巧みなサウンドプロデュースが光るリトル・フィートの4thアルバム『アメイジング!』

『Feats Don’t Fail Me Now』(’74)/Little Feat

リトル・フィートのアルバムと言えば、多くの人の頭に浮かぶのは3rdアルバムの『ディキシー・チキン』(’73)だろうが、続く4thアルバム『アメイジング!(原題:Feats Don’t Fail Me now)』(’74)のほうが完成度は高いと僕は思う。『ディキシー・チキン』での圧倒的なパフォーマンスがあったからか、セッション活動が激増し多忙を極めたローウェル・ジョージの穴を埋めるように、ビル・ペインとポール・バレアがアレンジを手がけるようになった5thアルバム『ラスト・レコード・アルバム』(’75)や6thアルバム『タイム・ラヴズ・ア・ヒーロー』(’77)では、ファンクだけでなくプログレやフュージョンっぽい緻密なパフォーマンスを聴かせるようにグループのサウンドは変化していて、僕もリリース当時は他のアルバムと同様に聴き狂ったものだ。しかし、半世紀ほどの時間が経過してみれば、やっぱりローウェル中心のシンプルかつ力強いサウンドが詰まった『ディキシー・チキン』や『アメイジング!』に軍配が上がるのではないかと考えるようになった。そんなわけで、今回はリトル・フィートの『ディキシー・チキン』と双璧をなす名盤『アメイジング!』を取り上げる。

リトル・フィートというグループ

60年代中頃から音楽活動を始めるローウェル・ジョージは、フランク・ザッパ率いるマザーズに在籍するものの音楽性の違いから脱退し、映画『イージー・ライダー』で挿入歌としても使われた「ドント・ボガート・ザッツ・ジョイント」で知られるフラタニティ・オブ・マンにいたドラムのリッチー・ヘイワード、キーボードのビル・ペイン、ローウェルと同時期にマザーズを辞めたロイ・エストラーダの4人でリトル・フィートを結成する。リトル・フィートという名前はローウェルがマザーズに在籍時、グループのドラマー、ジミー・カール・ブラックに「ローウェル、お前の足は小さいな」と言われたことから、グループを作る時には使おうと考えていたそうだ。 そして、71年に大手のワーナーブラザーズから『リトル・フィート』でデビュー。セールス的には芳しくなかったが、彼らの代表曲となる「ウィリン」や「トラック・ストップ・ガール」を収録している。バーズのクラレンス・ホワイトはデビュー前からローウェルの曲作りの才能を高く買っており、バーズの70年作『タイトルのないアルバム』で既に上記2曲を取り上げて(「ウィリン」はCDリリース時のボートラ)いる。

翌72年には2ndアルバムとなる『セイリン・シューズ』をリリースする。「ウィリン」の再録をはじめ、「コールド・コールド・コールド」「セイリン・シューズ」「トライプ・フェイス・ブギ」など、リトル・フィートらしさが表れたブルージーな佳作となった。しかし、前作同様セールスにはつながらず、グループの再編を余儀なくされる。ロイ・エストラーダが脱退したのを機にグループは活動休止に追いやられるのだが、この時期にローウェルはザ・バンドの『カフーツ』(’71)、ドクター・ジョンの『ガンボ』(’72)、ヴァン・ダイク・パークス『ディスカヴァー・アメリカ』(’72)、アラン・トゥーサンの『ライフ・ラブ・アンド・フェイス』(’72)などを聴いて、自分の探し求めるリズム(特にセカンドライン)の研究をしている。そして、デラニー&ボニーのグループにいたサム・クレイトン(Per)とケニー・グラドニー(Ba)を新たに迎え入れることで、グループのリズムセクションは最強の布陣となった。特にグラドニーはルイジアナ出身であり、本物のセカンドラインを理解していただけにローウェルは心強かった。また、ローウェルがヴォーカルやスライドに専念するために、もうひとりのギタリストのポール・バレア(ローウェルと同じ高校の後輩)も参加し、リトル・フィートは6人組となった。

