地下鉄、登山電車、路面電車に三変化 京阪大津線を楽しむ 「人と環境にやさしい交通をめざす全国大会in滋賀」から【コラム】

びわ湖浜大津駅付近の道路上を走る800系電車、旧塗装時代(写真:adigosts / PIXTA)

2021年7月17~18日にオンライン開催された「人と環境にやさしい交通をめざす全国大会in滋賀」。事務局からの連絡では、参加者は登壇者、発表者、鉄道ファン、一般市民などを合わせ550人を超えたそう。コロナの影響で実開催はかなわなかったけれど、交通や鉄道をキーワードに親交は深まりました。

前回コラムでは近江鉄道を紹介しましたが、滋賀を走る私鉄にはもう一つ、「京阪電気鉄道大津線」もあります。本稿は全国大会in滋賀での、おおつ交通まちづくり推進会会長・畑中則宏さんの報告「湖南地域(大津・草津周辺)の交通事情」を中心に、地元愛好家が大津線への思いを込めたトークセッション「京阪石山坂本線沿線の魅力を語る」も合わせ、琵琶湖岸を走る鉄路の魅力に迫ります。

大阪、京都、大津の三都結ぶ京阪電鉄

京阪といえば、社名の通り大阪と京都を結ぶ京阪線を運行する都市間の鉄道事業者。代名詞であったテレビカーや、最近は有料座席指定のプレミアムカーのサービスなどで話題をまきます。

京阪は、京都から滋賀県の県庁所在地・大津へも大津線が走りますが、京阪線と大津線は雰囲気が異なります。大津線は京都市営地下鉄東西線に乗り入れており、京都市中心部は地下鉄、京都と滋賀の境界付近は登山電車のような激しいアップダウン、さらに大津市内に入ると、普通の電車が国道上を走る区間があって、変化にとんだ旅が楽しめます。

京津線+石山坂本線=大津線

京阪大津線の路線図。京都市営地下鉄東西線乗り入れで、京阪線との直接の接続はなくなりました。地下鉄東西線から京阪線へは三条京阪での乗り換えになります

まずは大津線のプロフィール。京津線と石山坂本線の総称で、京津線は京都市山科区の御陵駅と大津市のびわ湖浜大津を結ぶ7.5キロ。皆さんご存じと思いますが、御陵の読み方は「みささぎ」(ごりょうでも変換できます)。天智天皇の山科陵に由来する駅名です。

琵琶湖畔と京都を結ぶ鉄道は、琵琶湖の水を京都に流すための琵琶湖疏水(そすい)を活用した日本初の水力発電所から電力を得て、電車を走らせた歴史を持ちます。京阪の前身の一つになる京津電気軌道は、同じ路線を計画した京都電気鉄道との確執もあったようですが、1912年に部分開業、大正年間の1925年に全通します。戦時中は戦時統合で京阪神急行電鉄(阪急電鉄)の一路線になったこともあります。

京津線は御陵から京都市営地下鉄東西線に乗り入れて、京都市右京区の太秦天神川駅まで直行します。市営地下鉄とは相互直通運転でなく、京阪側の片乗り入れです。

法令上は鉄道でなく、路面電車の軌道ながら、車両は完全に普通の電車です。京津線を走る800系4両編成は全長16.5メートル、幅2.38メートル。電車が道路上を走るのは、京阪のほかにも福井鉄道や広島電鉄、江ノ島電鉄などがあり、鉄道ファンに絶好のシャッターチャンスを提供します。

石山坂本線は琵琶湖を巻くように走る

全体ではT字型になる大津線で、上の横棒に当たるのが石山坂本線。石山寺と坂本比叡山口を結ぶ14.1キロで、全線が大津市内にあります。

車両は全長15メートルと、京津線よりやや小ぶりな600形と700形。800系は4両編成ですが、600形や700形は2両運転です。路線は琵琶湖岸を走りますす。

大津市南部を〝背骨〟のように走る

おおつ交通まちづくり推進会の畑中会長は、大津線のプロフィールを写真を交えて紹介しました

まちづくり推進会の畑中会長の発表から、大津線を解き明かします。大津市内には鉄軌道駅が何と44駅もあるそう。内訳はJR東海道線4駅、JR湖西線12駅、京阪大津線24駅……では足りません。もう1線、比叡山鉄道の4駅を加えると数が合います。比叡山鉄道は京阪グループで、比叡山坂本ケーブルを運行します。

京阪大津線は、「大津市南部を背骨のように走る」と、いかにも地元の方らしい形容で、鉄道(軌道ですが)の性格を表現していました。京津線の特性を表すのが、「途中、61‰(パーミル)の急こう配もあります」の説明。61‰とは1000メートル進んで61メートル登る勾配のこと。ちなみに山岳鉄道で知られる、神奈川県の箱根登山鉄道の最急こう配は80‰。この京阪京津線、実は隠れた山岳鉄道なのです。

