【新型コロナ】分科会尾身会長「今 対策しないと手遅れに」

 30日夜、政府の新型コロナ対策本部分科会の尾身茂会長が西村経済再生担当大臣とともに会見し、現在の感染拡大局面について「今、対策しないと手遅れになる」と強調し強い危機感を示した。会見では事実上の重症者が増えていること、デルタ株では嗅覚・味覚障害が起きにくく、より風邪との見分けがしにくいことなど、臨床現場からの新たな情報提供も行われた。

「事実上の重症者が増えている」

 会見ではまず、西村康稔経済再生担当大臣(兼新型コロナ対策担当大臣)が国立国際医療研究センターからの情報提供として、ある患者の写真を示し「ネーザルハイフロー療法」と呼ばれる療法を受ける「事実上の重症者」が増えていると注意喚起した。同療法は、中等症や重症に移行しそうな患者を対象に、肺炎で機能が落ちた肺に、鼻から大量の酸素を送り込むことで通常のおよそ10倍程度の酸素を投入するもので、人工呼吸器やECMOと違い、患者を麻酔等で眠らせる必要がなく、医療従事者の負担が大幅に軽減できる。厚生労働省も医療上のメリットが大きいとして、昨年から同省のコロナ診療の手引にも掲載し、全国の医療機関に積極的に取り入れるよう勧めている療法だ。

 ただ、この療法を受けている患者は現在の国、東京都の基準では重症者に該当せず、この療法を受ける患者が増えても「重症者数」は増えない。つまり「隠れ重症者」が増えているということで、西村大臣は見た目の重症者が少ないから安心することはできないとして、各方面に感染対策を徹底するよう呼びかけた。

 また、西村大臣は最近の症例から分かったこととして「デルタ株は嗅覚・味覚障害が起きにくく、ほとんど風邪と変わらないという報告がされている」とし、風邪かもしれないと自己診断せず、異変を感じたら医療機関を受診することを求めた。

「飲食店は頑張っている、職場や家庭での感染が増えている」

 さらに大臣は最近のクラスター発生状況にも触れ、飲食店は時短・休業要請の効果もあってクラスター発生数が継続的にあるものの数は減っていること、最近は職場・家庭での感染事例が増えていることを指摘した。「飲食店は頑張っている。職場、家庭で知らず知らずのうちにうつしてしまう事例が増えている」と述べ、こちらでも改めて対策の徹底を求めた。

尾身会長「今、対策をしないと手遅れになる」

 ともに会見に臨んだ尾身会長は、首都圏を中心とした感染爆発について、「多くの人が大変な事態になったと思い始めている。この機会を逃せば増加する感染に歯止めを掛けることが難しくなる。今、対策をしないと手遅れになる」と述べ、対策徹底の必要性を強調した。続けて「重症者の数だけ見ていると見誤る。(ネーザルハイフロー療法を受けるような)高濃度の酸素を必要とする中等症の患者数や入院調整中、自宅療養の人の数も見ることが非常に重要」とし、これらを見ながら、状況が悪くなれば間髪入れずに緊急事態宣言を全国に拡大する必要性が出てくるとの見方を示した。

 また記者団からアメリカのCDC(疾病予防管理センター)が内部文書で、デルタ株の基本再生産数が非常に高い数値で水疱瘡とほぼ同じ程度と指摘していることの見解を問われ、「この変異株の感染力が極めて高いことはすでに明らか。諸外国の経験を踏まえれば、ワクチン接種が進んだからといって、対策を急に緩めていっぺんに解除することは絶対にしてはいけない」と指摘し、国民の多数がワクチン接種を済ませた後も対策を続け、徐々に緩和していくことが必要だと述べた。

(写真出典:首相官邸ホームページ)

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