【高校野球】“出場機会なし”も京都国際主将は「100点満点」 大阪桐蔭の背番号「14」に学んだ姿勢

マウンドでナインに声をかける京都国際・山口吟太主将(中央のヘルメット姿)【写真:荒川祐史】

京都国際・山口吟太主将(3年)は控えの三塁手、チームをまとめあげた

激闘の決勝戦。それでも主将のユニホームは綺麗なままだった。全国高校野球選手権京都大会は28日、決勝戦が行われ、京都国際が11年ぶりの甲子園出場を狙う京都外大西を6-4で下し、夏初めての夢切符を掴んだ。今大会1度も出場機会のなかった山口吟太主将(3年)に小牧憲継監督は「100点満点」とそのリーダーシップに感謝した。山口には“モデル”となった主将像があった。【市川いずみ】

優勝を決めた主将の声は枯れていた。今春の選抜に出場した京都国際は下級生がメンバーの中心選手。この日もスタメン9人のうち、4人が2年生だった。準決勝を11得点で勝ち上がったチームを「あまり調子に乗るなよ~! と引き締めました」と指揮官が話すように、若くて、勢いがある。

後輩たちをコントロールし、1つにまとめ上げたのが山口だった。本職は三塁手。誰よりも周りを見ることができ、チームメートも練習にもひたむきに取り組む主将と評価するほど、練習に打ち込んだが、実力のある後輩たちには力が及ばなかった。それでも「2年生たちの気分を乗せてあげたい」とどのように自分がチームにプラスに働けるかを考えた夏だった。

お手本にしたのは昨年の大阪桐蔭の薮井駿之裕主将(現・大商大)だった。昨夏、甲子園で行われた交流試合で背番号14を背負っていた。名門では異例の2桁背番号キャプテン。「ビハインドでもベンチでメンバーに声をかけたり、雰囲気をよくするような言葉を出したりしていて試合にでなくても主将としてかっこよかった」と山口の目には薮井が輝いて見えた。「強いチームのキャプテンはこうあるべきなんだなと勉強になった」。

京都外大西との決勝戦は序盤3回で両校あわせて12四死球と荒れた展開。3-4と1点ビハインドで迎えた4回。この回、先頭の3番・植西龍雅内野手(3年)が二塁への内野安打で出塁すると、山口は冷静に状況を判断し、4番・中川勇斗捕手(3年)に声をかけた。

目指すは甲子園での出場「いつでも準備はできている」

「風が吹いていたので、レフト方向へ引っ張ってもいいぞ」。

1ボールからの2球目。中川がフルスイングした瞬間、京都外大西ナインは誰1人、1歩も動かなかった。左翼スタンドへの完璧な2ラン。これで逆転し、流れは京都国際に傾いた。

5回に1番・武田侑大内野手(2年)の本塁打で6-4。試合は9回へ入り、初めての夏舞台へあとアウト3つとなった。しかし、エース・森下瑠大投手(2年)が二塁打と四球で同点のランナーを背負う。1死二、三塁で山口がマウンドへ向かった。「1つ1つアウトを取ればいいから」。落ち着きを取り戻した森下は後続を見事に打ち取った。

京都国際にとって、初めての夏の甲子園。「強い気持ちを前面に出していたら、最後、あんな風に結果を出せると思う」と山口は夢舞台であることを思い描いている。昨夏の交流試合で東海大相模(神奈川)と対戦した大阪桐蔭の藪井は8回の守備から途中出場。2-2の同点で迎えた8回裏。甲子園での最初で最後の打席で決勝の2点適時打を放っていた。

「いつでも結果を残せる準備はしているつもりなので、甲子園でチャンスがあれば薮井さんのようにチームを助ける仕事をしたい」。チームに尽くしてきた主将の最後の夏。野球の神様は最高の舞台で微笑んでくれるはずだ。(市川いずみ / Izumi Ichikawa)

市川いずみ(いちかわ・いずみ) 京都府出身のフリーアナウンサー、関西大学卒。元山口朝日放送アナウンサー時代には高校野球の実況も担当し、最優秀新人賞を受賞。NHKワースポ×MLBの土日キャスター。学生時代はソフトボールで全国大会出場の経歴を持つ。

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