あすから8月

 「大きなスクリーンがあって、たくさんの人数が1回限りの同じ空気の中にいて、同じ場面で笑ったり、『ぐしゅ』って鼻をすすったり。それが映画いいな、映画やろう、と思った原点」「いろいろありましたが、そこは諦めたくない、という思いはあります」▲アニメ作品の記録的ヒットは明るい話題だったが、映画にもそれなりに“風当たり”が生じたコロナ禍の日々だ。映画館も休業要請の対象施設。大女優が「スクリーンから飛沫は飛ばない」と異議を唱える場面もあった▲冒頭に引いた言葉、「映画の魅力は感動の共有」と要約できるだろうか。発言者は映画監督の川瀬美香さん。昨年の秋に本欄でも取り上げたドキュメンタリー「長崎の郵便配達」をこのほど完成させた▲映画は被爆者の谷口稜曄さんを英国人ジャーナリストが取材・出版した同じ題名のノンフィクションを出発点に、記憶の継承や家族の絆を描く。少し前に試写会が開かれた▲最初のシーンは稲佐山からの眺望。高台に暮らした谷口さんの家を目指して細い坂道をカメラがくねくねと上り、夏の精霊流しも画面に。76年前と長崎の今をつなぐ作品、資金難は市民が広く支えた。本格的な上映開始はコロナ後の予定という。楽しみに待ちたい▲あすから8月、谷口さんが亡くなって4年。(智)

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