エンタメの横顔 — 80年代の音楽シーンを大きく変えた「MTV」の衝撃と余波  40年前の今日 - 1981年8月1日 MTVが米国で開局

ミュージックシーンを大きく変えたMTVの衝撃

80年代の頭に、その後のミュージックシーンを大きく変えた3つの大 “発明” があります。「ウォークマン」、「CD」と「MTV」。ウォークマンは1979年ですが。その3つのことに触れずに音楽を語ることなんてできなかったのに、今やその3つとも影が薄くなってしまっていますからね。なんともはや。The Times They Are a-Changin'。時代は変わる。

1981年8月1日に米国で生まれたMTVは、まもなくすごい影響力を発揮し始め、曲を売るにはまず面白いミュージックビデオを作ることだ、とポップミュージックに新しい売り方を提供したばかりか、それを最も強力な手段にまで押し上げました。

ただ日本では、ケーブルテレビというものが未発達ということで、1992年に衛星放送が始まるまでは、地上波の真夜中に一部放送されるのみでした。まあ「ベストヒットUSA」や「ポッパーズMTV」、音楽に力を入れたテレビ神奈川(TVK)などもあり、ミュージックビデオを観る機会は確実に増えましたが。

それだけでもインパクトは充分だったんでしょうね。当時レコード会社で洋楽を担当していた人が、「MTVの誕生により、(海外アーティストが)みんな質の高いミュージックビデオを作るようになり、テレビ局は洋楽番組を手軽に作れるようになった。日本で初めて洋楽がお茶の間に流れ出した」ので、洋楽マーケットが飛躍的に広がった、と語っています。

私の初の海外旅行は1982年のニューヨークでした。ほとんどあらゆるものが物珍しかった中、宿泊したフラットにあったテレビで、初めてMTVを観ました。プリンスの「1999」が何度も流れていた記憶があります。旬の洋楽が次々と、そのアーティストの姿とともに、観れて聴けるなんて、だんぜん “洋高邦低” だった私には理想のメディアだと思えました。

ビデオの内容自体もどんどん進化しましたね。俳優のような演技。映画のようなセット。アニメーションや CG の利用。ゴドレー&クレームのようなセンスある監督の出現……。

視覚と聴覚の違い、音楽の力を弱めてしまったミュージックビデオ

でも、ある時から私は飽きた。ようやく日本でもMTVが本格的に観れるようになった頃には、お金を払ってまで視聴契約をする気などまったく消えていました。

人間やはり、耳よりも目からの情報収集力のほうが圧倒的に強いです。だから映像があると楽しいし、記憶にも残りやすく、それがMTV大成功の理由でもあったわけです。しかし記憶に残りやすいがゆえに、何度も観たいとは思わない。映画を続けて何度も観れないのと同じです。

だけど音楽だけなら、好きな音楽なら何度でも聴きたくなる。音だけの情報は忘れやすいからです。ギターが印象的だったとか、ドラムがかっこよかったとか、言葉にできる印象は残せますが、その実際のニュアンスはボンヤリとしか憶えていられません。ただ、気持ちよかった、だからもう一度聴きたい、となるわけです。そして聴くたびに、それまで気づかなかったことを発見したりもして、それがまたうれしい。

ミュージックビデオは「音楽に映像がついたもの」という認識があるから、映画の BGM などよりは、音楽に意識がいっているでしょう。しかし、脳の性質上、どうしても映像に情報収集力を使ってしまう。そのぶん、音楽からの情報はちゃんと受け取ってないのです。でも映像をしっかりと記憶するから、一度観ると、なんだかその曲を把握したような気になってしまう。

また、音楽だけを聴いていると、映像脳はヒマですから、脳裏になんらかの映像を作ったりします。それは抽象的なイメージかもしれないし、海とか草原などの風景かもしれません。聴くたびに違うかもしれないし、いつも同じような映像かもしれない。ともかくそれは、自分がその音楽により深く入り込んでいるから生まれてくるのです。ところが、出来合いの映像があると、自分の想像は働きません。つまりミュージックビデオは、音楽自体のパワーを弱めてしまっているのではないでしょうか?

そして YouTube の登場、音楽だけを聴くという行為は忘れ去られてしまうのか?

21世紀に入ると、さすがのMTVも勢いを失っていきましたが、それはやはり「YouTube」のせいでしょう。自分が好きなものを、好きな時に観たり、聴いたりできるのですから、明らかに利便性で上回っています。

しかし、MTVが作り出した、音楽を映像つきで聴くというスタイルはすっかり定着して、もはや当然のこととなりました。映像なしで音楽だけを聴くのはちょっと寂しいとか、物足りないと思う人も多いのではないでしょうか?

オーディオ機器が、特に高級なものが、さっぱり売れなくなってしまっているそうです。私が主催している「いい音爆音アワー」というイベントは、音楽だけを、いい音かつ大きめの音量で聴きましょうというものですが、毎月一回、10年も続けているのに、お客さんの数はいっこうに増えません。音楽をちゃんと聴くという行為は、もう忘れ去られようとしています。

そのイベントで今度ビートルズの特集をやるので、久々にビートルズのいろいろな曲を聴き返しましたが、解散してから50年、つまり50年以上も前にレコーディングされた音楽が、今聴いてもやっぱりいいなーと感じますし、まだ、「あ、ここのポールのベースすごいな」とか、改めて気づくこともあったりするのです。

いい音楽はそれだけで独立した芸術なのです。たまには目をつぶって、耳の穴をかっぽじって、しっかり味わってみませんか。

カタリベ: ふくおかとも彦

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