スクープ!中国共産党員機密名簿195万人を入手|山崎文明 日本企業にも深く浸透する中国共産党員。今回、漏洩した党員195万人の名簿を詳細に分析したところ、衝撃的な事実が浮かびあがってきた。習近平による「目に見えぬ侵略」は確実に進んでいる。危機感の全くない日本よ、目を覚ませ!

共産党内部の犯行か

2020年末に、中国共産党員の名簿が漏洩したという衝撃の事実が発覚した。いままで中国共産党員の名簿は極秘とされ、一般の目に触れることは決してなかった。CIAをはじめとする西側諸国の諜報機関が何としても手に入れたいであろう名簿が、ついに漏洩したのである。

中国共産党員名簿は各省ごとにデータベース化されており、完全にオフラインの環境下に置かれ、厳重に管理されている。今回、そのデータベースに直接アクセスできるおそらく内部の人間によって初めて持ち出され、西側諸国の知るところとなった。このことは、中国共産党員のなかにも習近平の独裁政治に対する抵抗勢力が芽生えていることの証でもある。

2020年12月30日には、日本経済新聞が中国共産党員の名簿とされる200万人弱のデータを「対中政策に関する列国議会連盟」(IPAC)が各国と共有していることがわかったと報じた。 IPAC(Inter-Parliamentary Alli-ance on China)とは、中国と民主主義諸国間の交渉のあり方の改革を目的に、民主主義諸国の国会議員らによって設立された国際議員連盟で、1989年の天安門事件発生の日に合わせ、2020年6月4日に発足した。

参加しているのは、米国、英国、豪州、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、チェコ、スイス、欧州議会、リトアニア、ベルギー、オランダ、ニュージーランド、デンマーク、ノルウェー、アイルランド、スウェーデン、ウガンダ、そして日本の19カ国。共同議長はイギリスの保守党の元党首であるイアン・ダンカン・スミスらが務めている。日本からの参加代表者は、自民党の中谷元元防衛大臣と国民民主党の山尾志桜里議員である。

IPACはその声明のなかで、中国に対して「国際ルールに基づく秩序の保護」「人権の擁護」「貿易の公正性の促進」「セキュリティの強化」「国家の完全性を保護する」ことを求めている。 (https://ipac.global#statement

そのIPACが2020年12月12日に Twitter で、「中国共産党上海支部会員登録簿の漏洩したデータベースについての声明」を発表したのだ。

IPACの事務局長プルフォード氏は、「中国専門家は中国にある各国の政府組織や企業に中国共産党員が多くいることは知っていたが、この名簿は初めてそれを証明した」と話している(https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE233QV0T21C20A2000000/)。

個人情報流出事件が頻発する中国

中国ではここ数年、大量の個人情報流出事件が頻発している。中国のセキュリティ会社、補天漏洞響応プラットフォームが2016年に発表した報告書では、60億人もの個人情報が漏洩していると推計している。

2018年8月には、漢庭酒店(酒店=ホテル)や全季酒店を傘下に持つ大手ホテルチェーン華住酒店集団の個人情報五億件が漏洩し、販売されるという事件が起こっている。

こうした個人情報の漏洩事件の一つとして、中国共産党員の名簿も漏洩したと思われる。漏洩した名簿は2016年4月16日現在のもので、活動家(Activists)がMySQLというデータベースから抽出したものとされているが、真偽は定かではない。インターネット経由ではデータベースにアクセスできないことから、物理的にデータベースに直接アクセスできた者がデータを抽出したと推測されている。

中国政府は日経新聞の取材に対して、「一連の報道は中国に対する言われなき誹謗中傷とぬれ衣であり、辻つまが合わないうえ、根拠を欠いている。その本質は中国への敵対感情をあおり立て、イデオロギーの対立を作り出すことにある」とのコメントを出している。

だが、データの入手に成功したオーストラリアに拠点を構えるサイバーセキュリティ会社「インターネット2・0」では、オーストラリア政府ならびにイギリスのタブロイド紙オールオンサンデーなどと協力して、名簿にある複数の人物の身元の実在を確認したとしている。そのなかには上海の米国領事館で働く漢民族の大卒女性3名が、国営の人材派遣会社上海市対外服務有限公司からの派遣であることも確認されている。

