侍J平良は「もう弟ではなく師匠」 “兄貴分”の元西武守護神が驚愕した研究熱心さ

侍ジャパン・平良海馬(左)と山本由伸【写真:荒川祐史】

高橋朋己氏が語る平良の変化「雄星との自主トレから、体つきが変わり始めた」

28日に始まった東京五輪野球競技。21歳にして金メダル獲得を目指す侍ジャパンのキーマンとされるのが、西武の守護神・平良海馬投手だ。最速160キロを誇る右腕は今季、藤川球児(阪神)の日本最長記録を更新する「39試合連続無失点」を達成した。五輪の大舞台でも上々のデビューを果たした。

初戦のドミニカ共和国戦では2点を先制され、なおも2死一、二塁で登板。相手打者を遊飛に打ち取ってピンチを断ち切った。平良の“兄貴分”でニックネーム「海魔神(かいまじん)」の名付け親でもある元西武投手、高橋朋己氏がその素顔を明かした。

高橋氏自身、現役時代には西武で名リリーバーとして鳴らした。2014年に63試合登板で29セーブ、防御率2.01。翌2015年も62試合で22セーブ、防御率2.92をマークしている。2016年に左肘内側側副靭帯再建手術(トミー・ジョン手術)を受け、2018年には左肩痛を発症。相次ぐ故障に見舞われ、2軍での調整を余儀なくされていた頃、平良が2017年ドラフト4位で沖縄・八重山商工高から入団してきた。

「周りから『平良って(顔が)高橋に似ているよな』と言われて、僕が平良に『おまえ、俺に似ているなんて言われたら嫌だろ?』と聞いたら、『そんなことないっす。うれしいです』と言ってくれた。めっちゃかわいいやつじゃん、と好きになりました」と明かす。入団当時173センチ&84キロ(現在は100キロ)の平良と、174センチ&85キロだった高橋氏とは体形までよく似ていた。

「最初はあそこまでエグい球は投げていなかったですよ」と高橋氏は語る。平良の急成長が始まったのは、1年目の2018年オフ。西武からメジャーへ移籍するタイミングの菊池雄星投手が、平良の故郷・石垣島で行った自主トレに参加してからだと言う。「雄星との自主トレから戻ってきた頃から、体つきが変わり始めました」と証言する。

投球スタイルの変化に「できるのが平良の凄い所」

菊池の影響でトレーニングに対する意識が変わった平良は、翌2019年オフには球速やボールの回転数、回転軸などを計測する簡易型トラッキングシステム「ラプソード」を自費購入。渡米して菊池の自主トレにも参加した。高橋氏は「平良は凄く研究熱心で、頭がいい。自分の体のデータを取り、色々なことを考えながら行動に移せます。そういうことにはお金も惜しまない。年下ですが、意識の高い所を尊敬しています」と言う。

昨季(2020年)を迎えると、平良は高橋氏の復活を祈り、高橋氏が登場曲としていたE-girlsの「Follow Me」を代わりに使用。54試合33ホールド、防御率1.87という抜群の成績で新人王に輝いた。一方、高橋氏は故障が癒えずに現役引退を決断。引退に際し「平良のことは弟のように思っています」とコメントした。今季から小・中学生向け「ライオンズアカデミー」のコーチを務めている。

今季の平良はさらなる進化を遂げている。昨季は最速160キロの剛速球が軸だったが、今季はストレートを3~4割に抑え、スライダー、カットボール、チェンジアップなど変化球を駆使している。「それをできるのが平良の凄い所です。僕は現役時代、ストレートが80~85%を占めていました。残りはスライダーと遊び程度に投げていたスプリット。逆にスライダーを80%にしろと言われたら、絶対にできなかった。全く違うスタイルでやれているあいつは凄い」と驚きを口にする。

今季41試合、計39回2/3を投げてわずか1失点。防御率0.23、11セーブ21ホールドと、昨季にも増して圧倒的な数字を残している。「あれだけ球が速かったら、バッターはストレートのタイミングで待つしかない。1、2の3で打ちにいって、チェンジアップとか投げられたら、それは打てないですよ」と高橋氏。かといって、変化球待ちで速球に対応するのはなおさら無理だから、打者としては困難極まりない投手だ。

性格は“マイペース”、五輪でも「緊張しないのでは」

この剛腕は普段どんな性格なのか? 高橋氏に聞くと「マイペース!」と即答した。「何をしていても、何を言われてもブレない。グラウンドに他の選手がそろっていて、『練習始まるぞ!』と言われても、普通に自分のペースでトコトコ来たりします。『すみませ~ん』みたいな感じで悪びれない」と笑う。穏やかな離島で育ち、“超体育会系”でない雰囲気で野球を続けてきたからとも思われるが、高橋氏は「いや、超体育会系にいたとしても、あいつはあのままですよ。それくらいブレない自分を持っている」と断言する。

一方で「話をしていると、ニコーッと笑ってくれたり、いろんな表情をしてくれるので、うれしいですよ」と、平良の憎めない魅力を付け加えてくれた。

「足は速い方ではないし、体力もある方ではない」と高橋氏が言う通り、キャンプなどでランニングメニューをしていると、平良だけが周回遅れになっていることもある。高橋氏は「それ以上飛ばしたら、自分がしんどいとわかっているのではないですか?」と笑いつつ、「問題はいかに投げるパフォーマンスにつなげるか──ですから、そういうことは構わないと思います」と見ている。

そんな平良だから、初めて選出された日本代表でも緊張で力を発揮できないといった心配はないかもしれない。「多分、緊張はしないのではないですかね。外国人打者に自分の球が通用するかどうか、すごく楽しみにしていると思います」と高橋氏。「オリンピックでは無双してほしい。1人だけ打たれないとか。『やっぱり平良ってすげーな』って西武ファンだけでなく、全国のファンに知ってほしいですよ」と期待する。

高橋氏は「今はもう弟ではなく、“師匠”だと思っています。そりゃそうです。『あんな凄い記録、作ってみろ』と言われても無理ですから。図々しく兄貴面はできません」。高橋氏はそう謙遜する。だが、マイペースぶりを温かく受け入れ、かわいがってくれる先輩がいたからこそ、右腕はすくすくと育つことができたのではないだろうか。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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