<レスリング>「前任者の積極的な改革を見習いたい」…全国高体連レスリング専門部・原喜彦理事長に聞く(上)

 

 今年4月の全国高体連レスリング専門部の役員改選で、副理事長だった原喜彦氏(新潟・県央工高教)が理事長に昇格。高校レスリング界の改革を手がけることになった(注=正式にはインターハイ期間中の理事会で決定)。選手としてはオリンピックに2度出場し(1988年ソウル・1992年バルセロナ)、選手生活を退いたあとは、新潟県協会を支えて毎春の風間杯全国高校選抜大会の開催に尽力。全国高体連専門部の重鎮として高校選手の強化に携わり、その行動力は高く評価されてきた。原・新理事長に高校レスリング界の現状と将来を聞いた。(7月19日、滋賀・ウカルちゃんアリーナ / 聞き手=布施鋼治)

全国高体連レスリング専門部役員(2021年4月~2023年3月)

【部長】千葉裕司(神奈川・瀬谷西高)、【副部長】真田栄作(千葉・京葉工高)田中秀人(滋賀・栗東高)、【理事長】原喜彦(新潟・県央工高)、【副理事長】沖山功(香川・香川中央高)、杉山慶太(静岡・沼津城北高)、【審判委員長】猿田充(山梨・都留興譲館高)、【強化委員長】森下浩(和歌山・和歌山北高)、【事務局長】兼井雅典(茨城・結城二高)


――初めに、理事長に就任したにあたっての抱負をお願いします。

原理事長 私は副理事長を5年間、やっていました。前任の千葉(裕司)理事長は、ずいぶんと多くの改革を実行しました。階級区分変更や計量が当日朝になったことへの対応、正式種目としての女子のインターハイ採用などですね。女子は、2018年の三重インターハイから正式種目の予定だったところを、1年前倒しして山形インターハイから採用しました。こうした積極的な改革を見習いたいと思います。まず、女子のインターハイ出場枠の見直しに着手しようと思い、進めています。

高校レスリング界の現状と今後を熱く語った原喜彦・レスリング専門部理事長=撮影・矢吹建夫

――具体的に、どう変更される計画でしょうか。

原理事長 女子の大枠の人数は(高体連で決まっているので)変えられません。各ブロック選出の人数です。普及の度合いに応じて出場枠を変えていく作業をしたいと思います。

――競技人口など、高校レスリング界の現状は?

原理事長 少子化の影響で選手が減っているのは確かです。18歳の人口が23%減っているそうです。高体連のレスリング専門部の登録は、3年前は約2500人でしたが、今年の現段階での登録が約2070人。この3年で500人弱も減っています。去年、コロナの影響で新年度から学校が休みとなり、部員を勧誘できなかった事情はあると思います。2500人が2070人に減ったというのは、17%減になります。高校生の人口が23%減っていて、レスリングは17%減…。健闘していると言えますね。

――高校生全体の減少割合からすれば、確かに健闘していますね。

原理事長 決して満足はしていませんが、野球やバレーボールなど元々選手数の多い競技の減り方のパーセンテージの方が、はるかに深刻なのかもしれません。

指導者を育て、環境を整えて選手数の増加を目指す

▲全国高体連発表《pdfファイル

――こうした中で、競技人口を維持し、増加に転じるにはどうすればいいでしょうか。

原理事長 環境を整える必要があります。前理事長から引き継いでいるのが、大会の競技役員を外部の人にお願いすることがあります。県単位、ブロック単位でやっていけると思います。指導者については、遠征は学校の先生が責任をもって引率することになりますが、毎日の練習の指導は、少年時代から選手を育ててきた人を認め、外部から招へいといった方法があります。1人の指導者が2校を掛け持ちで指導しているケースもあります。このあたりは、各都道府県の高体連と連携をとり、柔軟に対応できていると思います。

――指導者がいなければ、選手を育てること以前に、集めることもできないですね。

原理事長 全国高校選抜大会やインターハイは、学校の教員でなくとも、校長先生が認めれば引率や第2セコンドに入ることもできるようになっています。今後、そうした人たちには日本協会へも登録してもらい、指導者講習会にも出てもらって、しっかりした知識をもった指導者として高校レスリングに携わってほしいと思っています。

――柔道で活躍されていた山口香さん(1984年世界チャンピオン、日本オリンピック委員会・前理事)が最近、「(オリンピックなどで)金メダルを取ったからといって、競技人口の増加につながる時代ではない」と発言していました(関連記事)。高校レスリング界のトップとして、この言葉については、いかがお考えになりますか?

