感染3000人超後もテレビは五輪一色!『スッキリ』はコロナ扱い3分で加藤浩次が“五輪無罪”主張、フット岩尾だけが違和感を表明 

「五輪礼賛」報道の『スッキリ』

東京都の新規感染者がまたも最多更新で4000人目前の3865人、全国でも初の1万人超え──。まさしく東京を中心に未曾有の危機に瀕しているが、その一方、肝心の菅義偉首相や小池百合子都知事は「人流は減っている」「ワクチンの効果は出ている」とこの期に及んでも楽観的な発言を連発している。対策責任者から火に油を注ぐメッセージしか出てこない現状に、政府分科会の尾身茂会長も「政府においても、いままで以上にしっかりとしたメッセージを」と訴えた。

だが、感染拡大に拍車をかけているのは政治家だけではない。菅首相や小池都知事は中止の判断もせずに東京五輪を続行させるという異常な行動に出ているが、それを批判することもなく、新型コロナもそっちのけで連日連夜「またも金メダル!」などと絶叫して五輪報道に明け暮れているテレビ、とりわけワイドショーの罪は大きい。

しかも、こうした「五輪一色」状態は、東京で新規感染者数が最多を更新しつづけてもつづいている。

たとえば、これまで新型コロナ情報を熱心に伝え、政府による対策の不備を批判的に報じてきた『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)は、今朝30日の放送では冒頭から20分ほど五輪情報を伝え、その後は約1時間、感染拡大問題などについて特集。だが、初の3000人超えという衝撃的な数字が出た翌日の29日放送では、新型コロナの話題は冒頭から約25分ほど伝えただけでその後はほぼ五輪一色の状態だった。

しかし、それでも『モーニングショー』はまだマシなほうだ。

フジテレビの『めざまし8』の場合、本日は五輪中継で放送がなかったが、昨日29日放送では番組冒頭でMCの谷原章介が深刻なトーンで「オリンピック、メダルラッシュで盛り上がっていますがコロナの新規感染者数ですごい数字が出ました」と切り出した。ところが、その後はコメンテーターの橋下徹が「新規感染者数だけで一喜一憂する必要はない」、社会学者の古市憲寿も「8月末までに(65歳以上の)8割ぐらいが(ワクチン)接種を終えているという状況のなかで、コロナに対する比べ方、われわれ意識を変えないといけないと思うんですね」などと政府の代弁を繰り出すばかり。一応、橋下は「(政府は)五輪の撤退ラインを示すべき」と東京五輪中止の可能性にも触れたが、谷原が「オリンピック、コロナ禍のなか頑張っている選手たち、きょうは『めざまし8』お届けしていきたいと思います」とまとめると、その後は「内村に代わる“新エース”誕生 得意の鉄棒で大逆転」として体操・橋本大輝選手の金メダル獲得の話題に。新型コロナの感染拡大について取り上げたのは、なんとたったの約8分間だけだった。

●『ひるおび!』では田崎史郎が「効果ある対策ってなんですか? それを教えて下さい」

さらにひどかったのが、昨日29日放送の『ひるおび!』(TBS)だ。10時30分から11時30分までの午前の部もほとんどが五輪の話題で、11時55分からの午後の部では感染拡大問題を扱ったが、そこで登場したのは「政権のスポークスマン」である田崎史郎氏。案の定、「(政府が発信する)メッセージは、まあ菅総理は多少ユルいと思うんですけど、ユルいというか上手くはないですけど、小池さんや吉村知事なんかはちゃんとやっている。でも、(感染者数は)こうなんですよ。じゃあ効果ある対策ってなんですか? それを教えて下さいっていうのが政府の立場」と主張し、挙げ句、「宣言の効果が出なくなっている。その根幹の部分はやっぱり飲食店、酒類提供の問題」などと言い出す始末。そして新型コロナの話題がはじまって約40分後の12時37分には、再び話題は五輪の金メダルラッシュに移ってしまったのだ。