正確には195万7239人

今回、筆者が所属する情報安全保障研究所がこのデータを独自に入手した。それは、香港人や台湾人、法輪功の関係者などがよく利用するチャットルームに掲載されたもので、スプレッドシート(Excel形式)に加工されており、ファイルサイズは154・3メガバイトと非常に重い。プロパティ(ファイル作成情報)には何の記載もないものである。

データは全て中国語で書かれており、上海を中心にした約8万の中国共産党支部とそれらに所属する党員の名前、性別、民族、出身地、所属する中国共産党の支部、住所、党員番号、最終学歴と電話番号、そして身分証番号が記載されている。

これら極めて詳細なデータからみて、日経新聞が報じた「200万人弱のデータ」と同一のものであると見てまず間違いない。その報道では200万人弱とされているが、正確には195万7239人である。

なお、インターネット2・0が名簿を入手したことを公表したのが12月20日だが、Twitter上でその2日前の12月18日に Gus Skarlis というソフトウェア開発会社の社長が、唐突に「I put up the CCP list on list.gusskarlis.com so you can search people.」(中国共産党員のリストをlist.gusskarlis.com にあげたから検索できるよ)と呟いていることが判明した(Twitter はその後削除)。

公開されたデータは英文でデータベース化されており、名前や民族、最終学歴などで検索できるようになっている。情報安全保障研究所が独自に入手したデータと身分証番号で照会してみたところ情報が完全に一致、同じデータを元に作られたものと判断できる。

中国共産党はこれまで党員データの詳細を公表したことはないが、党員は2020年時点でおよそ9200万人と推計されている。今回、漏洩した上海を中心とした中国共産党員の名簿は全党員の2・1%に過ぎないが、このデータの分析を試みたところ、衝撃的な事実が浮かびあがってきた。

98・9%が漢民族

そもそも中国共産党員とはどんな存在であるかが、一般にはあまり知られていない。

まず、党員になるためには、「満18歳で、党費を期限どおり納めること」が大前提とされる。これは「中国共産党規約第一章第一条 党員」に定められている。党費を期限どおり納めることを第一の党員資格に定めることが中国共産党らしい。

中国共産党の党員は、「永遠に勤労人民の普通の一員」であるとし、その特権階級であることを否定したうえで、正式党員2名の推薦が必要で、支部大会での可決と上級の党組織の承認を受けたあとに1年間の予備期間の査察と教育を受けて、初めて正式な党員となることができると定めている。この推薦制度は、中国共産党が漢民族で占められる大きな要因となっている。

中国は漢民族が統治している国であり、推薦する中国共産党員もほとんどが漢民族であることから、中国共産党員は圧倒的に漢民族が多くなる。事実、今回の漏洩データの98・9%は漢民族であり、まれに朝鮮族、蒙古族、士家族が散見される程度だった。

法律で「中国人は全員国のためにスパイ活動を行え」

問題は、党規約第一章第六条にある。予備党員(中国共産党への入党を希望するもの)は必ず党旗に向かって入党宣言を行わなければならないとしたうえで、こう誓うことだ。「党員の義務を履行し、党の決定を実行し、党の規律を厳守し、党の機密を守り、党に忠誠をつくし、積極的に活動を進め、共産主義のために終生奮闘し、いつでも党と人民のために全てを犠牲にする用意があり、永遠に党を裏切るようなことをしない」

ここで思い出されるのが、中国国家情報法である。2017年6月に中国で施行された法律で、国民の権利義務として第七条で「国民と組織は、法に基づいて国の情報活動に協力し、国の情報活動の秘密を守らなければならず、国は、そのような国民及び組織を保護する」ことを定めている。

中国人は全員国のためにスパイ活動を行えとするこの法律は、中国の組織および国民に課せられたもので、たとえ経営者が中国共産党の意に背く考えを持っていたとしても、従業員が中国人であれば企業の情報が不正に持ち出されてしまう可能性が大いにある。

