映画『茜色に焼かれる』公開記念、尾野真千子×石井裕也監督トークイベント開催!「私に映画を撮り続けたいと思わせてくれた作品」

主演・尾野真千子を迎えた石井裕也監督最新作、全国にて絶賛公開中の映画『茜色に焼かれる』は、今の世相に正面から対峙し、もがきながらも懸命に生きようとする「母の生き方」を捉えた圧倒的な愛と希望の物語。 本作が公開となった5月21日から2ヶ月経った今、改めて主演・尾野真千子と石井裕也のトークイベントが実現した(2021年7月31日、キネカ大森と横浜ジャック&ベティにて)。 この日は2劇場を回る舞台挨拶となった。劇場は公開から2カ月経った今もそれぞれ満席となり、尾野真千子、石井裕也監督が思いを語った。

キネカ大森では、今までの撮影を振り返って改めて尾野が

「コロナウィルスの影響がでてから初めて自分で参加するかしないかを決断した作品でしたし、先が見えない中で怖さもありましたが、この作品のおかげで今、ちゃんといろいろ見えている気がします。どういうものを私がやるべきなのか、見えていると思います。以前は自分一人を見ていましたが、今は全体を見れるようになっていろいろ変われた作品です」

と語り、石井監督は

「撮影が去年のちょうど今頃で、(コロナの)状況という意味では今の方が悪化しているのですが、われわれの心のあり方は当時のほうが切羽詰まっていたし、不安があったように思います。それを理解しあえたからこそ出来た映画でした」

と振り返った。

そして、主人公の良子を演じた撮影中、

「監督の目が怖かったです(笑)。私たちが演じているすべての動きを獣を狩るような目で見ているので(笑)、とても考えながらやっていました」

。それに対して石井監督は

「すごい俳優です、尾野さんは。何を考えていらっしゃるのかはちょっとわかりませんが(笑)。でもこの作品のことを理解してくれた。ここまで起こることのないはずのことが起こる時代で、こういう作品もあっていいのではないかと思いますし、不器用でもなんでも、良子が決めた生き方を貫くということを体現してくれる尾野さんという俳優は希望です」

と、笑いを交えながらもお互いをリスペクトしている姿勢を見せた。 話は撮影中にお互いがいかに「変」かを暴露しながらも、話は「芝居」の真髄へ。石井監督は

「尾野さんの芝居を見ていると、強い“祈り”に見えるときがあります。お芝居を“信じる”力が特に強い気がします。全部のカット、全部の芝居に対してテクニックではなく、作品なのか、役なのか、何かを信じていて崇高なもの、神々しさを感じています。とても信じていますよね」

という投げかけに対して尾野は、

「気持ちは画面に映らないから“見せ”なさいと言われたこともあって。そうだと思っていたのですが、年を取るにつれて徐々に気持ちが映らない・届かないのは嘘だと思いはじめました。作品を見てくれたファンの方からの感想をいただいたときに、やっぱり届くんだと。お芝居というものは嘘をやっている(演じている)かもしれないけど私たちは気持ちを届けているし、本当の気持ちでやっていることをちゃんと届けないと意味がないと思います」

と締めくくった。

続く横浜のジャック&ベティでは、

「ジャック&ベティさんには15年前からお世話になっており、自分の歴史に関わる場所で改めて舞台挨拶ができることを感慨深く感じます」

という石井監督の挨拶に始まり、来場者からの質問を受け付けるトークイベントとなった。質問者の方々にとても親しく話す尾野に、石井監督から

「尾野さんは撮影でもエキストラの方々とも普通に友達のようにお話しされてましたよね」

というコメントも。「本作はご自身のどの過去作と似ていると思いますか?」という石井監督への質問には、

「作っている人間としては、類型的に見られることが多いので、それに反発することもありました(笑)。なのでちょっと自分でもわからないです。でもこのような質問は今まで誰にもされたことがないです」

と、驚く場面も。 また、尾野への「出演される際に脚本で決められるか人で決められるのか」という質問にはきっぱり「脚本」と答え、

「石井監督の脚本には情景や言葉の中に眠っている、隠されている大切な“何か”があると思います。その脚本の中で自分が見つけたものを伝えたい、と思いました」

と監督の脚本を絶賛。また、

「今回の母親役をどのような心境で演じられたかという質問には、「自分が母ではないので、子供への愛情ってどんなものだろう、そして、この作品の母親はなぜこんな(風俗の)仕事をするのだろう、と思いました。ただ、監督や和田くん(純平役)と接するうち、母親愛のためにここまでするんだ、だから母親なんだと思いました。だんだんとそう理解することを楽しみながらやらせていただきました」

と母の愛の大きさに感嘆した。 最後には

「この作品は映画作家としてやらなければやらないこと、自分が果たさなければならいことができたと自負していて、その思いを体現してくれた尾野真千子さんと同時代に生きていることを感謝します」

と石井監督が感謝を述べると、尾野は

「私は映画を撮り続けたい、表現し続けたい、そしてこういう気持ちにさせてくれたのがこの作品でした。私はこの世界でやり続けるんだと思わせてくれた作品でした。今までやってきた作品もこれからの作品もとても大切にしたい、と思えました。本当にありがとうございました」

と締めくくった。二人にとって、貴重で、とても大切な作品になったようだ。

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