿波野秀幸さんがその裏、高沢秀昭さんに同点弾を浴びた。あのシンカーはシーズン中も打たれていなかったのに…。17日の阪急戦に完投し、中1日のロッテ戦第1試合で抑えをやって、また2試合目も抑えで投げている。精神的なものは僕らじゃ計り知れないし、阿波野さんも打たれる気なんてなくマウンドに上がっている。第1試合で投げてベンチに戻ってきた時、阿波野さんの目は完全に血走っていました。あんな顔、見たことなかったですもん。絶対に負けられへん気持ちがあったと思います。同点にされてもブライアントがまた打ってくれるやろって…。

第2試合は延長12回までで、4時間を経過したら新しいイニングに入らないとの規定がありました。4―4の同点で9回に入り、近鉄が相手のファインプレーでチャンスを逃すと、その裏に問題の場面があった。阿波野さんが珍しくバント処理をミスして無死一、二塁のピンチ。その後、二塁にけん制し、高めに浮いたボールを二塁手の大石第二朗さんが捕って走者の古川慎一さんの背中にタッチした。それが走塁妨害ということで有藤道世監督が猛抗議ですよ。時間が少なくなっていくのに抗議は続く。何してくれてんねん、こっちは時間ないねん!

☆やまさき・しんたろう 1966年5月19日生まれ。和歌山県新宮市出身。新宮高から84年のドラフト3位で近鉄入団。87年に一軍初登板初勝利。88年はローテ入りして13勝をマーク。10月18日のロッテ戦に勝利し「10・19」に望みをつないだ。翌89年も9勝してリーグ優勝に貢献。95年には開幕投手を務めて近鉄の実質エースとなり、10勝をマークした。98年にダイエーにFA移籍。広島、オリックスと渡り歩き、2002年を最後に引退した。その後は天理大学、天理高校の臨時コーチや少年野球の指導にあたり、スポーツ専門チャンネル「Jスポーツ」の解説も務めている。

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