【追う!マイ・カナガワ】トラックに優しくない?川崎臨海部(下)物流を軽視しないで

川崎市が利用を呼び掛ける荷待ちトラック待機所「東駐車場」。東扇島の東端にあり、トラックの数はまばらだ=川崎市川崎区東扇島

◆待機場所が足りない

 川崎臨海部に大型トラックなどが集まるのは、国内でも有数の大型物流施設や工場などが集積するエリアだからだ。

 川崎市港湾局によると、同市川崎区の人工島・東扇島は、大型船が出入港する港湾施設を持つ特色を生かし、1998年開業の「かわさきファズ物流センター」、2014年開業の「マルハニチロ物流」などを誘致し、総合物流拠点地区として開発されてきた。同地区の冷凍・冷蔵倉庫の保管能力は約100万トンに達し、川崎区内の民営倉庫事業所数は129カ所に上る。

 島内には大型車の待機場所が2カ所ある。いずれも市が10年ほど前に造ったものだが、20台程度のスペースは近くにコンビニがあり、ほぼ満車状態。一方、40~50台分の別のスペースは、不便な場所にあってコンビニからも遠いため、利用率は低いという。市は利用を促す周知に努めたいというものの、効率的に使えていないのが残念だ。

 トラック業界からは、もっと待機場所を造ってほしいという要望が根強いという。市港湾局の担当者は「東扇島にはもう土地がなく、新たに埋め立てるか、どこかほかの土地に造るしかない」と頭を抱える。

◆荷主側は準備せず

 大型工場などが立ち並ぶ浮島町、千鳥町、水江町も事情は同じだ。

 担当者は「各事業者(荷主)が駐車場を準備するものだと思われていた。しかし物流拠点を持つ企業にヒアリングしたところ、『自社の車の駐車場はあるが、トラックの分はない』と言われる。荷積み、荷降ろし用のトラックは路上に止めざるを得ないのか。荷主がしっかりとオペレートし、トラックの待機時間を減らせるのではないか」と疑問を投げ掛けた。

 大型車の運転手には通称「430」と呼ばれるルールがあり、「4時間走ったら30分の休憩」を取ることが推奨されている。全日本トラック協会は運転手が無料で駐車し、仮眠・入浴・食事ができるトラックステーション(TS)を運営する。しかし、ピーク時には約40カ所あったTSは現在は全国26カ所と減少傾向にあり、県内には東神トラックステーション(大和市上草柳)しかない。

 新たな高速道路やバイパスが離れた場所に開通するなどして利用者が減ると、不採算なTSは閉鎖せざるを得ないという。同協会の担当者は「今後も数カ所閉じる予定」と打ち明けた。

◆運転手に同情するも

 「大型トラックの路上駐車で車線がふさがれている」との声から始まった取材。運転手に非があることは間違いないが、背景には「荷主第一主義」や駐車場不足があることが浮き彫りになった。

 「運転手も行き場がない」。取材を終え、本紙に情報を寄せてくれた40代男性に報告すると、意外な答えが返ってきた。「私も、トラックドライバーをやめて15年ほどたつんですよ」

 男性は関東、東北、関西を走った。時間通りに到着しても荷物の受け入れ先から「こんなに朝早く来るんじゃねぇよ」と言われた苦い経験もある。「地方ではコンビニの駐車場が広かったり、ドライバー用の待機所もあった」

 男性は“後輩たち”に同情しつつ、諭すように続けた。「長距離を走って風呂にも入れず、大変な人は車で生活する。運転手の大変な気持ちも分かる。でも、川崎では路駐する大型車の間から道路に出ようとする車もいて本当に危ない。会社の入り口をふさがれる方の身にもなってほしい」

◆住民が安心できる日は

 記者は6月以降、何度か現場を訪れたが、7月下旬になってもトラックが並ぶ状況は変わらなかった。

 開催中の東京五輪の交通規制により配送トラックが渋滞しているとの報道も目にするが、トラックが日本経済の根幹となる物流を支えていることが軽視されていないか。ネット通販普及などで暮らしが便利になった中、運転手にしわ寄せがいっている事実から目をそらしてはいけない。

 運転手たちが安心して休める場所が確保され、川崎の道路から路駐のトラックが消え、地域住民らが安心できる日が来てほしい。

◆「荷主第一主義」脱却を

 運転手が路駐しない世の中をつくるにはどうすればよいのか。元トラック運転手でフリーライターの橋本愛喜さんに聞いた。

 路駐が起こるのは、「止める場所がない」ことが大前提。駐車場がなく、トラックステーション(TS)も減っている。

 路駐による道交法違反は、自分の切符が切られる程度で済むが、労働の規則を守らないと、運送会社からペナルティーを与えられる。荷物にちょっと傷があるだけでも返品や弁償、買い取りさせることもある。

 道交法と労働基準法、どちらを守ると言われれば運転手は労基法を守る。だから路駐し、注意されたら移動する構図がある。

 駐車場所もなく、背もたれの角度90度で8時間走り、現場に着くと荷積み、荷降ろし。重さ30キロの荷物を800袋積むこともある。若い人がトラック業界に入るはずがない。「荷主第一主義」を外から攻撃しないと変わらない。

 荷主は工場や飲料メーカー、食品メーカーといった普通の企業だが、荷主の頼みを断れず、過積載を強要され、死亡事故を起こした運転手もいた。古い体質もあり、荷主とのパワーバランスは、業界全体が容認していることもある。

 人手不足の現状に政府は女性運転手を増やす「トラガール促進プロジェクト」なんかやっている。それより荷主の協力で、運転手が荷物を積み降ろしする負担を減らせば人手は増えると思う。でも国土交通省も現場を視察してくれない。

 私もライターとして「何とかしなきゃ」と書き続けている。川崎の路駐写真を見て胸が痛い。大きくなくていいので、10台止められるTSを各地に造っていただけると少し状況が変わると思う。荷主に協力してほしい。荷主は消費者を見て働いている。その消費者に、トラック運転手のことを知ってほしい。

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