どうなる東京の地下鉄ネットワーク メトロ有楽町線延伸と品川新線は「早期の事業化を図る」 交政審答申を深読みすれば【コラム】

東京メトロ有楽町線・副都心線用の新鋭17000系電車は、豊住線経由で東武スカイツリーラインに乗り入れるかもしれません(写真:鉄道チャンネル編集部)

交通政策審議会(交政審)は2021年7月15日、「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等について」を赤羽一嘉国土交通大臣に答申しました。いずれも地下鉄新線になる、東京メトロ有楽町線の豊洲―住吉間延伸線(豊住線)、メトロ南北線を分岐・延伸する都心部・品川地下鉄線(品川新線)は、両線とも「早期の事業化を図る」、東京駅から臨海部の豊洲、有明方面に延びる都心部・臨海地域地下鉄線(臨海地域新線)は「事業化に向けて、関係者による検討の深度化を図る」が結論です。

さらにメトロ株売却に関しては、「国と東京都が、同時・同率で全体の半数を売却する」と答申され、2004年の東京メトロの営業開始からの懸案だった株式上場に道が付きました。答申内容は、本サイトでも詳報されたほか、私も2021年2、5月のコラムで経過報告させていただいたので、ここではダブりを極力避け、答申のポイントともになぜ今、地下鉄ネットワークなのかを深読みしましょう。

(本稿は有楽町線延伸線は「豊住線」、都心部品川地下鉄線は「品川新線」、都心部・臨海地域地下鉄線は「臨海地域新線」の仮称・略称を使用します)

「新しい地下鉄は造らない」

2004年に営団地下鉄が民営化され、東京メトロに移管された際の有価証券報告書に記されていた、「民間企業の東京メトロは、これ以上の新しい地下鉄は造らない(大意)」が、答申の原点です。メトロ株はもっと早期に上場されても良かったのですが、国(国土交通省)と東京都の考え方の違いや株式市況の低迷で先送りされてきました。

メトロ株は国が53.4%、東京都が46.6%を保有、政府保有株の売却益は、使い道が決まっています。「復興財源確保法(略称)」という特別措置法で、東日本大震災復興債の償還に充てられます。復興庁の設置期限は当初は2020年度までとされ、その間にメトロ株は売却されるはずだったのですが、法改正で2030年度末まで10年間延長されました。

いずれにしても、政府分はいずれ市場放出されるので、東京都は完全民営化の前に地下鉄ネットワークの整備方針を決めてほしいと、国交省に要請。これを受けて国交省は、交政審陸上交通分科会鉄道部会に2021年1月、有識者による「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等に関する小委員会」を設置。東京メトロや東京都の考え方を聞いて、今回の答申に反映させました。

メトロ株売却に都は慎重姿勢?

都の主張は、小委員会への提出資料が未公表のため詳細は不明ですが、豊住線や品川新線、臨海地域新線の必要性を示し、早期着工を求めたと思われます。

株式売却に関しては、メトロが純民間企業になってしまうと東京都の意向が経営に反映されにくくなることから、都は慎重だったとされます。そういえば、いつの間にか立ち消えになってしまいましたが、10年ほど前、都が国の持つメトロ株を買い取って、東京都交通局と東京メトロを経営統合するというストーリーが、まことしやかにささやかれたこともありました。

国と都、両方の顔を立てる

交政審小委員会は、東京都が求める豊住線と品川新線を、東京メトロが事業主体となって建設・運営する一方、国が求めるメトロ株売却に都も同意するよう双方の顔を立てる形で議論を進めました。最終的には、国と都は保有株を同じ割合で、全体の半分まで売却。残り半分は、メトロの経営を支える目的もあって、当面それぞれが保有し続けることで合意しました。

東京メトロが「新線を建設しない」としている点に関しては、要はお金の問題なので、小委員会は国や都による公的支援の必要性を指摘して、答申に盛り込みました。

オリンピック後の建設不況を地下鉄新線プロジェクトで底支えする?

新国立競技場=イメージ=(写真:shu / PIXTA)

ここから答申を深読みします。先述のように、復興庁の設置期限は本来なら2020年度まで。答申に盛り込まれた新線建設とメトロ株上場の方針は、本来ならもっと前に決まっても良かったはず。

一方で、復興庁の設置期限が10年後の2030年度に延びたので、新線整備やメトロ株売却の方針決定は、もっと後でも良かった気もします。一年前の今ごろ誰も知らなかった(認識していなかった)のに昨年末、東京都が国交省に検討を要請したのは、いささか唐突な気もします。

想像になりますが、メトロの新線プロジェクトが2021年のこの時期に決まったのは、東京オリンピック・パラリンピックが微妙に関係しているように思えます。東京五輪開催は、2013年の国際オリンピック委員会(IOC)総会で決まったわけで、そこからの日本の街づくりは五輪に向けてまっしぐら。オリンピックスタジアムの新国立競技場建設をはじめとする、巨大プロジェクトが次々に出現しました。