最初で免罪符のように軽く新型コロナの問題を扱って、その後は五輪情報になだれ込む。これは他の午後のワイドショーも同様で、昨日29日放送の『情報ライブ ミヤネ屋』(読売テレビ)は番組冒頭から約20分、『ゴゴスマ』(CBCテレビ)は約30分、感染拡大について伝えると、その後は待ってましたとばかりに五輪の話題を伝えつづけた。

新規感染者が3000人超えという状況に陥っても、深刻な声色や表情でものの数分〜数十分それを伝えるだけで、一転して「ニッポンがまた金メダル!」とお祭りムードに早変わりする──。あまりに支離滅裂すぎて観ているこちら側がおかしくなりそうだが、しかし、そんななかでも「五輪礼賛」報道に明け暮れているのが、日本テレビの『スッキリ』だ。

そもそも、日本テレビは他の番組でも目に余る「五輪礼賛」報道をつづけているが、『スッキリ』の熱烈ぶりはすさまじい。実際、番組では以前にMCの加藤浩次が無観客開催を訴えた際に口にした「静寂の中の熱狂」というフレーズをキャッチコピーにし、阿部祐二リポーターと視聴者が「感動の瞬間をリモートで分かち合う」という「阿部と五輪を見る会」を実施。昨日29日放送では、番組冒頭からヒートアップした「阿部と五輪を見る会」の模様を振り返り、さらにメダルを獲得した競技別に元体操メダリストの森末慎二、元柔道メダリストの篠原信一、元飛び込み代表で瀬戸大也の妻である馬淵優佳がゲストとして登場するという特番さながらの力の入れようで五輪の話題をたっぷり放送。

一方、新型コロナ感染拡大の話題も扱うには扱ったが、なんとその時間はわずか約3分。今朝30日の放送では約10分とわずかに増えたが、それも五輪情報のあとの扱い。全国で新規感染者が1万人を超えたというのに、今朝も『スッキリ』は番組冒頭から延々と五輪の話題を伝えつづけたのだ。

しかも、『スッキリ』がすごいのは、ほんのちょっとだけ免罪符のように新型コロナ感染拡大を取り上げるなかで、堂々と「五輪は無罪!」と主張していることだ。

●加藤浩次「五輪のせいじゃない」「五輪にかこつけて外出てる人が悪い」

実際、今朝の放送では、MCの加藤が「家でオリンピック観てください、そのあと飲みに行ったりしないでください、外を出歩かないでくださいと国・自治体は言っているにもかかわらず、人が出ていたりとか、それで増えているわけですよね?」と強調。緊急事態宣言の効果が薄れていることについて、「もう一回それをやるためにはやっぱり指導力とか発言力とか説得力とか、そういうことが大事になってくるのかな、トップの方々のね」と指摘しながらも、こう訴えたのだ。

「やっぱり一人ひとりの気持ちですよ。オリンピック盛り上がってるから外出ようぜって、これ全然オリンピックのせいじゃないですからね。オリンピック悪くないですからね。オリンピックにかこつけて出てる人が悪いわけだから。ここは分けないと、オリンピックやってるからみんな気持ちがあがって外に出るって、これオリンピックと切り離さなきゃいけないなって僕は思うんだけどね、そこね。そこ大事なとこだと思うな〜」

人出が減らず感染が拡大しているのは外出している人が悪い、五輪で気持ちが盛り上がっても外に出る人が悪いだけで、五輪は何も悪くない。加藤はわざわざそう強調したのだ。

まったく何を言っているんだろう。そもそも五輪を開催してお祭り騒ぎを繰り広げながら一方で国民には「家にいろ」と強要することの矛盾はさんざん指摘されてきたもので、「お祭りをやっているんだから外に出てもいいだろう」と考える人が悪いのではなく、感染拡大局面で外出を促すような一大イベントを中止もせずつづけていることが問題なのだ。実際、政府お抱えの専門家からも「五輪というか、お祭りが行われているメッセージも影響する可能性がある」(脇田隆字・国立感染症研究所長)、「五輪をやることと感染拡大を防止しなければいけないという、少し矛盾したメッセージが出ていることも要因の一つ」(太田圭洋・日本医療法人協会副会長)という指摘も出ている。

