海望む高台に大量の不法投棄。放し飼いの犬がアマミノクロウサギを捕食する。自然と生活が隣り合う徳之島の現実。「環境保全怠れば価値失われる」〈未来への提言 奄美・沖縄世界自然遺産〉

不法投棄された廃家電やタイヤ=伊仙町

 伊仙町役場から車で10分。真っ青な海を望む高台の空き地に、冷蔵庫やタイヤが無造作に放置されていた。周りに民家はない。空き地の奥の斜面を見ると、牛乳パック、総菜容器、ペットボトルなど大量のごみが覆っていた。

 「やっと回収し終えたら他の場所に捨ててある。いたちごっこ」。パトロールと撤去に当たる町きゅらまち観光課の佐藤光利調整監(62)はため息をついた。

 町は世界自然遺産を見据え、2019年度、不法投棄されたごみの回収を始めた。初年度73トンだった回収量は20年度は98トンに増えた。

 住民によると、自然遺産の登録区域になった井之川岳や天城岳の登山道には例年、初日の出を見に行った人たちが捨てた酒の空き缶や瓶が散乱しているという。

■日常的に焼却

 不法投棄は徳之島、天城両町でもあり、徳之島全体の課題だ。なぜやまないのか。役場の担当者や住民は「日常的に家の庭で焼いたり、山に埋めたりしていた習慣が一部住民に残っている」と口をそろえる。

 徳之島3町の各ごみ処理場は規模が小さく、伊仙町の処理場は違法な野焼きをしていた。03年に3町広域の焼却施設が伊仙町にできたのを機に分別が厳格化された。しかしその後もごみは捨てられ、自然分解しないプラスチック類がたまって不法投棄が顕在化した。

 「大半のごみ出しルールは守られている。一部住民の意識がなかなか変わらない」。こう語る天城町の福健吉郎企画財政課長(53)は、分別せず自宅に放置した家庭ごみ、費用が生じる廃家電など処分を面倒がる住民が捨てているとみる。

■犬を放し飼い

 徳之島ではこの数年、犬によるアマミノクロウサギの捕食も問題になっている。環境省によると、確認できただけで19年は7件、20年は2件あった。放し飼いの猫による捕食と判別できないケースもあり、実際の被害はもっと多い。

 県条例で禁じている犬の放し飼いは徳之島が突出して多く、徳之島保健所は19年度に146匹を捕獲した。県内14保健所の捕獲総数798匹の18%を占める。

 被害を減らそうと環境省は山中に設置したカメラに写った犬の情報を保健所に提供しているが、同省徳之島管理官事務所の福井俊介管理官(27)は「捕食は収束に向かっていない」と住民に適正飼育を求める。

 自然遺産の山の間近に畑や民家が広がり、暮らしと自然が隣り合わせの徳之島は、山にごみを持ち込みやすく、放し飼いされた犬も山に入りやすい。距離が近い分、環境への負荷がかかり、あしき習慣との決別が不可欠だ。

 希少野生動植物の保護活動をするNPO法人「徳之島虹の会」の美延睦美事務局長(58)は「徳之島は遺産登録された四つの島で面積が最も小さく、環境保全を怠れば遺産価値はすぐに失われる」と指摘。「登録を機に一人一人が自然を守る機運を高めなければ」と力を込める。

不法投棄のごみで覆われた斜面=伊仙町

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