中国人従業員に「愛国無罪」の考えが芽生えてしまえば、組織としてのガバナンスも効かないのだ。 とりわけ党旗に忠誠を誓った中国共産党員にしてみれば、中国国家情報法がなくとも、中国共産党の発展のためにスパイ活動を行うなどは朝飯前のことではないだろうか。

教職員のほとんどが中国共産党員

今回入手したデータから見えることの一つは、中国共産党の支部は、あらゆる業種、業態の企業や団体に存在するということだ。

企業などの職場ごとに一つの支部が作られているのだが、目につくのは幼稚園や小、中、高と学校に多数の中国共産党員が送り込まれていることである。一つの学校に30人、40人の中国共産党員がいるということは、教職員のほとんどが中国共産党員だということではないか。幼い頃からの共産主義教育に中国共産党が力を入れていることが、このデータからも読み取れる。

また、大学生や大学院生にも大勢の党員がいるのがわかる。特に中国共産党が力を入れているとみられるのは、材料工学分野だ。「131材料科学部修士学生会支部」から始まって「材料党支部」や「材料博士第一支部」、「材料大学院支部」まで「材料」と名のつく支部に1083名の中国共産党員が在籍している。これらの事実は、中国共産党が党員を計画的に教育や産業分野に重点的に送り込んでいることの証だろう。

ファイザーやアストラゼネカにも

外国企業では、ファイザーに69名、アストラゼネカに54名の中国共産党員が属している。このうちファイザーの三十名、アストラゼネガの三十九名の名簿には住所や党員番号の記載がない。これらの情報が伏せられている人物は諜報部員と思われる。

その他、エアバスに79名が、ボーイングには379名の中国共産党員が所属しており、ほぼ全てで住所や党員番号の記載がない。

また、マスクで話題となった3Mに175名、IBMに798人が所属している。IBMは2014年に、中国政府によって中国国内の銀行に対してサーバー等のIBM製品の使用を禁止されたり、2022年までに公的機関からの外国製IT製品を排除するとの中国政府の方針が出されるなど苦境に喘いでいるが、それでもなお798名もの党員が働いている。中国共産党にとって、やはり注視すべき企業なのだろう。

日本企業にも深く浸透

一方、日系企業に属する中国共産党員は、8割が製造業である。トヨタ、富士通、日立、リコー、パナソニックなど、日本を代表する大企業を含め、約300企業におよそ5000人の党員が活動していることがわかる。

三菱電機(118名)や三菱商事(35名)など三菱グループだけでも相当数の党員がいるが、特段に多いのが三菱UFJ銀行である。

三菱UFJ銀行第一支部、第二支部、第三支部合わせて党員96名が在籍。ちなみに、これらの党員は全員漢民族である。 三菱UFJ銀行の場合、深や武漢など15都市に店を構えているが、上海だけでも100名近い党員がいることがわかる。第一支部、第二支部、第三支部とは上海本店、上海分行、上海自貿試験区出張所に対応していると思われる。これだけの数の中国共産党員がいるなかで、企業機密が守れるのかと考えたときに肌寒さを覚えるのは筆者だけだろうか。

人材派遣会社に8354人が登録

特に警戒を要するのは、人材派遣会社だろう。 「中国共産党上海市対外服務有限公司」と名のついた共産党支部だけでも、8354人もの共産党員が登録されている。「上海市対外服務有限公司」(SFSC:Shanghai Foreign Service Co., Ltd.)は1984年に資本金1億200万元(約17億円)で上海市に設立、上海市内に十拠点を構え、中国全土31省に110の提携先をもつ、創業37年の外国企業専門の人材派遣会社である。

株主は上海市国資委などが出資している万博集団で、完全な国有企業である。最近の売上は公表されていないようだが、2007年の売上は1725億円。

ホームページを見ると、トヨタ、日産、マツダ、三菱商事、伊藤忠、丸紅、住友、リコー、コマツ、日立、富士通のロゴが並んでいる。8354人のうち551人は「日本商事部」という委員会支部に属しており、これらの人材は間違いなく日系企業に派遣されていると推測される。
https://img.efesco.com/mix/product/jpindex.jsp

