枝葉を切って

 セミの大合唱が耳をつんざく季節になると、被爆作家・故林京子さんの「枝葉を切って考えないと」という言葉が脳裏によみがえる▲9年前の真夏、神奈川県の自宅を訪ねてインタビューした。林さんの声にかぶさるように、ずっとセミが鳴いていた▲福島第1原発事故について聞くと、原発は低コストで大量のエネルギーを生む利点はあるが、それは「枝葉」。ひとたび事故が起きれば命を傷つける脅威こそが本質であって、枝葉を切り本質を見詰めれば原発はなくすしかない、と説いた。「原発と核兵器はイコール」とも語った▲核兵器で脅し合うことにより平和の均衡が保たれる、という核抑止論が世界中にはびこる。だが抑止論はシステム誤作動、サイバーテロ、独裁者の暴走といったリスクから人類を守れまい▲林さんはエッセー「すり替え論流行りの時代に」で「核問題には、核対人、生命しか存在しない。幼稚で単純だが、事実だと思う」と指摘した。核兵器の存在こそ命に対する最大の脅威だ。そこを直視しない抑止論は「核心のすり替え」だと喝破した▲シンプルに本質を見詰めれば、核兵器から人類を守るには、核を地球上からなくすしかない。「枝葉を切って考えなさい」-。猛暑の中で、セミの鳴き声が強く耳に響く。林さんの言葉のように。(潤)

© 株式会社長崎新聞社