【東京五輪】 陸上女子100メートル、大会を輝かせる5つの理由

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エリー・トマソン、BBCスポーツ

オリンピックのハイライトといえば陸上競技の短距離走。それは東京オリンピックも変わらない。だが今大会、女子100mは注目度で際立っている。陸上は30日、競技が始まった。

スプリントの女王たちが東京を輝かせる理由、そしてこの夏のイベントを際立たせる理由を紹介する。

イギリスの真の挑戦者

BBCのスポーツ解説者スティーヴ・クラムはイギリスの立場から、ディナ・アッシャー=スミスこそ「真の挑戦者」だと評する。

「優勝とまでいかなくともメダルは確実に獲得できる、という選手はイギリスに常にいたわけではない」、「ディナはベストの走りをしなければならないことは分かっている。それでも彼女は私が選ぶトップ3に入る」。

イギリスは2008年以来、オリンピック陸上女子100メートルの決勝に進出できていない。北京大会で6位に終わったジャネット・クワチーは、イギリス女子史上最速のアッシャー=スミスこそメダルを獲得できると確信する。

「私たちは200メートル世界チャンピオンとしてのディナの能力を知っている。しかし彼女は100メートル走者としても素晴らしい。メダルに挑むには真のベストを出す必要がある」

「私たちがディナを愛し、メダルのチャンスがあると確信できるのは、彼女に優勝実績があって、自分がどうすべきかを知っているからだ」

男子よりエキサイティング

1984年のオリンピック陸上男子1500メートルで銀メダルを獲得したクラムは言う。「シェリー=アン・フレイザー=プライスは誰でも知っているし、エレイン・トンプソンもみんなが知っている。ディナはビッグネームになりつつある」。

「男子については予想がつかない。男子100メートル決勝に進出した選手は誰もが『ここでメダルを獲得できるかもしれない』と考えるだろう。ある意味ではそれでいいのかもしれない。けれど注目を集めるという意味では、ボルトもいなければ(ジャスティン)ガトリンも、(ヨハン)ブレイクさえいない」

「(男子には)この10年で有名になったキャラクターが欠けている。一方、女子にはそのキャラクターがいて、有名人がいる」

しかも上位の選手は全員が絶好調にあると、イギリスの元100メートル勝者クワチーは指摘する。

「その全員がそろって100メートルに出場するのは超エキサイティング。長年の歴史で初めて、男子のレースに対する期待をしのぐ。今現在は、男子よりもずっとワクワクする」

無観客も問題なし

新型コロナウイルスが流行している間中ずっと、アスリートたちは無人のスタジアムで、あるいは非常に少数の観客の前で競ってきた。その時間は無駄にはならなかった。

6月にフレイザー=プライスは、ジャマイカ・キングストンで10秒63をマークして史上2番目に速い女性になった。それより速く走ったのはアメリカの世界記録保持者、フローレンス・グリフィス=ジョイナーだけだ。

クラムは「アスリートはみんな、足をスターティングブロックにかければ、観客が10万人いようが無人だろうが関係ないと同じことを言う。いずれにしてもビッグパフォーマンスが見られる」と話す。

クワチーも「地元のアスリートにとっては観客の存在がプラスになることはあるけれど、今回は地元のアスリートは関係しない」と語った。

「全てはプライドと、ベストの状態でいること、誰にそれができるかに尽きる。だから観客によってそれほど大きな違いが出るとは思わない。間違いなく素晴らしい展開になると思う」

予想不可能

今年は誰も突出した実績を挙げていないことから、勝者は簡単には予想できない。

ジャマイカのシェリカ・ジャクソン(26)、エレイン・トンプソン=ヘラー、シェリー=アン・フレイザー=プライスの3人は全員が10秒8を切っている。特にフレイザー=プライスは印象的だ。息子のザイオン君を出産するため2年間この競技から離れたにもかかわらず、一層速さを増している。

「シェリー=アンは2008年と2012年の2回の五輪で優勝し、世界大会のメダルも複数持っている。彼女は勝ち方を知っている。人生のこの段階で、母親として出場する。だからモチベーションも変わるし、何もかもが違う。何を優先するかが違うので、超ワクワクする」とクワチーは言う。

一方、ジャクソンは400メートルから100メートルに切り替えた。クワチーは、ジャクソンがサプライズになる可能性もあると見る。

「シェリカは信じられないような素晴らしいことをやってのける。あのポジションにいることは、彼女にとって素晴らしい。失うものは何もないから。彼女には誰も何も期待しない。だから彼女が完全にリラックスして五輪のラウンドをどう切り抜けるのか、本当に興味深い」

アッシャー=スミスは今年に入り、10番目の記録しか出せていない。それでもまだレースで負けたことはなく、5月にはフレイザー=プライスを破って勝利した。

本当に誰が勝ってもおかしくない。

2021年の飛び抜けたスターが不在

アメリカのシャカリ・リチャードソン(21)は、マリフアナ検査で陽性反応が出て1カ月の出場停止処分となり、オリンピックに出場できなくなるまで、間違いなく100メートルの優勝候補だった。

米マイアミで10秒72をマーク。全米陸上競技連盟(USATF)はその時の動画を

ジャマイカ・キングストンでフレイザー=プライスがその記録をしのぐタイムを出すまで、今年世界で最も速く、史上6番目に速い女性だった。

リチャードソンがいない東京のレースは一層面白くなるとクワチーは解説する。

「彼女はあまりにも才能が際立っていたので、大きなセンセーションを巻き起こした。みんながまだ彼女のことを話題にするだろう」

「彼女は自分が出場すれば優勝して、最強のジャマイカ選手2人を破れるはずだったと思っている。みんながこれからも、この騒ぎが一体何だったのか見極めようとするだろう」

クラムは「この競技(への影響)を思うと落胆している」と言い添えた。

「私たちみんなが3~4年前から彼女に注目してきたのは、彼女が若く並外れた才能の持ち主で、大学で記録を塗り替えてきたからだ」

「残りのシーズンは彼女が出場してくれることを願う。出場停止は終わるので、本人が望めば出場できる。来年はユージーン(アメリカ)で世界選手権が行われるので、彼女の復帰を期待する。次の3~4年は彼女が圧倒するかもしれない」

(英語記事 Five reasons why the women's 100m will light up Tokyo