1位になっても当選できないことがある?!これまで再選挙になった首長選

投票,選挙イメージ

横浜市長選挙は8月8日告示、22日投票の日程で予定されています。今回の横浜市長選は現在、10人程度が立候補を表明しており、保守の分裂や争点の1つであるIR誘致反対を掲げる候補が複数立候補する可能性があり、混戦となることが予想されています。このような混戦状態では当選者なしという結果になることも考えられます。今回はなぜ、有力候補が多数出ると当選者なしという可能性があるのかということや過去の首長選でこのような事情で当選者なしとなった事例について紹介します。

1位でも当選できない: 法定得票数とは

市長選のような首長を決める選挙では得票数が1位の候補者が必ず当選すると思われがちです。しかし、1位の候補者であってもある条件を満たさないと当選することはできません。その条件とは法定得票数以上の票を得ることです。法定得票数は公職選挙法第95条で規定されているもので、選挙によって異なり、最低でもこの数以上の票を得ないと当選することはできません(表参照)。

首長選では有効投票数の1/4以上、つまり25%以上の得票をできないと当選することはできないのです。得票した順位を見れば当選したかのように見えるものの、法定得票数に届かなかったことで当選とならなかったという事例は地方議会選では珍しいですが、まれに見られます。しかし、首長選ではかなり珍しくわずか6例しかありません。

衆議院、参議院の比例区はなし

首長選で誰も法定得票数に届かない場合は、後述する例外を除いて50日以内に再選挙を行うことが規定されています(首長選以外の選挙についても再選挙をする条件や規定がありますが、ここでは割愛します)。しかし、この再選挙は上位候補の決選投票というような形ではなく誰でも立候補できることになっています。このため、再選挙においても誰も法定得票数に届かずに再々選挙になる可能性を秘めています(ただし、首長選で再々選挙が行われた事例はありません。地方議会選では1971年の大阪府議会選 河内長野市選挙区で再々選挙が行われた事例が存在します)。

唯一の政令指定都市の市長選での当選者なし: 2003年札幌市長選

首長選で誰も法定得票数に届かなかった6例は全て市長選と町長選ですが、その中で最も自治体の規模が大きいのは2003年の札幌市長選です。これは今のところ唯一の政令指定都市の市長選で起きた事例です。
札幌市長選は1959年から市長が引退時に助役を後継者に指名してその人物が当選するということが続いていました。しかし、この2003年の選挙では市長は引退したものの、後継者を指名しなかったのです。

このような状況で自民党を含めた様々な勢力で分裂が生じるなどの様々なことが起き、有力候補者が乱立した状態になったのです。さらに候補者が政党色を薄めた結果、どの党が誰を支援しているかということが有権者に分かりづらくなったことなどの事情が重なり、7人が立候補して誰1人として法定得票数に届きませんでした。なお、再選挙は4人が立候補し、誰も法定得票数に届かなかった選挙で1位であった候補者が当選しています。

1年以上町長が決まらなかった: 1992年広陵町長選

町長選で誰も法定得票数に届かなかった結果、約1年半も町長が不在になったというとんでもない事例が存在します。奈良県の広陵町では、1991年に公共工事をめぐる汚職事件が発覚して町長が逮捕されて辞職に至りました。この辞職を受けて1992年に町長選が行われ、7人が立候補しました。大半の候補者は町の有力者で各地区の代表としてそれぞれの支持基盤を持つ有力候補でした。大乱戦となった結果、誰1人として法定得票数に届きませんでした。そして、近日中に再選挙が行われると思われていました。

しかし、52票しか獲得できず最下位であった町外在住の候補者がこの選挙に対して選挙執行に落ち度があったと町選挙管理委員会に異議申し立てをしたのです(なお、異議申し立てをした候補は奈良県各地の選挙に立候補をしていた様々な黒い噂があった人物の親族でした)。公職選挙法では異議申立や訴訟が行われているときは裁決が確定するまでは再選挙を行うことができないと規定されているため、再選挙をすぐに行うことができず、町長不在の状況が続いたのです。

『「その選挙結果に異議あり!」選挙結果への異議申し立ての結果、500票差が入れ替わった地方選挙があった…?!』で紹介したように、町レベルの選挙では選挙結果に異議がある場合、町選管に異議を申し立てをし、その結果に不満がある場合は都道府県選管に、さらに不満がある場合は高等裁判所に、そしてさらに不満がある場合は最高裁判所で争うという形になります。この広陵町長選で異議申し立てをした候補は最終的に最高裁まで争ったため、この係争は長引きました。

この長期間にわたる町長不在の状況に町は混乱し、当時の自治大臣が過去の裁判をもとに係争中でも再選挙を実施するべきと発言した他、広陵町議会や奈良県議会が公職選挙法の整備を要望する意見書を可決するなどといったことも起きました。しかしながら、裁決が確定するまで再選挙は行われず、最高裁による棄却という確定まで約1年半を要し、このような長期間にわたって広陵町は町長不在という状態になっていました。なお、再選挙の立候補者は3人だけになったため、再々選挙にはならず、長期間にわたる町長不在という状況は終わったのです。

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