日銀も動きだした、日本企業の気候変動対応は待ったなしの理由

昨年10月の菅首相の所信表明演説における2050年カーボンニュートラル宣言、及び今年4月に発表した2030年度の温室効果ガス排出削減目標で、日本は気候変動問題へのコミットメントを強化しました。これらの野心的な目標の達成に必要となる施策に関する議論が、足元において急ピッチで進んでいます。

今回はその中でも特に重要とみられる分野、気候変動対応について、日本の対策を整理していきたいと思います。


新たなエネルギー基本計画

エネルギー基本計画とは国が定める中長期的なエネルギーについての基本方針であり、概ね3年おきに見直し、改定がなされます。この最新版となる第6次エネルギー基本計画の原案が、当初の予定時期から遅れて遂に7月下旬に公表されました。

注目点は計画の中で示された2030年度の電源構成比です。現行の計画からの変更点としては、再エネの電源構成が現行の22~24%から大幅に引き上げられ36~38%に、更に新たな電源として水素・アンモニアが1%分加わりました。また、同じく非化石電源である原子力発電の構成比は、現行の20~22%に据え置かれました。一方、発電時に温室効果ガスを排出する火力発電の構成比は現行の56%から41%に引き下げられました。

なお、経産省は今回示した2030年の電源構成比は、あくまで様々な課題を克服できた時の野心的な見通しと位置付けています。再エネの構成比では、施策の積み上げによる具体的な裏付けがない部分が残ることなどが背景にあるとみられます。

もし、原案が最終案として閣議決定された場合、計画実現のため再エネ・省エネ分野における積極的な政策支援が講じられるものとみられ、関連産業は恩恵を受ける可能性があります。

政府はグリーン成長戦略を改定

政府は、昨年12月に策定したグリーン成長戦略の改定版を6月に公表しました。今回の改定にあたって、政策手段や各分野の目標実現の内容の具体化が図られました。自動車を例に取ると、小型の商用車について2030年までに新車販売における電動車の割合を20~30%に、また2040年までに合成燃料等に対応した車両と合わせて100%にする方針が示されました。

また、グリーン成長戦略ではカーボンニュートラルの実現に向けて政策を総動員する姿勢が強調されています。こうした中、一部の政策では取り組みの進展がみられます。例えば、成長戦略内で分野横断的な主要政策ツールの一つとして挙げられているグリーンイノベーション基金については、資金支援の対象となる18の事業分野が選定されています。

中でも、「大規模水素サプライチェーンの構築」、「再エネ等由来の電力を活用した水電解による水素製造」、「次世代航空機の開発」、「次世代船舶の開発」といった事業分野は、支援対象の公募が進められています。残りの事業分野についても、2021年度上半期中を目途にプロジェクトが開始される見通しです。

ついに日銀も動きだした

政府が気候変動分野へ大きく政策の舵を切る中、中央銀行も気候変動への対応強化に踏み切りました。

日本銀行は、6月の金融政策決定会合において、「気候変動関連分野での民間金融機関の多様な取り組みを支援するため、金融機関が自らの判断に基づき取り組む気候変動対応投融資をバックファイナンスする新たな資金供給の仕組みを導入する」と表明し、続く7月会合で新たな仕組み(以下、気候変動オペ)の骨子案を示しました。

この気候変動オペを通じて、日銀は日本の気候変動に資する投融資を行う金融機関に対し、0%の貸付利率で貸し付けを行います。また、このオペを利用する金融機関の日銀当座預金にかかる金利が0%となる部分を拡大することで、利用を促す仕組みです。さらに日銀は気候変動に関する取り組み方針を併せて公表し、シナリオ分析に基づく気候関連金融リスクの定量的な把握など気候変動対応強化に向けた一連の施策を示しました。

今回の気候変動オペの詳細な制度設計については今後日銀内で検討が進められていく見通しですが、企業の資金調達におけるグリーンファイナンスの活用を活発化させる契機となりうる可能性があります。

企業は気候変動対応のリスクとチャンスを見極めよ

このように日本においてもエネルギー政策、財政政策、そして金融政策における気候変動対応の戦略が徐々に具体化しつつあります。こうした中、脱炭素社会への移行期において企業が高成長を遂げていくためには、気候変動のリスクと機会の両面を適切に捉えていくことがより重要になります。

リスクの観点からは、今回示されたエネルギー基本計画の原案と整合させるよう民間の省エネを推進するために、将来的に日本でも欧州並みの強力なカーボンプライシング政策が講じられる可能性が想定されます。その場合、事業活動の脱炭素化対応が不十分な企業にとっては収益悪化のリスクとなります。

一方、機会の観点からは上述のグリーン成長戦略で示された重点分野については、今後も一段の政策支援がなされる可能性が考えられます。また、日銀の気候変動対応の強化が資金の流れをシフトさせる契機となり、気候変動問題に積極的に取り組む企業へより資金が流入しやすい環境が急速に整備されていく可能性も想定されます。

気候変動への対応状況が企業の収益に及ぼすインパクトが今後一段と増大していく可能性には留意が必要です。

<文:エコノミスト 枝村嘉仁>

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