「またか」。怒りあらわのパトロール。山林には希少種狙う昆虫トラップが。虫取り網を持って現れた男性は「この程度で生態系は壊れない」と聞く耳持たない〈未来への提言 奄美・沖縄世界自然遺産〉

ススダジイの大木に集まるアマミマルバネクワガタ

 7月上旬の夜、山林に囲まれた伊仙町の町道。車1台通るのがやっとの暗闇に、レンタカーが止まっていた。山林を見上げると樹上約4メートルの枝に、昆虫捕獲用のトラップ(わな)が仕掛けてあった。

 わなは、バナナを入れたストッキング。クワガタなど約10匹がへばり付く。数メートル間隔で樹木に仕掛けられ、パトロール員の美延治郷さん(65)は「またか」と怒りをあらわにした。

 ここは奄美群島国立公園の特別保護地区ではなく、捕獲は禁止されていない。だが、徳之島固有種のヤマトサビクワガタなど条例で捕獲を禁じた昆虫が生息する。

 虫取り網を持った男性がレンタカーに戻ってきた。美延さんが「生態系を守るためにも島の宝を捕らないで」と声を掛けると、関東から来たという男性は「自分たちが採取した程度で生態系が壊れるとは思えない」と聞く耳を持たなかった。

■わな設置急増

 環境省によると、世界自然遺産の島として注目を集めて以降、徳之島や奄美大島で昆虫捕獲用のわな設置が増えている。昨年は新型コロナウイルスの影響で減ったが、今年は昆虫の活動が活発になる梅雨明け以降、急増している。同省や美延さんは遺産登録前の“駆け込み採取”とみる。

 希少な昆虫はネットオークションに高値で出品され、奄美大島、徳之島固有種で捕獲が禁止されているアマミマルバネクワガタは1匹2万6500円で落札されている。

 昆虫ほど多くないものの、希少なランなど植物の盗掘も絶えない。地元住民がパトロールを続けているが、密猟・盗掘が疑われる人物と出くわしても注意を呼び掛けることしかできない。

 記録が残っている2003年以降、鹿児島県警が希少動物捕獲容疑で逮捕したのは1件。違法わなは数多く確認されているものの、摘発までは至らず、奄美市のパトロール員、榮厚博さん(66)は「規制を強化して摘発を増やしてほしい」と訴える。

■大量持ち出し

 希少動植物の持ち出しを水際で防ぐ対策も不十分だ。

 船会社は手荷物検査をしておらず、抜け道になる可能性がある。航空会社は機内への生物の持ち込みを禁じる社もあれば、逃げ出さないよう管理した上で鳴き声を出さない動物であれば持ち込める社もある。

 7月上旬、奄美空港で、200匹近いシリケンイモリを機内へ持ち込もうとした乗客がいた。空港から連絡を受けた環境省職員に、乗客は捕獲が禁じられた場所や種ではないことを説明。飛行機に乗り込んだという。

 環境省奄美野生生物保護センターの後藤雅文・離島希少種保全専門官は「捕獲が禁じられていないエリアでも一度に大量の生物がいなくなれば生態系が崩れる」と指摘。「このまま島外への持ち出しや密猟が続けば、より厳しい規制が必要になる」と警告する。

バナナを入れた昆虫捕獲用のトラップに集まるクワガタ=7月5日、伊仙町

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