資産運用にありがちな誤解「少額投資で資産ができていると思ってはいけない」合計金額をみると…

少額資金でコツコツと。資産形成の第一歩としては大事なことですが、それだけで資産形成ができるなどと思ってはいけません。よく考えてみてください。毎月の積立金額を30年間続けたとして、果たしていくらになるでしょうか?


少額投資のスキームはいろいろ

投資信託の最低購入金額は、かつては1万円でしたが、インターネット証券なら1,000円から購入できるところも増えてきました。

「おつり投資」というスキームもあります。クレジットカードで買い物をした時に発生したと想定されるお釣りを、ロボアド運用してくれるというものです。実際にはクレジットカード決済なのでお釣りの概念はないのですが、事前に金額設定をすることによって、お釣りが発生したと想定するのです。たとえば設定金額を100円単位にして360円の買い物をした場合は、400円-360円=40円が投資に回されます。これが500円単位なら500円-360円=140円、1,000円単位なら1,000円-360円=640円になります。

全く現金を使わずに投資する方法もあります。「ポイント投資」がそれです。文字通り、買い物などをした時に溜まっていくポイントで、株式や投資信託を買い付けるというものです。

少額資金でも長期で続けていくうちに、意外と大きな金額になっていて驚いた、なんて体験談と共に少額投資のメリットが喧伝されているわけですが、正直なところを言えば、それをどれだけ続けたとしても、本格的な資産形成には不十分であるということを、まず頭に入れておいてください。

少額投資の限界

いくら何でも毎月1,000円の積立投資を何十年も続けて、安心な老後に必要な資産を築けるなどと思っているおめでたい人はいないと思いますが、改めて数字を上げて考えてみましょう。

1,000円を30年間積み立てた場合、元本部分はいくらになるでしょうか。簡単な掛け算なので、誰でも分かりますよね。毎月1,000円ですから1年で1万2,000円。これを30年間続けたとしても、投資元本部分は36万円です。はい。1か月分の生活費がせいぜいでしょう。30年もの時間をかけて積立を続けて1か月の生活費を貯めたとしても、ありがたくも何ともありません。

では1万円ならどうでしょうか。10倍なのでこれも簡単に計算できます。30年間で360万円。慎ましく生活して1年間の生活費といったところでしょうか。ただ、上記の数字はあくまでも元本部分の積み上げに過ぎません。これにリターンを加えたらどうなるでしょうか。

年平均5%で運用できたとすると、リターンも含めて積み立てられた資産は832万円程度になります。「おー、832万円。結構、お金って増えるものなんだな」と思った人もいるでしょう。でも、832万円って結構簡単に無くなるお金です。

たとえば65歳で定年を迎えたとしましょう。今のところ65歳から公的年金が満額支給されますが、いずれ70歳に引き上げられることを想定して、年金を受け取れない期間が5年間あるとします。この間、働かずに832万円を取り崩して生活するとしたら、月々いくらになるでしょう。簡単な割り算ですね。そう、13万8,000円程度です。生活できます?

積立金額は段階的に引き上げる

もちろん、お釣り投資もポイント投資も、何もしないよりはマシです。でも、これだけで資産形成をしているなどとは思わないようにしましょう。お釣り投資やポイント投資は、あくまでも本格的な資産運用をするための練習台という程度に考えておくべきです。

そして、資産形成のための積立を1万円からスタートするのは良いとしても、どこかの段階で積立金額を1万円から3万円、3万円から5万円というように引き上げていくことが大事です。

たとえば今、35歳の人が65歳までの30年計画で資産形成をするとしましょう。

運用利回りを年5%に想定し、35歳から44歳までの10年間を毎月1万円、45歳から54歳までの10年間を毎月3万円、そして55歳から64歳までの10年間を毎月5万円ずつ積み立てた場合、65歳になった時点でいくらになるかを計算すると、概算ですが1,855万円程度になります。以前、老後2,000万円問題が取りざたされたことがありましたが、まあ、それに近いくらいの資産を築くことができる計算になります。

同じ運用利回りで、35歳から39歳までの5年だけ毎月1万円を積み立て、40歳から64歳までの25年間を毎月3万円積立にすれば、概算で2,016万円程度になります。

ただし、この計算はあくまでもシミュレーションであることは忘れないようにしてください。これは次回、詳しく説明しますが、「年平均リターン」という考え方には大きな落とし穴があります。

現時点で、年5%のリターンを想定できる金融商品は、株式や投資信託などのリスク資産をおいて他にないのですが、この手の金融商品は大きく儲かる年もあれば、大きく損をする年もあります。毎年着実に5%のリターンを積み上げられれば問題ないのですが、そんなに虫の良い話はありません。そのリスクを考慮すると、年平均5%ではなく、3%程度に見積もった方が良いのかも知れません。

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