折しも、コロナ前までの日本は、政府の観光立国政策が成果を挙げて外国人観光客が爆発的に増加。ホテルや国際会議場が不足するようになり、全国各地で施設整備が急ピッチで進みました。

ところが、新型コロナで情勢は一変。真偽は不明ながら、オリンピック後の日本は相当の不況に見舞われるとも噂されます。そうした世の中に、経済を下支えするのは公共事業。公共事業を所管するのは国交省で、道路関係では、コロナで若干の修正があるかもしれませんが、首都高速道路の日本橋付近を現在の高架から地下化する巨大プロジェクトが、五輪終了を待って始動するスケジュールです。日本橋付近の高速地下化は、概算事業費3200億円とも試算されます。

豊住線と品川新線の事業費は総額2500億円規模

これまで、鉄道には高速日本橋地下化のような大型プロジェクトがなかったのですが、今回2つの新線整備がほぼ決まったことで、鉄道にも対抗馬(とはもちろんいいませんが)ができました。

概算事業費は国の2018年度試算で豊住線1560億円、品川新線800億円。事業期間は最低でも10年程度は必要で、当面は経済を底支えする効果が期待できます。

もう一点、これは完全な想像ですが、今秋までに総選挙があります。これまでの選挙では、東京などの都市部で与野党双方が、有権者に届くような政策を打ち出せないでいました。

地下鉄新線が不要と思う方はあまりいないような気もしますが、いずれにしても本コラムで触れた四国、山陰、羽越・奥羽新幹線などと同様、例えば「地下鉄か福祉か」が選挙の論点の一つになる可能性もあります。

東上線とスカイツリーラインの東武2線がつながる

江東区が作製した豊住線のルート案。東陽町駅南側には東京メトロ深川車両基地があります(画像:江東区)

答申に盛り込まれた新線の運行系統などを予想してみましょう。最初は豊住線から。

豊住線は有楽町豊洲で分岐して東陽町でメトロ東西線に接続。半蔵門線住吉につながります。営業キロ約5.2キロ(建設キロ約4.8キロ)で、駅は有楽町線側から豊洲、ステーション1、東陽町、ステーション3、住吉の5駅。利用客数1日当たり27万3000人~31万6000人。費用便益性、いわゆるB/Cは2.6~3.0で、十分に元が取れます。

有楽町線は東武東上線や西武池袋線、半蔵門線は東武スカイツリーラインとそれぞれ直通運転しますから、あくまで想像ですが、メトロ有楽町線と半蔵門線を経由して、東上線とスカイツリー線という東武2線の直通運転が実現するかもしれません。

延伸線とメトロ東西線が接続する東陽町駅(地上部)。駅上にはバスターミナルがあり、交通結節機能を受け持ちます(筆者撮影)

品川新線は埼玉スタジアム線にもプラスの効果

品川新線のルート案と品川駅周辺の開発動向。AルートとBルートではホームの向きが違います(資料:交通政策審議会)

次に品川新線。メトロ南北線・都営三田線の白金高輪から分岐して、品川に至ります。ルートは2案あり、答申でもどちらを採用するかは示されませんでした。利用客数1日13万4000人~14万3000人。費用便益性は2.5~3.1で、こちらも元が取れます。

ルート案で線形を見ると、南北線飯田橋、四ッ谷方面から品川に直行でき、目黒や東急目黒線からは白金高輪でのスイッチバックというか方向転換が必要になります。将来の話ですが、おそらく品川行きは飯田橋方面から直通運転。目黒方面からは、同一ホームの反対側乗り換えになるのではないでしょうか。

南北線は埼玉高速鉄道埼玉スタジアム線と相互直通運転しており、埼玉スタジアム線は東武アーバンパークライン岩槻やJR東北線蓮田への延伸計画があります。実現すれば、アーバンパークライン沿線から品川への直行が可能になります(JR東北線は上野東京ラインで現在も品川に直行できます)。品川新線は、スタジアム線延伸にも一定のインパクトをもたらすでしょう。

「必要な取り組み進める」(赤羽国交相)

答申を受けて小池都知事とオンライン会談する赤羽国土交通大臣(画像:国土交通省)

臨海部新線に関しては都が交政審小委員会に必要性を示す資料を提出していますが、紙数が尽きたので紹介は次の機会に。

答申を受けた赤羽大臣は、「関係者と連携しながら、新線整備の前提になる公的支援や株式の確実な売却に必要な取り組みを進める」とコメント。早速、小池百合子都知事とオンライン会談して協力関係を確認しました。

東京メトロは、「豊住線と品川新線については、十分な公的支援と株式の確実な売却を前提に取り組みたい(大意)」と、答申を歓迎する考えを示しました。

文/写真:上里夏生

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