ロシアのISS新モジュール「ナウカ」ドッキングに成功するも一時ISSが傾く問題が発生

【▲ 国際宇宙ステーションにドッキングした多目的実験モジュール「ナウカ」(左奥)(Credit: Roscosmos/Oleg Novitskiy)】

日本時間2021年7月29日22時29分国際宇宙ステーション(ISS)へ新たに追加されるロシアの多目的実験モジュール(MLM)「ナウカ(Nauka)」が、ISSのロシア区画へドッキングすることに成功しました。

7月21日にバイコヌール宇宙基地から「プロトンM」ロケットを使って打ち上げられたナウカは、軌道上で状態を確認しつつ、ISSとランデブーするために8日間かけて徐々に高度を上げていきました。

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ISSに接近したナウカは、7月26日にドッキング室「ピアース(Pirs)」が分離したことで場所が空いたサービスモジュール「ズヴェズダ(Zvezda)」の下部(天底側)にあるドッキングポートに向かい、自動ドッキングシステムの誘導に従ってゆっくりと接近。ISS船内ではロシアの宇宙飛行士が手動システムを用いた遠隔操作でのドッキングにも備えていましたが、ナウカは自動システムを使ったままドッキングすることに成功しています。

▲ナウカのドッキング成功を伝えるISS公式Twitterアカウントによるツイート▲

いっぽう、ドッキング後のナウカでは問題も起きています。ドッキングから3時間ほどが経った日本時間7月30日1時45分、ナウカのエンジンが予期せず噴射を開始したことで、ISS全体の姿勢が傾く事態が発生しました。この傾きはロシア区画にドッキング中の無人補給船「プログレスMS-17」のエンジンを使ってすでに修正されています。

アメリカ航空宇宙局(NASA)は、一時ISSの左右の傾き(ロール角)が本来の角度から45度ずれたものの、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の星出彰彦宇宙飛行士をはじめ、ISSに滞在している第65次長期滞在クルーの7名に危険は及んでいないとしています。RIAノーボスチによると、国際宇宙ステーションプログラムマネージャーを務めるNASAのジョエル・モンタルバノ氏は、ISSにドッキングによる損傷は見つからなかったとコメントしています。

ロシアの国営宇宙企業ロスコスモスは7月30日、クルーとISSの安全を確保するためのナウカの推進システムに関連した一連の手順が完了しつつあり、作業完了後となる現地時間同日夜にもズヴェズダとナウカのハッチが開かれる予定であることを明らかにしています(予定通り進めば、本記事が公開された時点でハッチはすでに開いていると思われます)。

【▲ ナウカがドッキングした時点でのISSの構成を示した図(Credit: NASA、日本語表記は筆者が追加)】

なお、日本時間7月31日3時53分に予定されていたボーイングの新型宇宙船「スターライナー(CST-100 Starliner)」による2度目の無人軌道飛行試験「OFT-2」の打ち上げは、今回の事態を受けて延期されました。OFT-2ではスターライナーによるISSとの初のドッキングも計画されています。OFT-2の打ち上げは、早くても日本時間8月4日2時20分になる見込みです。

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ロシア区画の新たな実験棟となるナウカは船内と船外での科学実験に対応しており、実験装置等を出し入れできるエアロックや、欧州で開発された「欧州ロボットアーム(ERA:European Robotic Arm)」を装備。船内は宇宙飛行士の休憩場所としても利用される予定で、内部にはトイレや水再生システム、酸素生成装置も搭載されています。また、ナウカはISS全体のロール制御や、有人宇宙船「ソユーズ」および無人補給船「プログレス」のドッキングポートとしての役割も担います。

また、ロスコスモスは、6か所にドッキング機構を備えたノードモジュール「プリチャル(Prichal)」2021年11月に打ち上げてナウカにドッキングさせることも予定しており、月探査を視野に入れたロシアの新型有人宇宙船「オリョール」への対応も含むISSロシア区画のドッキング能力拡張を計画しています。

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Image Credit: NASA/Roscosmos
Source: Roscosmos / NASA / RIA Novosti
文/松村武宏

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