3rdアルバム 『ディキシー・チキン』の衝撃

73年、リズムセクションとソングライティングの強化を図ったこれまでとは明らかに違うアルバム『ディキシー・チキン』がリリースされた。プロデュースはローウェルが手がけている。本作の核として、アラン・トゥーサンの『ライフ・ラブ・アンド・フェイス』(バックはミーターズ他)のリズムセクションを手本にしつつ、セカンドラインファンクを取り入れた新たなロックのスタイルを生み出している。ローウェルのヴォーカルはこれまでとはかなり違って味わい深く伸びのある歌声を聴かせているし、ヘイワードのドラムワークもまるで別人かというぐらい強化されているのだ。このアルバムで最も素晴らしい部分は、重くタイトになったリズムセクションであろう。新たに加入したグラドニーのうねるベースがあるからか、ヘイワードのドラムもタイトでありながら粘りまくっている。リズムの間を埋めるようなクレイトンのパーカッションも絶妙だ。また、この作品ではボニー・ブラムレット(デラニー&ボニー)、ボニー・レイット、ダニー・ハットン(スリー・ドッグ・ナイト)他、7名の黒白混合バックヴォーカリストが参加し、アルバム全編にわたって重厚なゴスペルっぽいコーラスを披露している。

アルバム全編を貫いているのは、ブルース、R&B;、ファンク、ソウルなどをごった煮(ガンボ)にした彼らにしか生み出せないロックである。各種のアメリカンルーツ音楽を、原形をとどめないぐらいかき混ぜた音楽とでも言えばいいか。そういう意味では、まったく手法は違うがザ・バンドの諸作と似通ったところがあるかもしれない。少なくとも、何度聴いても飽きないところはザ・バンド的である。当時はリトル・フィートのアルバムは日本盤がリリースされていなかったので、電車賃を使って都市部にある輸入盤専門店まで行かなければならなかったのはつらかった(高校1年で万年金欠だったから…)。

本作『アメイジング!』について

そして、74年にリリースされたのが本作『アメイジング!』で、前作同様プロデュースはローウェルが担当(「スパニッシュ・ムーン」のみヴァン・ダイク・パークス)している。収録曲は全部で8曲と少なめだが、これまでと比べてペインとバレアがソングライティング面で貢献しており、ブギの「オー・アトランタ」(ペイン作)やファンクの「スキン・イット・バック」(バレア作)など、ローウェルの諸作にも劣らない出来になっている。本作では前作のシンコペーションの効いたリズムをさらに強化させており、ベース、ドラム、パーカッションが複雑に絡み合うリトル・フィート独特のグルーブがここにきて完成したと言えるだろう。78年の日本公演(ローウェル存命時)でも、グラドニーとヘイワードの繰り出す強力なリズムがリトル・フィートの真骨頂だと再認識した次第。パークスがプロデュースした「スパニッシュ・ムーン」ではタワー・オブ・パワーのホーンセクションが参加しており、グラドニーとヘイワードの重たいリズム間を縫ってのキレの良いプレイはゴキゲンだ。ローウェルの書いた「ロックンロール・ドクター」「ダウン・ザ・ロード」「スパニッシュ・ムーン」はどれもがリトル・フィートの代表曲と言っても過言ではなく、完璧な仕上がりになっている。

ローウェルとペインの共作「ザ・ファン」は変拍子で、以降のプログレ/フュージョン路線を予告するようなナンバー。アルバムの最後を締め括るのは『セイリン・シューズ』に収録されていた「コールド・コールド・コールド」と「トライプ・フェイス・ブギ」のメドレーで、両者を聴き比べてみるのも面白い。

ローウェルのスライドギターはもちろん、リードヴォーカルもこれまでで最高のパフォーマンスであり、僕は『ディキシー・チキン』と『アメイジング!』の2枚にローウェルの思い描く音楽が凝縮されていると考えている。「ザ・ファン」の代わりに『ラスト・レコード・アルバム』収録の「ロング・ディスタンス・ラブ」が収録されていれば最高なのになあ…とも思う。

余談になるが、本作にエミルー・ハリスやボニー・レイットと一緒にバックボーカルで参加しているフラン・テイトは、このときペインのガールフレンドで、のちに結婚している。

なお、本作から、ようやくリトル・フィートの日本盤がリリースされるようになった。

TEXT:河崎直人

アルバム『Feats Don’t Fail Me Now』

1974年発表作品

<収録曲>
1. ロックン・ロール・ドクター/Rock & Roll Doctor
2. オー・アトランタ/Oh Atlanta
3. スキン・イット・バック/Skin It Back
4. ダウン・ザ・ロード/Down the Road
5. スパニッシュ・ムーン/Spanish Moon
6. 頼もしい足/Feats Don't Fail Me Now
7. ファン/The Fan
8. メドレー/Medley
〜コールド・コールド・コールド/Cold Cold Cold
〜トライプ・フェイス・ブギー/Tripe Face Boogie

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