京阪大津線とJR東海道線が役割分担

1969年の江若鉄道の廃止から1997年の京都市営地下鉄東西線開業までの京阪大津線の歩み

京阪大津線の歴史については、畑中会長の発表資料に分かりやすい年表があったので転載します。一つ気になったのは1997年の京都市営地下鉄東西線の開業。京津線の地下鉄乗り入れ開始で、京都市中心部まで乗り換えなしで行けるようになったのは良かったのですが、御陵で事業者が京阪から京市交通局に変わるため、初乗り運賃が二重に掛かるようになって、運賃が割高になってしまった。

大津から京都方面に向かう鉄道で、JR東海道線と京阪京津線は京都市内に入ると路線が離れます。JR京都駅に至るJRは、東海道新幹線や近鉄京都線への乗り換えに便利。京阪は、京都市の繁華街に出るには使いやすい鉄道です。沿線の皆さんは、TPOに応じてJRと京阪を使い分けているのでしょう。

地下鉄東西線乗り入れの1997年以降の歩みは、これも畑中会長の資料がありましたので、こちらも転載します。2003年の大増発に続き、2005年には石山駅、翌2006年には皇子山駅を、それぞれ移設してJR駅と一体化。乗り換えを便利にして、利用促進を図ります。

地下鉄東西線開業から現在までの京阪大津線の流れ

大津線の短歌は21文字!?

ここからは、地元ファンが京津線や石山坂本線の魅力を披露するトークセッション「京阪石山坂本線沿線の魅力を語る」をご紹介。沿線住民を中心に構成する「大津の京阪電車を愛する会」のメンバーが、地元目線で大津線の魅力を語りました。

コーディネーターは、「青春21文字プロジェクト」の木村浩一さん。プロジェクトでは、鉄道や車窓風景を共通テーマに短歌を募集します。三十一文字(みそひともじ)の短歌は21文字ではありません。実は、21は京阪石山坂本線の駅数。鉄道への深い思いが伝わってきます。

プロジェクトの優秀作品は、
「イヤホン壊れて車窓からセミの声、夏を知る」
「ホームの先に見える空 離れる今日が一番青い」
など。滋賀県知事賞や大津市長賞の表彰もあります。

木村さんは「電車から生まれたこの活動、交通を入り口、文化・文芸を切り口、観光を出口に、滋賀県発の独自文芸として心豊かなまちづくりにつなげたい」と張り切ります。

大津線の四季をレンズで切り取る

雪景色や実りの秋を走る京阪大津線(石山坂本線)をレンズでとらえた、たけひろさんの力作

木村さんの案内で、詩情あふれる大津線を写真で紹介したのが「たけひろさん」(ハンドルネーム)。ブログで鉄道写真を数多く発表しています。

大津線沿線を区切り、「北の坂本方面は田園風景も見られる」「中央の湖岸沿いは琵琶湖を埋め立てて建設」など、歴史にも触れながら、石山坂本線の魅力を語り掛けました。

今はない江若鉄道を模型で再現

1960年代の浜大津駅界隈を模型で再現した滋賀鉄道模型愛好会のメンバー

かつての浜大津界隈を模型で再現したのは、滋賀鉄道模型愛好会のメンバーです。駅セクションのタイトルは、「江若鉄道があった時の浜大津界隈」。

滋賀県西部を走る江若鉄道は、浜大津―近江今津間(51.0キロ、ほかに浜大津―膳所間2.2キロ)を結んでいた全線非電化の鉄道。大正年間の1921年に開業しましたが、1974年に開業する国鉄(JR西日本)湖西線に役目を譲り、1969年に廃止されました。模型を見ると、線路が複雑に入り組んだ、かつての浜大津駅の活気が伝わってきます。

電気バスや自動運転バスで次世代に挑戦する京阪バス

カメラ、アンテナ、センサーなど様々な機器を搭載した京阪バスの自動運転バス

最後に京阪グループからもう一題。京阪バスは、電気バスや自動運転バスへの挑戦が披露しました。電気バスは関西電力などとの共同プロジェクトで、京都市内を中心に約630台のバスを、全車電気自動車に置き換えるプランです。

自動運転バスは、事故防止とドライバー不足対策に加え、定時運行の確保が目的。京阪バスは大津市と共同で実用化を目指し、2018年度から路線や区間を限って実証実験を重ねています。

全国大会では、ほかにも福井鉄道などの研究発表がありました。機会があれば、続報を紹介させていただきたいと考えています。

文:上里夏生
(写真は特記のあるものを除き「人と環境にやさしい交通を目指す全国大会in滋賀」の発表を筆者がキャプチャしたものです)

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