妻「夫の死後、自宅が売れない?」住宅購入時に考えておきたい相続の盲点とは

コロナ禍で働き方やライフスタイルが変化し、マンションや戸建ての購入を検討している人も多いのではないでしょうか。注文住宅の情報を発信するメディア「おうちパレット」が2021年4月に男女3,000人を対象に行った調査では、将来は「持ち家」に住みたいと答えた人は80.9%という結果でした。

住宅購入の際には多くの人が住宅ローンを利用します。その住宅ローンに今年6月、新しいサービスが誕生しました。三井住友信託銀行の「ハウジングウィル」です。注目すべきは、“住宅ローンから相続までをワンストップで提供する金融業界初のサービス”という点です。

なぜ、住宅ローンに相続なのでしょうか。三井住友信託銀行審議役の江面文朗さんに話を聞くと、住宅購入で起こる相続の注意点が見えてきました。


意外と知らない“自宅の相続”

――「ハウジングウィル」のサービス内容について教えてください。

江面文朗さん(以下、江面): 当社で住宅ローンを新たに申込みいただく際に、ご契約者に家の相続に関して自筆で遺言書を作成いただく無料のサービスです。自筆証書遺言書の保管や年に1度の見直し、不測の事態が発生した際に家庭裁判所へ自筆証書遺言書の検認の申立てをし、検認が済んだ遺言書をあらかじめ指定していた方へお渡しするまで行います。

夫と妻の二人家族で、夫が住宅ローンを契約するケースを例にご説明します。住宅ローンの契約者が返済途中に亡くなった場合、遺族に返済の負担が生じないようにする保険、団体信用生命保険というものがあります。住宅ローン申し込みの際に加入しておくことで、契約者が返済途中に亡くなっても、団信からの支払いで残りの住宅ローン返済はなくなります。

しかし、問題は相続です。遺されたご家族は住宅ローンの支払いはなくなりますが、家は相続財産に分類されてしまうため、法定相続人の共有になってしまいます。今回のケースでは夫が亡くなった場合、住宅の法定相続人は妻と夫の両親になります。

そのため、自宅を妻が相続する旨を遺言書に記載することで、夫が亡くなった際には妻が単独で相続することができます。そこまでを住宅ローンご契約時にお手伝いするサービスです。

夫に万が一の死後、自宅を売るには義両親の承認が必要!?

――契約者が亡くなると自宅が配偶者と義両親の共有財産となってしまうのは知りませんでした。そうなった場合にどのようなトラブルが想定されますか。

江面: 例えば、引越しや売却などで家を手放したいときには、義理の親の承諾が必要となってしまいます。「子どもの進学で駅の近くの家に住み替えたい」、「広い家だったけど狭い家に引っ越したい」、「家を売却して実家に帰りたい」となっても、共有者全員の同意が必要です。

その家に住み続けているのが妻だけだとしても、もし義両親が売却に反対すれば、売却がスムーズに進まないことになります。そのようなことも見据えて、ご相続発生時には妻は義両親と遺産分割協議で資産をどう分けるのか決めなければいけません。当事者同士の協議がまとまらなければ家庭裁判所に調停を申し立てるなどして解決を図ることになります。

こうならないためにも「自分の死後は自宅を妻に遺す」といった夫の遺言がとても重要になってくるのです。遺言などがなければ、単独相続を求めるために妻が「自宅を私だけの名義にしてください」と義両親に頭を下げてハンコを押してもらうのは大変な負担でしょう。義両親と疎遠になっていたり折り合いがうまくいかなかったりすることもあると思います。

個人で遺言を作成・管理するリスクとは

――「ハウジングウィル」の提供を始めたのは、そういったトラブルを防ぐためでしょうか。

江面: そうですね。そもそも住宅購入はこれから始まる幸せな生活を想定しているタイミングなので、契約者が亡くなることを考えることは少ないでしょう。当社で住宅ローンをご契約いただくお客様でも、ご契約者様の死後に自宅が共有財産になることをご存知ない方も多い現状です。

ちなみにイギリスでは34歳までで30%もの人が、60歳までで60%もの人が遺言を書いていると言われています。自分の死後の財産について遺言であらかじめ決めておくことがスタンダードな国もある中で、日本でも死後のトラブルを防ぐためにも遺言が一般的になってほしいという思いも込めています。住宅ローンを取り扱っている信託銀行だからこそハウジングウィルをご提供することでお客さまに少しでもお役に立てることができればとの思いでサービスを開始したものです。

また1年に1回、照会という機能を通じて遺言内容の見直しをするので、家族の変化を捉えてライフプランを一緒に相談させていただくきっかけづくりをしたかったというのも理由です。住宅購入は家という資産ができて住宅ローンという負債ができますから、人生のバランスシートのコンサルティングをさせていただきたいという思いもありました。

――「ハウジングウィル」を利用しなくても、たとえば「自分の死後、自宅は妻のものとする」という内容の遺言書を書いて自宅に保管していても相続は有効なのでしょうか?

江面: もちろん有効です。ただ、当人の死後に遺言を発見した人が家庭裁判所に届け出て検認を請求しなければ自筆証書遺言は有効になりません。そのため家族に遺言の場所を共有しておかなければ発見されないリスクがあります。

また、ただ書けば安心というわけではないのが遺言です。ライフプランに応じて内容を見直さないと、数十年後に亡くなる際に「当時はこう思っていたけど、生前になって心境や状況が変化した」ということもよくあります。個人が遺言を作成して管理する上では、さまざまなリスクがあることも認識していただきたいです。

共働きのご夫婦も多いので、最近ではペアローンを組む方も増えています。当サービスではペアローンで申し込まれる場合でも、お互いの持ち分を残し合う内容をご夫婦それぞれが遺言に書くことができます。

独身で住宅ローンを組む方も、ご自身の死後に財産をどうするのかを考えておく必要があります。終活は晩年になってから行うイメージをされている方も少なくないでしょう。しかし、人生でも最も高額な資産ともなり得る住宅購入の際こそ、終活を意識していただきたいですね。

© 株式会社マネーフォワード