原理事長 柔道は国技ですよね。レスリングは外国のスポーツ。オリンピックでいい成績を取ることで世間にアピールできた部分があります。オリンピックに依存するのは仕方ないかな、と思います。オリンピックで金メダルを取ることを目標に普及に取り組んできた面があるし、これからもその一面は残ると思います。

――日本古来からあり、学校体育でも多く実施されている柔道のケースは、レスリングにはそのまま当てはまらない、と。

原理事長 女子の場合、2004年アテネ大会から採用され、オリンピックで好成績を残したからこそ普及があったと思います。吉田沙保里選手、伊調馨選手、浜口京子選手などは一般メディアに数多く扱われ、そのおかげでレスリングが世間に浸透して今があると思います。感謝しています。もし、オリンピックで金メダルを取れていなかったら、あるいは女子がオリンピックに採用されていなかったら、競技人口は今の半分もいっていないんじゃないですか。

部活動は人間を高める場、レスリングの成績がすべてではない

――普及という面で考えますと、少年少女レスリングの発展が大きいと思います。ただ、それによって、高校に入学してからレスリングを始める、という選手は減っているのでしょうか。

原理事長 全体の競技人口が減っている中、キッズ出身選手の数は増えていると思います。統計はとっていませんが、全体の半分くらいはキッズ出身の選手だと思います。

審判としての技量も高く評価されている原・新理事長。川井梨紗子と伊調馨のプレーオフのレフェリーを務めた=2019年7月(撮影:矢吹建夫)

――キッズ出身選手と高校に入ってからレスリングに取り組んだ選手とでは、実力に大きな差があります。こういう状況でも、同じ舞台で闘わないとならないでしょうか。

原理事長 チャンピオン・スポーツですからね。初心者だけの大会をやる、というわけにはいかないでしょう。指導者が、勝つだけではなく、レスリングを通じて生徒に何を求めさせるか、しっかりした気持ちを持ってほしい。高校は、社会に出る前の最後の修練の場です。成績は残せなくとも、部活動を通じて人間を高める場なわけで、レスリングの成績がすべてではない。山口香さんの話と関連しますが、上はオリンピックを目指させ、金メダルを取らせるのでいいと思います。一方で、そういう選手だけを大切にするのではなく、レスリングを通じて人間としての成長を見守れ、レスリングを好きになってくれる選手を育てる指導者であることも必要です。そこは、私たちもぶれずにやっていきたいと思っています。

――女子の話が出てきましたが、高体連専門部と全日本女子連盟とのつながりは、どうなっていますか?

原理事長 いろいろアドバイスをもらっていますし、こちらからお願いもしています。インターハイの女子のシードは、全日本女子連盟主催のジュニアクイーンズカップの結果で決めさせてもらっています。いい関係でやっています。

――「すみ分けがよく分からない」という声も聞きますが。

原理事長 私もよく分からないですが(笑)、女子の普及と発展のため、もうしばらくは(全日本女子連盟は)必要だと思います。将来は、男女平等の精神からして、女子だけの連盟というのは発展的に解消し、すべての傘下連盟で男女を同等に扱うのでいいかもしれない。

――専門部で女性役員の登用はいかがでしょうか。

原理事長 スポーツ界全体として、そういう流れですから、積極的に登用していきたいですし、参加してほしい。女性審判が増えていますので、まず審判ですね。女性役員がいる都道府県も多くなっています。産休という問題もあって大変なことは分かりますが、専門部にも女性役員を増やしていきたい。

《続く》

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