東レ炭素繊維流出事件の衝撃

2020年12月、東レの子会社、東レインターナショナルが、数年前から外為法上の許可を得た販売先ではない中国企業に炭素繊維を流出させていたことが明らかになった。

炭素繊維はコールタールなどの副生成物を原料に高温で炭化して作った繊維で、1959年に日本人が発明したものである。鉄よりも軽くて丈夫なことから航空機や自動車などに使用される材料であるが、軍事転用も可能なため、輸出する際には国の許可と輸出先の企業や使い道を厳しく管理されている。

今回の事件は、中国の現地子会社および現地社員に取引審査を一任していたことが原因だ、と東レは説明しているが、現地社員が中国共産党員であれば起こるべくして起こった事件である。

漏洩した今回のデータからも、本気でわが国の安全保障や知的財産を守る気がないことがわかる。 「ナノテクノロジー」の基礎研究を行っている東レ先端材料研究開発株式会社には博士課程を修了した者が2名、大学院卒が11名、大学卒4名、高校卒1名の計18名の上海党支部・共産党員が在籍している。こちらも全員が漢民族である。

こうした材料研究によって、わが国の費用で中国人に先端技術を研究させ、その成果もまた中国に帰属することになりはしないのか。深刻な懸念を拭い去ることはできない。東レは「子会社に対するコンプライアンスやガバナンス、安全保障貿易管理を会社の優先事項として対応してきたつもりだが、今回の不祥事を防げなかったことは遺憾だ。子会社に再発防止策を徹底させる」とコメントを出しているが、事件は氷山の一角でしかないと思わざるを得ない。

子会社から中国共産党員を排除しない限り、同じことが繰り返されるのではないか。経済産業省は東レに対して、貿易経済協力局の名前で、行政指導のなかでは最も重い処分として、再発防止策と厳正な輸出管理の徹底を求める警告書を出しているが、警告書だけで済む問題だろうか。政府や企業の本気度、危機意識が問われる。

なお、「中国共産党上海市対外服務有限公司」は各国の大使館や外国メディアにも中国人の人材を派遣している。こうした実態を政府やメディアはどう捉えているのだろうか。

入国を制限したアメリカ

米国務省は2020年12月2日、中国共産党員への渡航ビザ(査証)規制を厳格化した。中国共産党員およびその家族が取得できるビザは、いままで最長10年有効のビジター用数次ビザだったが、これを一回限りのビザで滞在期間も1カ月に変更された。北京の米国大使館報道官は、声明でこう述べている。

「中国共産党とその党員は、プロパガンダや経済的な威圧など悪質な活動を通じ、米国民に影響を及ぼすために積極的に動いている。中国共産党には、何十年にもわたり米国の機関と企業への自由で拘束されないアクセスを認めてきたが、中国国内で米国民が同じ特権が自由に与えられたことはなかった」

むろん、米国政府が完全な中国共産党員のリストを持っているわけもなく、ビザ発給時点でビザ申請者が中国共産党員であるかどうかわかるわけではない。したがって滞在期間を制限することはできないが、発覚した時点で違法な入国として捕らえることができるから、中国共産党への圧力となることは間違いない。

日本政府が同じようなことをしようとすれば、党員リストを待っていることや人権が争点となり、法改正はできない虞(おそ)れがある。しかし、党員リストの有無や人権云々ではなく、中国共産党員に対する牽制を目的とする米国の姿勢を学ぶべきだ。

今回漏洩した中国共産党員のデータによって、多少なりとも中国共産党の実像が掴めたと言える。日本政府も諜報活動に磨きをかけて中国共産党の動きを捉え、民間企業へもその情報を提供できるようにすべきだ。そのためには、スパイ禁止法や諜報活動が堂々と行えるよう法改正を急ぐべきであろう。

中国による「目に見えぬ侵略」は、日本でもすでに始まっているのだ。
(初出:月刊『Hanada』2020年5月号)

山崎文明

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