社説:ロ首相択捉訪問 揺さぶりの真意は何か

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 ロシアのミシュスチン首相が、北方領土の択捉島を訪問した。ロ政権ナンバー2の首相が北方四島を訪れるのは2年ぶりだ。

 日本側はロシア側に訪問を控えるよう要請しており、外務省が駐日ロシア大使を呼んで強く抗議したのは当然だ。

 実効支配を誇示するような行為が日ロの信頼関係を悪化させることは明白である。

 現地の病院や水産加工施設を視察したミシュスチン氏は、北方四島に欧米なども含めた外国の投資を呼び込むため、関税免除の特別区を設ける構想を示した。

 ロシアが日本側の同意なく第三国の企業を誘致できる一方的な内容だ。領土問題を複雑化する恐れがあり、日本としては看過できない。

 気がかりなのは、領土交渉を重ねてきたプーチン大統領の意向をくんでいるとみられる点だ。プーチン氏は、ミシュスチン氏の極東訪問に際して北方領土に「特別な注意」を払うよう指示し、経済特区の提案内容についても評価したとされる。

 2016年に安倍晋三前首相とプーチン氏が合意し北方四島で目指している共同経済活動は、日本側が求める双方の法的立場を害さない制度づくりが難航している。今回の訪問は、経済開発を急ぎたいロシア側が、交渉を有利に進めるために揺さぶりかけたのではないかとみられている。

 ロシアは9月に下院選を控え、北方領土返還を求める日本に譲歩しない姿勢を示すことが選挙でプラスになるとの計算も透ける。

 プーチン氏に働きかけて領土交渉の打開を目指してきた日本側は困難な状況に陥ったと言えよう。

 領土問題を巡っては、安倍氏とプーチン氏が18年11月に会談し、北方四島のうち歯舞・色丹の2島引き渡しを明記した日ソ共同宣言に基づく平和条約交渉を加速させることで合意した。日本は4島の返還要求を事実上、2島に絞り込んだかたちだ。

 だが、ロシアは昨年、憲法改正で領土割譲を禁止する条項を盛り込んだ。領土交渉は不透明さを増している。

 プーチン政権は、日本に対して領土問題では強硬姿勢を取る一方で、ウクライナ問題などで厳しい制裁を科す欧米と異なり、経済協力の相手として重要な存在と認識しているようだ。

 菅義偉政権は、真意が見えにくいロシアの動向をしっかりと見極め、事態打開の糸口を探らねばならない。