そして、その異常なお祭り騒ぎの片棒担ぎをしているのが、『スッキリ』をはじめとするテレビの五輪報道だ。にもかかわらず、「やっぱり一人ひとりの気持ち」などと国民に責任を押し付け、“感染拡大と五輪は切り離さなきゃいけない”と主張する……。ようするに、自分たちの熱狂的な報道は悪くないと主張するために、「外を出歩いている人が悪い」と罪を擦り付け、国民を藁人形にしているのだ。

●『バイキング』ではフット岩尾が「日本選手ワーの映像」と感染者数のギャップを指摘

だが、加藤のようにあからさまに口にしないだけで、他の番組も同じようなもの。たとえば昨日29日放送の『ひるおび!』でも、五輪が感染拡大の要因になっているという問題についてはスルー。「あなたは現在の行動をどう改めようと思いますか?」という視聴者アンケートの回答のなかには「オリンピックを開催している以上、改めるつもりはない」というものもあったが、スタジオのトークは“やっぱりワクチンが鍵”などという論調でまとめられていた。

そんななか、報道の責任について言及したのは『バイキングMORE』(フジテレビ)くらい。以前も本サイトでお伝えしたが、『バイキング』はMCの坂上忍が五輪再延期を訴え「五輪選手の活躍を伝えて、次のコーナーでコロナの死者を伝えるなんてできない」と繰り返してきたためか、他のワイドショーの五輪・金メダル礼賛報道とは毛色が異なっている。今週は坂上が夏休み中で不在だが、それでも昨日29日の放送では番組冒頭から約50分ほど感染拡大問題を特集。その後も水難事故問題やコロナ禍の業績悪化で所属事務所が破産した小金沢昇司、大島優子と林遣都の結婚といった話題を取り上げ、五輪の話題はそのあとに約20分という他番組とは違う短さだった。本日30日の放送でも、コロナ感染拡大についてをメインに扱い、五輪についても競技そのものはわずか5分程度報じただけで、選手の感染や猛暑、食品ロス、竹中直人の開会式辞退、ドイツ体操女子による性的視点への抗議など、五輪の問題点のほうを報じていた。

そして、29日の放送ではミッツ・マングローブが「都内はお祭りやっていますから、そういうなかでの人流っていうのは見受けられますよね、やっぱり」とコメントし、さらにフットボールアワーの岩尾望もこう述べていた。

「最近、ニュースでも情報番組でも、なんとなくオリンピック一色な感じあるじゃないですか。で、(新規感染者が)3000人とか出たらやっぱりドキッとするじゃないですか」
「昨日も夕方のニュース観てて、ニュース速報出たんですね。『東京都3000人 過去最多』みたいな。で、その画面にメダル獲った日本選手がワーって(ガッツポーズを)やってて。その上に(ニュース速報が)出てるから、すごいギャップも感じるし」

この岩尾のコメントはまさしく、いま視聴者の多くが感じている違和感、戸惑いを表したものだ。昨日放送の『Nスタ』(TBS)では井上貴博キャスターが“オリンピックのことばかりというお叱りもいただく”といった旨のことを述べていたが、実際にそうした批判がテレビ局にも寄せられているのだろう。だが、それでもほとんどの番組が自ら内省することもなく、かつてない感染拡大状況のなかでもひたすら五輪礼賛を繰り広げているのだ。

「自分たちの五輪報道は感染拡大と関係ない」と無責任な態度をとり、感染拡大に拍車をかけるように東京五輪・金メダル礼賛報道をつづけるテレビ。無論、これでは五輪中止の判断をせず、一向に感染拡大に歯止めをかけようとしない菅首相らの責任をしっかり批判できるはずもない。菅首相は国民の命を守ることを放棄しているが、テレビも同じく、報道機関としての使命を放り出しているのが現状なのだ。
(編集部)

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